急・対本体攻略戦 03 —八方塞がり—
ジョヴェディは岩壁の裏側に回り、姿を消し、空へと飛び立つ。
『厄災』の力を使えば、彼の相手になる者はいないと思っていた。だが例えその力を使って勝ったとしても、それはジョヴェディの望む勝利ではない。
しかし、しかしだ。追いつめられてその力を使ったにも拘らず、それはマルテディという『厄災』に封じられてしまった。
——苛つく。
ワシは、ワシはこんな戦いがしたい訳じゃないのに——。
ジョヴェディは空を目指す。マルテディの探知が届かない、遥か上空へ。
そこからの急降下による『爆ぜる光炎の魔法』の爆撃。
分身体に撃たせるよりも、本体で撃った方がその威力は大きい。
——大気中の魔素は満ちた。姿も隠れている。これで散らしてやる。
十分な高さまで上がったジョヴェディは、詠唱を始めながら宙に立った。
そこに、猛スピードで迫ってくる影があった。
その影は白いマントをはためかせ、真っ直ぐにジョヴェディ目掛けて迫って来た。
(……馬鹿な、何故、わかる?)
ジョヴェディは姿を隠したまま移動する。しかしその影は方向を変え、ジョヴェディへと向かってくる。
(……見えておるのか!?)
先ほどのこともあり、ジョヴェディは慌てて自身の身体を確認するが——魔法が解けている様子はない。
だが、このままではやられる——ジョヴェディは急ぎ、更に上空へと退避した。
莉奈の視界——誠司の視界を借りた莉奈の意識は、はっきりとジョヴェディの『魂』を捉えていた。
と、その時。突然、その『魂』が視界から消える。
(……上空五百メートル、誠司さんの索敵範囲外か……)
莉奈は身を翻し、一転、降下を始めた。
それに釣られてか、追いかけるかの様にジョヴェディの『魂』は再び現れた。
(……まだだ……まだだ……)
莉奈は気付いていないフリをして、降下を続ける。そして距離を保ったまま宙に立ち止まり、辺りをキョロキョロと見回した。
(フン、見失ったか!)
ジョヴェディは嬉々として詠唱を完成させる。莉奈の周囲に魔力が満ち溢れていく——。
莉奈は唇を緩めた。奴の速度と私の速度、そして、五百メートル圏内で方がつく距離。
なにも計算をした訳ではない。これは、単に莉奈の経験則、直感、この世で一番空を飛んでいる彼女が導き出した結論。
直後、燕は急上昇する。先ほどまではわざと速度を落としていた。確実にこの間合いに持ち込むために。
急加速。ジョヴェディは理解出来ないだろう、異常なまでの彼女の空を飛ぶ技術を。
クラリスの歌声が響く。莉奈が加速する。ジョヴェディは逃げつつ魔法を振り下ろそうとするが——。
「もう忘れたの? 空は、私の場所だ。あなたは、立たせない」
光が煌めく。ジョヴェディの目に映ったのは、先刻同様、白いマントをたなびかせ彼の上に立つ燕の姿だった。
——姿を隠してもなお、ジョヴェディは空に立つことを許されなかった。
上半身と下半身が分断されたジョヴェディは姿を現し、地へと落ちてゆく——。
「セレス!」
「ええ!」
落ちるジョヴェディの姿を確認した誠司は、セレスに呼びかける。
セレスは一歩前に出て、杖を落ちゆくジョヴェディへと向ける。彼女は詠唱を完成させていた。この状況になることを、莉奈を信じて。
そして言の葉は紡がれた。
「——『焼き尽くす業火の魔法』!」
業火が渦巻く。その全てを焼き尽くさんとする炎がジョヴェディに届く瞬間——
「フンッ!」
ジョヴェディは手を振り、巨大な土の壁を出現させた。防がれる炎。
「……ちっ!」
セレスが舌打ちをする。やはり理性ある『厄災』は、一筋縄ではいかない。
地面に落ち、土中に吸い込まれたジョヴェディは、起死回生の手段を考える——。
相変わらず土塊の人形は供給され続けていく。マルテディの力では、各地の地盤沈下を抑え込むのとジョヴェディの姿を炙り出すことで精一杯だ。
(……みんな、頑張って)
目の前の土塊たちを押し返す皆を見ながら、マルテディは祈る。
と、その時突然、目の前の土中から何かが生えて来た。
「……!!」
マルテディは目の前の存在に急いで砂をまとわりつかせる。ジョヴェディの分身体だ。
彼は手早く杖を構え、先程のようにマルテディの口を狙う。邪魔が入る前になんとしてもマルテディを始末する気だ。
——ジョヴェディの強行策。しかしそれを予見していた者がいる。
「まったく、ワンパターンなんっすよ」
空間から声が聞こえた。
マルテディが驚く中、その空間から手が伸びてきて——
——ジョヴェディの口の中に、閃光玉を詰め込んだ。
その者は『姿を溶け込ませる布』を剥ぎ取り、姿を現す。
そして、その小さい身体を思いっきり屈めて——
「くらえ」
——掌底一発、ジョヴェディの顎を打ち上げた。
声も上げられないまま弾け飛ぶ、ジョヴェディの顔面。
それを見届けたジュリアマリアは、パンパンと手を払った。
「大丈夫っすか?」
「……あの、ええと、ジュリさん? でしたっけ。どうして……」
分かったのか、という質問に、ジュリアマリアは肩をすくめた。
「まあ、『嫌な予感』がしたっすから。でも、気を抜かないで欲しいっす」
ジュリアマリアは皆が戦っている方を見ながら呟いた。
「——本命の『嫌な予感』が、いよいよ始まりそうっすね」




