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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第四部 第七章
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急・対本体攻略戦 02 —私の力—





 誠司とエヌ・エーは無言で視線を交わし合う。


 ややあってエヌ・エーは息を吐き、誠司に答えた。


「『空間の管理者』なる人物は知らないけど、その昔『支配の杖』を作ったのはこの僕だ。これでいいかな」


「……そうか。にわかには信じ難いが、そういう事なんだろう。分かった。それで、グリム君は——」


 誠司が言いかけた、その時だ。誠司は地面に反応する。


「——皆、ジョヴェディが動き出す。簡潔に聞くが、『空を飛ぶ魔法』『分身魔法』『姿を溶け込ませる魔法』、そこいら辺を奴は使うのか?」


「え? え、うん、そうだけど、どうして……」


 莉奈は驚いて聞き返してしまう。何で誠司がそのことを知っているのか——。


「ああ。カルデネ君の『思考実験』だ。サラからも聞いたよ。まったく、厄介な相手だな」


 そう。カルデネは予測していた。その昔、魔法国で度々行われていた思考実験。


『もし全ての魔法が使え、魔力に制限が無い場合、どのような魔法を組み合わせるか』。


 空を飛び、姿を隠し、分身を作り、最上級魔法を撃ちまくる——。


 もし何の制限も無いとするならば、魔法に道を捧げた者の導き出す結論は、大抵同じだった。


 それとは別にあと一つ、使うべき魔法があるとのことだったが——カルデネの推測では、その魔法はジョヴェディは使用しないだろうとのことだった。


 誠司は莉奈に手を差し出す。


「莉奈、私が導く。『通信魔法』を」


「……うん!」


 二人は指を絡み合わせ、その魔法の名を唱える。



「——『想いを繋ぐ魔法』」



 そして二人は並び合い、刀を携えた。


「では、私がジョヴェディ本体の場所を逐一知らせる。言葉だけで動くのは大変だと思うが——」


「ううん、大丈夫だよ誠司さん。誠司さんは『魂』の動きを目で追ってくれさえすれば」


 莉奈は誠司の顔を見て微笑む。釣られて誠司の頬も緩んだ。


「何か考えがあるのかな?」


「まあ、ね」


 誠司は深くは尋ねない。莉奈が大丈夫だと言うのだ。なら、きっと大丈夫だ。


「——では、行くか。早いとこ片付けて、家に帰ろう。頼りにしているぞ、莉奈」


「任せて! 誠司さんも気をつけて!」


 莉奈は空中に舞い上がる。晴れやかな表情をその顔に乗せて。


 誠司は皆に振り返ることなく、声を上げた。


「皆、莉奈を助けてくれてありがとう。よければ私にも力を貸してくれ。さあ、『厄災』ジョヴェディを、滅ぼすぞ」






 地面から生えてきた、おびただしい数の土塊つちくれが人の形を取る。その中に紛れ姿を隠している分身体に、砂がまとわりついてその姿をあらわにする。


 先ほどまでと似たような状況。しかし、決定的に違う所がある。


 ジョヴェディからすれば、大気中の魔素は回復し、魔法が乱発出来る。今となってはささやかな好材料。


 しかしこちら側からすると、まず、マルテディの力により分身体の姿は見え、更には踏み出しても土に飲み込まれる心配はない。


 加えて、セレスの戦線復帰、何より、ジョヴェディの本体を察知出来る誠司の存在がある。


「ふんっ!」


 エヌ・エーにより再び供給された大剣。それを使ったノクスの投擲が、砂のまとわりついた分身体を穿うがつ。


「——『光弾の魔法』」


 エンダーの光弾が、無差別に土塊たちを粉砕する。


「——『旋風かぜ吹く氷刃の魔法』!」


 セレスの魔法が戦場の中心に現れ、渦巻き、切り刻む——。


 その様子を眺める誠司の隣に、一息ついたセレスが並び立つ。誠司は一点を凝視したまま、セレスに問いかけた。


「なあ、セレス。君だったら、ジョヴェディは何を狙うと思う?」


「セイジ……それより、私の服装——」


「なあ、セレス。君だったら、ジョヴェディは何を狙うと思う?」


「もう!……そうね、魔素も満ちているだろうし、大剣の射程外、上空からの急降下、『ぜる光炎の魔法』でかたをつけるかしら。さっきもやってたし。それに——」


 セレスは戦況を観察しながらつぶやいた。


「——分身体は恐らく全部がこちらに出ている。多分、私達の気を引こうとしているわね。だから、分身体ではなく本体による最高火力の爆撃。これに賭けると思う。あと、見て。私、背が高くなったと思わない?」


「そうか、ありがとう。なら、奴の『魂』の動きも納得だ」


「……もう!」


 膨れっ面のセレスを無視し、誠司は通信魔法を立ち上げた。


「——莉奈。奴の『魂』が動いた。岩壁の裏、こちらの死角へと移動している。場所は——」







 誠司さんからの通信を受けた私は、大地を見下ろしながら返事をする。


「——オーケー。ねえ、誠司さん。何があっても、ジョヴェディから目を逸らさないでね」


『——……ああ。君に任せる。必ず、目で追ってやる』



 誠司さんの力なら、目を瞑っても『魂』の場所はわかるはずだ。でも、それだと駄目なんだ。



「——ありがと。まあ、見ててね」



 私は返事をし、意識を集中した。



 やっと気づいたことがある。私の目覚めた『視える』能力。その力の使い方が。


 ずっと考えていた。『穴』に飲み込まれる時、そんな事考えていたっけかな、と。


 そんな事はない。私はあの時、『わあ、私、飛んでるー』としか考えていなかった。気づいてさえしまえば、単純だった。これは確かに、紛うことなき私の力。だから——





 ——私は深呼吸をし——





 ——誠司さんの視界に、私の意識を『飛ば』した。





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