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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第四部 第六章
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破・対厄災攻略戦 07 —三度繰り返される光景—





「——『火弾の魔法』!」


 セレスが魔法を唱えると、土人形の周囲に次々と火の玉が浮かび上がる。杖を振り下ろすセレス。その火球は降り注ぎ、土人形の身体を破壊する。


 次の瞬間にはセレスはもう、スナイパーライフルらしきものを取り出し身構えていた。


 そして間髪入れず放たれる一発の銃弾。


 その銃弾は別の土人形の頭を撃ち、その頭部を破裂させる。一連の動きの中で並行して行われる詠唱。


 セレスは振り返り、言の葉を解き放つ。


「——『渦巻く颶風ぐふうの魔法』!」


 その魔法は、彼女の背後から襲いかかろうとする土人形を、土へと還してゆく——。




 ——強い。



 ありふれた言葉ではあるが、セレスの戦い方を目の当たりにした者たちは、一様にしてその感想を抱く。


 先の火竜襲撃戦では竜達の魔法抵抗力の高さから、その実力は十二分に発揮されていなかった。それがよく分かる。


 もし火竜達の魔法抵抗力が低ければ、彼女の言葉を借りて言わせて貰うならば本当に『ちょちょいのちょい』だったのだろう。


「——魔女さんには負けてられねえな。ふんっ!」


 ノクスの大剣の一振りが、また一体の土人形を地面に転がす。返す一刀で、彼を掴み取ろうとした土人形の腕を斬り落とす。


 圧巻である。


 エンダーは口笛を鳴らしながら、仲間を巻き込まない位置に移動して魔法を解き放つ。


「これだけ的が大きければ、ね。——『光弾の魔法』」


 光の筋が、土人形を貫く。そんな彼に駆け寄って、すれ違いざま魔力回復薬を投げ渡すジュリアマリア。


「はいっす!」


「さんきゅ、ジュリ」


 ジュリアマリアは方向を変え、セレスの元へと駆け寄る。それを横目で見たセレスは、バッグから魔力回復薬を三本取り出して、すれ違いざま彼女に二本を手渡した。


「よろしく!」


「はいっす!」


 セレスは自身も魔力回復薬を飲みながら、爆発の魔法の力が込められた手榴弾的なものを土人形に向かって投げつける——。



 

 優勢だ。優勢すぎる。もしグリムが身を引いておらず、この状況を観察していれば、彼女なら気付きえたであろう違和感。


 土人形の供給よりも、倒す速度の方が上回っている。現在、完全に動いている土人形は二体。あと、もう少しだ。


 そんな彼らの状況を見据えながら心の中で応援を続けているマルテディの元に、一つの人影が近付いてきていた。





「頑張っているわね、マルティ」


 その聞き覚えのある声に、マルテディは信じられないという風に振り返る。


「ルネディ! 無事だったの!?」


「ふふ。驚いたかしら?」


 振り返った彼女の目に映ったのは、先ほど弾け飛び消滅した——消滅したと思われたルネディの姿だった。


「……なんで」


「さっき消えたと思わせたのは、私の影。どうやら上手く騙せたようね」


 消滅したはずのルネディは無事だった。その事実を知り、マルテディは瞳を濡らして鼻をすする。その彼女の双眸そうぼうからは、赤みが消えていた。


「……もう!……もうっ!」


「ごめんなさいね。さあ、マルティ。行きましょうか」


 ルネディはマルテディに歩み寄る。マルテディは地面に手を当てながら、不思議そうな顔をして尋ねた。


「……行くって、どこに?」


 ルネディはしゃがみ込み、マルテディと目線を合わせる。


「ふふ。それはね——」



 ルネディはクスクスと笑う。その笑顔はやがて、醜く歪んでいき——歓喜に満ちた表情で、マルテディに告げた。



「——此奴こやつらのところにじゃよ」



「!!」



 返ってきたのは老人の声。ルネディの顔が、身体が歪み、老人の姿へと変質していく。


 マルテディが動くよりも早く、ルネディだったもの——ジョヴェディの本体は、地面から取り出した杖をマルテディの口に突っ込んだ。


「……ぁ……ぉっ……ぇっ……」


 マルテディはえづきながら、必死にジョヴェディの手を、杖を押さえる。


 ——いわゆる『変身魔法』。マルテディがその考えに至った時には、もう、手遅れだった。


「フン、簡単に引っ掛かるとはのう。そんなにこの女に会いたかったのか」


 クックッと楽しそうに笑うジョヴェディ。必死に抵抗するマルテディのその瞳から、涙がこぼれ落ちる。


「……ぉ……っ……」


 気づかなかったという後悔。大好きな人の姿を形取ったという怒り。そして、自身が欠けてしまえばこの戦闘は敗北してしまうだろうという焦り。


 その混ざり合った複雑な感情でマルテディはジョヴェディを睨むが、全ては遅きに失した。


 ジョヴェディの力に押され、地面に仰向けに倒されるマルテディ。ジョヴェディの握る杖に、更に力が入る。


「……ぉ、ォ……」


 唾液を情けなく垂れ流しながらも、マルテディは最後まで抵抗をする。迫り来る終わりの時を感じながら、彼女は心の中で謝罪をした。


(……ごめんね、リナさん……ルネディやメルの分まで、私、もっと役に立ちたかったのに……)


「涙を流すほど喜ぶとはのう。クックッ。安心せい、今、送ってやる——」


 ジョヴェディが詠唱を始める。先ほどルネディやメルコレディを塵に還した、『火光かぎろいの魔法』だ。


 遠くから莉奈の叫び声が聞こえる。こちらの状況に気づいたのだろう。しかし、距離がありすぎる。


 そう、ジョヴェディはこのために、土人形を囮にして莉奈達を十分に引き離したのだ。この戦いにおける最大の敵、マルテディを確実に仕留めるために——。


「——終わりじゃ」


 言の葉が紡がれる。遠くから、莉奈がもの凄い速度で飛んでくるが、間に合わない。


 そしてジョヴェディは、終わりの魔法を口にした。


「——『火光かぎろい……」




 

 —— ざん





 ジョヴェディのその魔法は、最後まで紡がれることはなかった。


 動きを止め、目を見開くジョヴェディ。


 マルテディも莉奈も動きを止め、何が起こったのかを理解しようとする。


 やがてジョヴェディは肩口から袈裟に割れ、その背後にいた男が姿を現した。



「久しぶりだな、ジョヴェディ。相変わらず薄汚い『魂』をしているな、お前は」



 刀を振り下ろした姿のまま、その男は呟いた。


 その場にいる全員が注目する。


 その男は作務衣姿に眼鏡ごしの冷たい瞳で、逃げるように地面に吸い込まれていくジョヴェディを眺めた。


 男は血を払う所作を行い、刀を鞘に収める。


「……嘘……誠司さん……」


 莉奈は空中で立ち尽くし、その男の名を呼ぶ。


 男は声のする方を向き、宙に立つ女性の姿を認め目を細めた。



「——待たせたな、莉奈」





 ——今、歯車は、再び回り始める——。





 


お読み頂きありがとうございます。


これにて第六章完。次回より第七章「急・対本体攻略戦」が始まります。


引き続きお楽しみ頂けると幸いです。宜しくお願い致します。



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