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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第四部 第六章
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破・対厄災攻略戦 05 —名も無き者達—






「うおっぷ。こりゃひでえ。誰か、状況わかるやついるか?」


 流れ込んでくる砂嵐の中、ノクスは懸命に目を細める。


 護りの障壁が張られ石つぶてなどは防げているものの、砂の混じった風などは対象外らしい。グリーシアが新たに魔法を唱える。


「——『風を防ぐ魔法』」


 その防風魔法の効果が現れると、吹き込んでくる砂嵐はノクス達を避け、障壁内は落ち着きを取り戻した。


 続けてグリーシアはノクスに魔法を唱える。


「——『汚れを落とす魔法』」


 その魔法の効果により、ノクスの目の中の砂が洗い流される。ようやく視界を取り戻したノクスは、周囲の状況を確認した。


 グリムが振り返り、ノクスに語りかける。


「やあ、ノクス。見てみろ。はっきり言って、想定外のことが起こっている」


 見るとグリムは、自分だけゴーグルをつけていた。随分と準備いいな、と思いつつ、ノクスはグリムに言われるがままに砂嵐の中を注視する。


「……おい、これは……」


「ああ。マルテディがやってくれたみたいだ。今、ジョヴェディは、無力化させられている」

 

 先ほどまで迫ってきていた大量の土塊つちくれの姿は今はない。湧き出るジョヴェディの分身体——本来なら姿を隠しているであろう分身体も、片っ端から莉奈が両断していっている。


 隙を見て一体の分身体が『光弾の魔法』を莉奈目掛けて放つが、その莉奈を守る様にぶ厚い砂の壁が現れ、光弾を無力化する。



 ——完封。



 ジョヴェディは完封されている。今、この場では何も出来ない。




 そう、この場では。




 ジョヴェディの声が地中から響き渡る。


『……ククッ、クハハハッ! 見事じゃのう。だが、ワシの勝ちは揺るがん』


「……どういうこと?」


 莉奈は地表を睨み、その声に尋ね返す。ジョヴェディは勝ち誇ったように続けた。


『——力を解除せい。さもなくば、この周辺の村、全てを土中に引き摺り込むぞい』






 ここは莉奈が先ほどまで滞在していたジルの村。異変は突然訪れた。


 乾燥していたこの村の大地が、瞬く間にぬかるみ始めた。


 柵が、道具が、建物が沈み始める。無数の土塊達がうごめき出す。



 その絶望的な光景を村人達が茫然とした様子で眺める中——突然、この地を砂が覆い、沈下を食い止めた。





『……ほう。邪魔だてするか、小娘よ』


 ジョヴェディの声が響く。砂嵐は止み、マルテディは地面に手を当て力を解放していた。


「……あなたの思い通りには、させない」


『ククッ。沈下は止めたようじゃが、どうした。ワシを止め切れる力はないようじゃのう』


「……くっ!」


 マルテディが呻く。莉奈は彼女の隣に降り立ち、声をかけた。


「……マルティ、何が起こってるの……?」


「……リナさん。沈下は止めたけど、あの人はこの地域に大量の土塊を動かし始めた。私の力じゃ、そこまでは止められない……!」


 悔しそうに赤い瞳で地面を睨むマルテディ。ジョヴェディは高笑いをした。


『クワッハッハッハッ。そう言うことじゃ! ほれ、早く力を解除せんと、村人達の命がなくなるぞい!』


 歯噛みするマルテディ。力を解除した瞬間、大地は再び村を飲み込んでいくことだろう。


 それに例えマルテディが力を解除したとしても、ジョヴェディが素直に力を解除する保証はない。その場合、こちらが一方的に窮地に立たされてしまう。


 一体、どうすれば——。マルテディが決断を迫られた時だった。


「堕ちたな、ジョヴェディ」


 グリムが前に歩み出てくる。そして、マルテディの肩に手を置いた。


「力を解除することはない、マルテディ。このまま抑え続けてくれ」


「でも! このままじゃみんなが!」


 マルテディの訴えに優しく目を細めるグリム。そして、大地に向かって高らかに声を上げた。


「——まったく、臆病な上に卑怯者とは救いようがないな! だが、その土塊つちくれまなこで、しっかりと見るがいい!」



 無言。ややあって大地から声が返ってくる。



『……何故じゃ。何故、誰もおらん。貴様……何をしたっ!』


 状況のつかめないマルテディは不安そうな眼差しを莉奈に送る。莉奈は優しくマルテディに頷いた。


 グリムは口角を上げる。


「沈下が抑えられたのは嬉しい誤算だったが、なに、簡単な話さ。私達はキミが、卑怯で、臆病で、堕ちるところまで堕ちるのを分かっていた、それだけだよ」





 ——再びジル村。


 立ち尽くし周囲を見回す土塊達。その様子を岩場の上に避難している住民は、祈るように眺める。


 彼らは地盤沈下の恐れがあるということで、しっかりとした岩場の上に避難させられていた。


 そして今——名も無き冒険者たちが躍り出る。


「ふっ!」


 名も無き剣士が土塊を砕く。


「——『旋風の刃の魔法』!」


 名も無き魔術師が土塊を切り刻む。


 彼らはギルドの指示の下、中央部の村々に派遣されてきた二つ星冒険者だ。



 ——その数、総勢二百名余り。



 冒険者ギルド、サランディア支部長サイモンの要請を受けた彼らは各地から集まる。


 そして点在する村に振り分けられ、住民の避難、護衛の依頼を任されていた。


 本来なら明日ということだったが——そこは二つ星冒険者、ギルドカードを通しての警告に異変を感じ取り、すぐさま行動に移した。


 それはこの村だけではない、周辺の村、全てで同様に行われていた。


 彼らの実力があれば、土人形の相手をすることぐらいどうということはない。


 冒険者たちは奮う。世界の脅威に対し、自らの力が役に立てるのだ。


 中には先の火竜戦の参加を希望し、涙を飲んで帰された者達もいる。今こそ、雪辱を果たす時。


 彼らは奮う、彼らは振るう、思う存分その力を——。





『……ぐぬぅっ……!』


 ジョヴェディの呻き声が聞こえる。その大地を冷ややかな目で眺めながら、グリムは繰り返した。


「——もう一度言おう、ジョヴェディ。私達は卑怯で臆病なキミが、卑劣で下劣な手段に出るのを予測していた。ただ、それだけの話さ」




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