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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第四部 第六章
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破・対厄災攻略戦 01 —呼び止める言葉—






 土塊つちくれが盛り上がる。最初は一つ。続けて二つ。三つ、四つ。


 地面から人を形取った、無数の土塊が生えてきた。そしてその内の何体かは、ジョヴェディの姿をまとっていた——。



「やはりキミの予想通りだったな、グリーシア嬢」


「ええ。本来『分身魔法』の分身体に実体はありませんし、あそこまで独立した動きはさせられません。あの時、あなたが感じ取ったという『土の匂い』——彼は魔法で作り上げた『分身体』に『厄災』の土の力を混ぜ合わせて実体を作り、遠隔操作を可能にしていた……正解だったみたいですね」


「ああ。そして見ての通り、あらかじめ分身体を作り上げ、土の中に潜ませていたんだろうね。唱え直さなくても、供給され続ける訳だ」


 分身魔法は、維持するだけでもかなりの魔力を消費するが、反面、一度作り上げてしまえば、魔素自体の消費はそれほどでもない。『厄災』の力を組み合わせているのなら、尚更。


 今、目の前の土塊に混じっているジョヴェディは『姿を溶け込ませる魔法』は使っていない。大気に魔素が再び満ち溢れるのを待っているのだろう。


 生気のない眼でジリジリと寄ってくる土塊達。それに向かって、ノクスが前に出る。


「よし、ここは俺が——」


「待て、ノクス。キミには役割がある」


 駆け出そうとするノクスを制止するグリム。彼女は一体のジョヴェディの分身体を指し、ノクスに告げた。


「あいつだ。あの分身体が、魔法を唱えている」


「ふんっ!」


 グリムの言葉を聞き、躊躇ちゅうちょなくノクスは大剣を投げる。


 その大剣は土塊の間をぬっていき——詠唱を完成させ、姿を溶け込ませかけていた分身体を破壊した。


「どうやら奴は、この期に及んでも姿を消したいらしいな」


「……ったく。でも、どうすんだグリム。このままじゃ囲まれちまうぞ」


 こう言っている間にも土塊達は迫ってくる。グリムは背後にいるはずのある人物に向かって、声をかけた。


「まあ、仕方あるまい。さあ、少し早いが出番だぞ、エンダー。本当の『光魔法』を、見せてくれ」


「ヒュー。わかったよ、グリム。僕に任せてくれ」


 姿を溶け込ませる布が、また一枚、めくれ上がる。


 そこに現れたのは、最後にジョヴェディを塵に還す手段としてグリムが用意した切り札的存在、『光弾の射手』エンダーの姿だった。


「エ、エンダーさん!?」


 ジュリアマリアの驚く声が上がる。そんな彼女にパチッとウインクをして、エンダーは前に出た。うへえと顔を歪めるジュリアマリア。


「では、エンダー。格の違いを、見せつけてやれ」


「はは、望むところさ——『光弾の魔法』」


 その放たれた、ジョヴェディのものよりも何十倍も太い光弾は、土塊を破壊しながら一直線に突き抜ける。



「——『光弾の魔法』——『光弾の魔法』」



 次々と放たれるエンダーの光弾。それらは気持ち良いくらいに土塊を破壊し一直線に飛びまくる。


 コントロールなど関係ない。水平に飛びさえすれば、エンダーの光弾一発で大量の土塊が破壊されていく。



 ——そう、水平に飛びさえすれば。



「ぎゃっ!」


 一発の光弾が、少し離れた所で見守っていたジュリアマリアの足元に着弾する。もはやお家芸。ジュリアマリアはガルルと唸る。


「エンダーさん!? わざとっすか!?」


「はは。すまない、ジュリ。もう少し下がってくれ——『光弾の魔法』——」



 こうしたアクシデントはあったものの、エンダーの光弾は順調に土塊達を削っていく。削った先から土塊は生えてくるが、エンダーの光弾は迫り来る土塊達を押し返すことに成功していた。


 その光景を眺めながら、ノクスは漏らす。


「しかしグリム。このままじゃらちがあかねえぞ。やっぱ俺が飛び込もうか?」


 ノクスの言う通り、土塊はいくら破壊しても新しいのが地面から供給されてしまう。状況が膠着こうちゃくしているのは、傍から見ても明らかだった。


 しかしグリムは首を横に振る。


「幸いここは岩棚の上に位置しているから大丈夫だが……もしここから出たら、奴の力で土の中に引きずり込まれてしまうだろう。ノクス、今はまだ、この膠着状態を維持するしかない」


「じゃあ、私が行くよ」


 グリムの言葉を聞き、今度は莉奈が立候補をする。


 確かに空から攻撃すれば、土の中に引きずり込まれる危険は最小限に抑えることは出来そうだが——。


「……いや。キミは無理するな。今は、キミが動く場面ではない」


「……なら、いつ動くのよ」


 グリムを横目で睨む莉奈。確かにグリムの考えている通り、莉奈は空を飛ぶジョヴェディに対して特効的役割を果たせる存在だ。


 しかし、ただ指をくわえて見ていろというのは——。


「……いや……」


 珍しくグリムは口ごもる。確かに莉奈の言いたいこと、気持ちはよくわかる。こうして莉奈が焦るのも無理はない。現に彼女の耳に聴こえる歌声は、時間が経つごとに鮮明になりつつあるだろうから。



 ——大気中の魔素が、再び満ちていく。



 だが、今は莉奈は動かせない。莉奈を動かすのは、空に浮くジョヴェディと相対する時だけだ。


 グリムは唇を噛む。手札が、足りていない。


 予定よりも一日早まった影響が、重くのしかかってくる。せめて、せめて『彼女達』と接触出来ていれば——。


「グリム、ごめん。私、行ってくるよ」


「……莉奈」


 グリムは莉奈を呼び止める言葉を持ち合わせていない。いや、本当はあるのだが——それが確定するまで、彼女には言えない。


 うつむくグリムを置いて、まさに莉奈が飛び立とうとした、その時。



 莉奈を呼び止める声が、彼女を呼び止める言葉を持ち合わせる者の声が聞こえてきた。



「ふふ。そこの娘の言う通り、今はあなたの動く場面ではないわ——」



 その言葉と共に、突然、地面から影が生えてきて人の形を作り上げた。その者は、実体を帯びながらクスクスと笑う。


「——『厄災』の力には『厄災』の力をぶつけるのが当然じゃないかしら? さあ、始めましょうか」




 ——そう、『厄災』は今、復讐のために戻って来た。




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