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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第四部 第五章
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序・対魔法攻略戦 10 —誰が場所—








(……む? 何か企んどるようじゃのう)


 ジョヴェディは、離れた岩壁に固まっているセレス達の動きに気づく。


 放っておいても所詮は烏合の衆、問題はないが、念のためだ。ジョヴェディはそちらへ向かい、魔法を——



「ずいぶんと余裕だな、ジョヴェディ」



 ——魔法の詠唱に感づいたグリムが宙に跳ね、短刀で分身体を斬り伏せる。


 華麗に着地したグリムは、別の方角から飛んできた光弾を身に受けながら空へと叫んだ。


「どうした? 臆病者のジョヴェディ。そんなに怖いのか? 貴様の見下している者達が小細工をろうするのが」


「フン……ぬかせ。力でねじ伏せてやるわ」


「ほう? キミが? 私程度も倒すことが出来ない、キミがか?」


「……いい加減、黙れ!」


 怒気をはらんだジョヴェディの言葉とともに、空中に無数の火球が浮かびあがる。


 そしてその一斉に放たれた火球は、次々とグリムを打ちつけた。


「……くっ!」


 燃えさかる炎、踊る人影。その炎の中から飛び出したグリムを、雷鳴と共に光が穿つ。


 吹き飛ばされるグリム。その身体は、もうズタボロだ。彼女は使い物にならなくなった左腕を、短刀で斬り落とした。


「……ハァ……ハァ……」


「どうした、さっきまでの威勢は。随分と舐めた口を利いていたようじゃが」


「……はは。臆病者を臆病者と言って、何が悪い」


「まだ言うか!」


 一発の光弾がグリムを貫く。苦痛に顔を歪め、距離をとるグリム。そしてその彼女の傷は——すぐには塞がらなかった。


(……フン、なるほどのう。再生能力には限界がある、か)


 攻撃を繰り返すことにより、ついに露見したグリムの弱点。ジョヴェディは醜く口元を歪め、更に攻撃を激しくしていくのだった——。






 それは離れた所から見ていた莉奈も気がついていた。徐々にではあるが、確実にグリムの再生能力は落ちていっている。


(……グリム)


 莉奈は祈る様に戦いを見つめる。飛び出して行きたいのは山々だが、今はまだ、その時ではない。


 そんな中、姿を隠したジュリアマリアが帰ってきた。


「お待たせっす! セレスさんのバッグ、回収してきたっす!」


 先ほど弾き飛ばされたセレスのバッグだ。そのバッグには、穴が空いてしまっている。


「どれ、見せてくれないか」


 エヌ・エーはジュリアマリアからバッグを受け取り、観察する。角度を変え、色々な方向から眺めていたエヌ・エーだったが、やがて——


「うん。このバッグは、まだ空間先に繋がっている。細くなってるけどね。これなら何とかなりそうだ」


 ——エヌ・エーは優しく頷いた。その言葉に顔色を明るくするセレス。


「本当!? 是非、お願いするわ!」


「ああ。新しい容れ物を用意するよ。ただ、魔道具作製には少し時間がかかる。なるべく急ぐが、少し待っててくれ。あと君にも、新しく空間魔法を吹き込んでもらう必要があるけどいいかな?」


「ええ! あまり得意ではないけど、頑張るわ!」


 こうして彼女達は集中するために、岩壁の裏側へと向かって行った。残された者たちは、グリムの戦いに集中する。


 グリーシアがつぶやく。


「……彼女、大丈夫かしら」


 彼女は少しでも力になれる様、『護りの魔法』を張り直す。


「……まずくねえか?」


 ノクスがいつでも駆け出せるよう、剣を構える。


 傍から見てもわかる。グリムはもう、立っているのがやっとの状態だ。


「……リナさん……グリムさんが……」


 ジュリアマリアが苦しそうな表情で莉奈に話しかける。


 その莉奈は——拳を強く握りしめていた。


「……ジュリさん。グリムは言ってた。『私に任せろ』って。私はグリムを、信じる」






「……ぐっ!」


 グリムの右足が吹き飛ばされた。倒れ込むグリム。その彼女の両腕は、すでに無くなっていた。


「……クックックッ。大したことないのう、ホレ」


 火弾がグリムの下半身を吹き飛ばす。その反動で彼女の上半身も吹き飛び、転がり、天を見上げる格好で地面に横たわった。


「……どうした。私はまだ、生きているぞ……。粉微塵にしない限り、私は殺せない。それとも……私のことが怖いのか? なあ……臆病者のジョヴェディ」


「フン。まだ虚勢をはるか。いいだろう。望み通り、塵に還してくれるわ!」


 ジョヴェディが詠唱を始める。大気がパチパチと震え出す。光属性の最上級魔法が、今、次々とストックされていく——。


 その光景を見る莉奈達は絶望する。ジョヴェディの最大火力、『爆ぜる光炎の魔法』。


 もはや虫の息のグリムにとどめを刺す為、終わりの魔法の言の葉は容赦なく紡がれていく。


 溢れ出す魔力。収束していく大気中の魔素。


 その光景を、その弾ける光を虚ろな目で眺めるグリムの——




 ——口角が上がった。




「——待っていたよ、この時を」



「……ぬ?」


 息も絶えだえだったはずのグリムは、しっかりとした口調でつぶやいた。ジョヴェディは違和感を覚えるが、止まらない。あとは魔法を解き放つだけで、彼女の人生は終わるのだから——。



 と、次の瞬間、ジョヴェディにとって信じられないことが起こる。


 四肢をもがれて横たわっている彼女の——傷が塞がる。破れた服が修復される。右腕が、左腕が、右脚が、左脚が、みるみる内に再生される。


 ——もう尽きたと思われていた彼女の再生能力。グリムの身体は、瞬く間に再生した。


 その様子を茫然と眺めるジョヴェディ。状況を把握しきれていない彼に向かって、グリムは不敵に笑う。


「私を見ている場合か? 自分の身体をよく見てみるんだな、ジョヴェディ。身体が、透けて見えるぞ」


「……なに?」


 ジョヴェディの分身体が互いを横目で見ると——確かに彼女の言う通り、ジョヴェディの身体は、その姿を現し始めていた。


「……貴様、何をしたっ!」


 怒声と共に紡がれた言の葉、振り下ろされる魔法。それを気にすることなく、グリムは立ち上がる。


「さあ、待たせたね。姿が見えていれば、問題ないはずだ——」


 グリムは迫り来る光を背にし、天を指差して高らかに叫んだ。




「——飛び立て、莉奈! 空は、キミの場所だ!」





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