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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第四部 第五章
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序・対魔法攻略戦 06 —燕包囲網—





「……グヌゥ」


 空からジョヴェディの呻き声が聞こえてくる。


 そして恐らくは分身体だろう、忌々しげな表情をその顔に浮かべたジョヴェディが姿を現した。


 莉奈は注意深く飛び上がり、ジョヴェディに声を掛けた。


「ずいぶん早かったじゃない。どう、ケルワンは滅ぼせたの?」


「……貴様、知っておったのか……?」


「さあ?」


 表情を変えずに答える莉奈。ジョヴェディは歯軋りをしながら、魔法の詠唱を始める。



 ——四方から溢れ出す魔力——。



(……いよいよ、か)


 莉奈はゆっくりと目を閉じた。


「——『焼き尽くす業火の魔法』」


 姿を現しているジョヴェディから、火の最上級魔法が放たれる。それを莉奈は目を閉じたままかわし、ジョヴェディの元へと向かって真っ直ぐ飛び向かう。


 直後、背後から迫ってくる『光弾の魔法』を、莉奈は振り返ることなく避ける。


 そして目の前のジョヴェディから放たれる『光弾の魔法』も——


(……待ってました!)


 ——スルリとかわし、そのままの勢いで飛来一閃、ジョヴェディを両断した——。




 ——ジョヴェディがサランディア城を襲ったあの日、莉奈はエンダーから聞いていた。『光弾の魔法』、その特性、そして、選択せざるを得ない状況を。


『光弾の魔法』は『暗き刃の魔法』ほどではないが、詠唱が短いという特徴がある。例えばそれは、エンダーがレザリアと会話をしながら撃ち続けることが出来る程度には。


 なので、なんでもいい。魔法を撃たせた直後、ジョヴェディに真っ直ぐ迫れば——迎え撃つ魔法は『光弾』か『暗き刃』かの二択になる。


 そして、莉奈のまとっているマントのおかげで、『暗き刃』は選択肢から外れる。


 つまりそのケースさえ作れるのならば——ジョヴェディの選択は『光弾の魔法』一択。それさえ分かっていれば、今の莉奈なら彼の細い『光弾』をかわし、その隙に致命の一撃を与えることが出来る。




 姿を消したまま、ジョヴェディは呻く。


「……貴様、やはり見えているな、ワシの魔法が」


「まあ、ね。私に死角はないよ」


「……フン」


 再び四方から魔力が溢れ出す。今度は間が長い。恐らく、分身体に次々と魔法をストックさせているのだろう。


 しかも今回ジョヴェディは、一体たりとも姿を現していない。


(……いやいや、ずるいでしょ!)


 溢れ出す魔力が限界に達し、収束していく。そして莉奈目掛け、一斉に魔法は放たれた。




 火、氷、風、雷の最上級魔法が次々と莉奈を襲う。


 その内の一つでもまともに食らってしまえば、莉奈は死を免れないだろう。


 炎が渦巻く。烈風が炎を運び、炎刃となって吹き荒ぶ。迸る雷が行手を遮る。大気が凍りつく。


 莉奈はそれらを、旋回しながら飛びかわす。その彼女目掛けて、四方から光弾が襲い掛かる。


 それも何とか避けきる莉奈。『視界』を手に入れてなければ、全てをかわし切るのは不可能だっただろう。


 しかし容赦なく、再び放たれる最上級魔法の数々。


 莉奈は追い詰められていく。逃げ場はない。


 莉奈は周囲を観察し、凍りついた大気の部分を『防寒魔法』と妖精王のマントの効果を当てにして、一気に突き抜けて退避する。襲いかかる光弾の数々。


 莉奈は急上昇してそれらをかわす。ひと段落して、莉奈がふうと息をついたその時。



 ——さらに上空から、魔力が満ち溢れ、大気がパチパチと震え出す——。



 一瞬にして危険を感じ取った莉奈は、全速力で急降下する。


 直後。上空に次々と激しい爆発が巻き起こった。


 マルテディの砂の巨像を容易く破壊する威力を持つ、『爆ぜる光炎の魔法』。


 それから逃げるために急降下している莉奈を、『光弾の魔法』が狙い撃つ——。





 次から次へと、莉奈目掛けて狙い撃たれる魔法。莉奈は注意を一身に引きつけ躱し続けるが、余裕がないのははたから見ても感じ取れていた。


 地上からこの戦いを、祈るようにセレスは見守る。そんな彼女には、先程から一つの疑問が思い浮かんでいた。


 莉奈が来てから、彼女は何体かの『分身体』を連続で落としたはずだ。


 それ以前には、ケルワンの街にも三体の『分身体』を送ったとジョヴェディは言っていた。


「……いったい、いつ『分身魔法』を唱えているの……?」


 そう、セレスが観察した限り、ジョヴェディは『分身魔法』を唱えた気配がない。


 一つ落としても、すぐに次の分身体が供給されているような感じを受けた。事前に唱えておいたとしても、数体が限度のはずだ。せっかく作っても、意識を集中させ続けなければ、作った『分身体』は消えてしまうから。


 それに加え、彼は『分身体』をケルワンへ『遠隔操作』したという。



 ——魔法のことわりを超えている。



「……考えろ、考えろ、私。少しでもリナの力に……」


 セレスは爪を噛み、独り言を呟きながら考えを巡らす。


 ジュリアマリアも心配そうに、そんなセレスを見つめる——。



 その時、背後から突然声がした。



「考えるだけ無駄だよ、セレス嬢。あれは恐らく、『厄災』の力を組み合わせた存在だ。魔法だけの力じゃない」



 その聞き覚えのある声に、二人は振り向く。


 しかし、声のした方には誰も——。



 ——突然、何もない空間がめくり上がった。



 その『姿を溶け込ませる魔法』の力が込められた布からぴょっこりと顔を出す、ブカブカのトレーナーに首からゴーグルをぶら下げている、どこかとぼけた感じのする青髪の女性。


 二人はその人物の名を呼ぶ。


「グリムさん!」


 そんな驚いた表情を浮かべる二人に向け、グリムは口角を上げた。


「——待たせてしまったね、ようやく追いついたよ。さあ、まずは現在の状況を教えてくれ」




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