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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第四部 第三章
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何も出来ない王 03 —探り探られ—






 絶句するその場の皆さま方。グリムの能力を知っているエンダーさんだけは、「ヒュー」と口笛を鳴らした。


 完全に手応えあり、だ。私は床を眺め——徐々に魔法が解け、姿を現しつつある老人へと剣を向けた。


「あなた、本体じゃないよね」


「……ククッ……クハハハハッ……!」


 私の言葉を聞き、愉しそうに笑い出すジョヴェディ。彼の上半身は浮かび上がり、私をニヤついた目で眺めた。


「ククッ……仲間ごと斬るとは、血も涙もないのう」


「……教えて。『厄災』達を返り討ちにしたんですってね。トドメはさせたの?」


 ジョヴェディの身体が崩壊を始めている。彼は気にした様子もなく、嘲笑を浮かべながら答えた。


「フン。彼奴あやつらは尻尾をまいて逃げて行きおったわい。まだ、お前さんの方が楽しませてくれそうだ」


「そ、ありがと。なら大人しく待ってなさい。私があなたを、ちりに還しに行くから」


「……フフ、フハハ、言う言う。がっかりさせてくれるなよ? 早く来い。そして、ワシに全力を出させてくれ——」 


 その言葉を最後に、ジョヴェディの身体は完全に消え去った。


 もう大丈夫かな……? 私は、ふうと息をつく。


「リナさん!」


 グリーシアさんが駆け寄ってくる。私は安堵し、その場に座り込んだ。


「……怖かったあ……」


「リナさん! それよりグリムさんが……!」


「……あー。グリム、ありがとう、助かったよ」


「ふむ。私の意図を汲み取ってくれたようで、何よりだ」


 真っ二つの身体が喋った。ギョッとするグリーシアさんとサイモンさん。その場の皆が見守る中、グリムは身体を再生して立ち上がった。


「失礼。知らない者は驚かせてしまったね。ご覧の通りだ。私はあの程度じゃ、死なない」


 そう言いながら、辺りを注意深く窺うグリム。ジョヴェディがまだ潜んでいないか、警戒しているのだろう。


 口を開けたまま固まっている皆さんを余所に、私とグリムは会話を続けた。


「どう? いそう?」


「分からない、な。だが、実体はあるようだったからね。ちょっと失礼——」


 グリムはそう言って、鼻をスンスン鳴らしながら部屋を歩き始めた。


「どうしたの、グリム」


「——うん。なあ、莉奈。もし『姿を溶け込ませる魔法』だった場合、匂いまでは消せないんだろう?」


 そうだ。確かあの戦闘狂狼と戦った時は——。


「あ、うん。ヴァナルガンドさんはそれで見破ってた」


「なら、大丈夫だ。奴からはかすかに土の匂いがした。今はそれがない。とりあえずこの場は大丈夫だろう。なに、万が一詠唱の気配があったら、今度は躊躇ちゅうちょなく動くさ」


 グリムは元の席に座りながら、皆に向け言った。我に返った護衛の兵士さんが一人、この異常事態を知らせる為に部屋から飛び出していく。当たり前だ。恐らく分身体とはいえ、『厄災』の侵入をあっさり許してしまったのだから——。


 そして、ようやく状況を把握したであろうグリーシアさんがいまだ茫然としている様子で口を開いた。


「……あの、あれって『姿を溶け込ませる魔法』……ですか? それと、実体って……」


「そうだね。今、現れたジョヴェディは『姿を溶け込ませる魔法』、そして『分身魔法』のたぐいを組み合わせた存在だと私達は仮定している。そこで、一国の魔法兵団長を務めるグリーシア嬢に聞きたい。キミの目から見て、今の私の話を聞きどう感じた?」


 その言葉にグリーシアさんはすこし考え込み、答える。


「……なるほど。確かに、大部分はそれで説明の出来る現象です。ただ、私の考えとして少しお話ししたいこともありますが……ジョヴェディの出現で、早急に対策を講じる必要があります。申し訳ないですが、少し席を外してもよろしいでしょうか」


 それは王様や城、国民を守るための対策だろう。最悪の事態を想定するなら、ジョヴェディは何処に、何人潜んでいてもおかしくないのだから。


 グリムは「ああ」と頷いて、グリーシアさんを快く見送った。




 

 それからの城内は、慌ただしさに包まれた。


 まさか、突然城の中に乗り込んでくるとは——兵士さん達の駆け回る足音がひっきりなしに聞こえてくる。


 数人の護衛の兵士さんと共に部屋に残された私達は、席について息をついた。サイモンさんも深く息をつき、首を左右にゆっくりと振りながら口を開いた。


「……感謝する。リナ君、グリム君、エンダー君。それにしても、城の中に現れるとは……」


「まったくだ。話どころではなくなってしまったな。くそっ、ジョヴェディ、あのチキン野郎め……」


 眉間にシワを寄せ、ぷんすかと怒るグリム。ん? 私は違和感を覚え、グリムの頬っぺをつまんでみる。


「なんひゃ、りにゃ」


「いや、なんかそんな敵意丸出しのグリム初めて見たからさ。あなた、本当にグリム? ジョヴェディが化けてたりしない?」


 私の言葉にギョッとする周囲の皆様。だが、グリムは私の手を優しく離し、首を傾げた。


「そうか?……まあ奴は、莉奈、キミのことを撃ったんだ。なんか許せなくてな」


「あれ? あー、もしかして心配してくれたの?」


 私はジト目でグリムを見て揶揄からかってみたが、なんだか彼女は宙を見て真面目に考え出した。


「心配……それはそうだが……ふむ、なるほど。これが『怒る』という感情なのかもしれないな」


「えっ、怒ってくれたんだ」


「……ああ、そうなのかもね。くっ、私が青髪じゃなければ——」


 照れているのか、胸に手を当て大袈裟に語り出すグリム。


 私は思う。彼女は『人の心』について悩んでいるようだが、下手な人よりよっぽど人間らしいじゃないか。場違いだがそんな事を考え、私は口元を緩ませる。


 そんな私達を見て、エンダーさんが口笛を鳴らした。


「ヒュー。あんな事があったのに、君達は大物だね。僕なんか、見てくれ。まだ、手が震えっぱなしさ」


 彼はそう言って手をヒラヒラさせた。いや、わからんって。ていうか、大物具合で言えばあなたも大したものだと思うけど。


 と、そこでグリムは姿勢を正し、エンダーさんに尋ねる。


「さて、エンダー。奴の使った『光弾の魔法』。キミのとは性質が違うように見えたが、どうかな。『光弾の射手』としての、キミの意見を聞かせてくれ」




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