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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第四部 第三章
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何も出来ない王 02 —招かれざる者—





「——『造られた存在』とは……どういうことかね?」


 サイモンさんの質問に、私とグリムは頷き合って説明をする。


『厄災』達は今は無き魔法国によって造られたこと。ルネディ、メルコレディ、マルテディの三人は、本人達の意思関係なく『厄災』にされた実験体であったこと。残りの者は自ら望んで『厄災』になったこと。


 そして——。


 ——今は空間に封じ込められている全ての元凶、『厄災』ドメーニカは『厄災』達の母と呼ぶべき存在であることを——。


『厄災』達が操られている可能性があることは、ここでは伏せておいた。理性が戻った理由も分からないし、不確かなことは伏せておこうという判断だ。



 あの時、オッカトルにいたエンダーさんは知っている話だ。『厄災』達が協力してくれた理由、それを、誠司さんが皆を集めて説明してくれたから。彼は腕を組んで、私達の説明を黙って聞いていた。


 こうして一通りの話を聞いたサイモンさんとグリーシアさんは、深く息を吐いた。


「——なるほどな。全ての原因は、魔法国にあったのか……」


「ノクスさ……ノクスウェル様から大体の話は聞いておりましたが……」


 唸る二人。その二人に、グリムは念を押す。


「気をつけて欲しいのは、私達が今話した情報は『厄災』達の言い分だという事だ。どこまでが真実かは分からない。ただ、女性の『厄災』は私達に協力的、これだけは紛れもない事実だという事を付け加えておこう」


「そうか。まあ、復活した理由が分からないのは不気味だが……その三人が人類に敵対しないようなのは何よりだな」


 サイモンさんは眉間にシワをよせながらそう言った。確かにルネディ達が人類に敵対する側だったら、既にこの地方は滅んでいたかも知れない。それほどまでに彼女達は、強かった——。


 そこでグリーシアさんが手を挙げた。


「あの……リナさんは『厄災』達を従えたと聞きました。彼女達の力を借りることは出来ないのでしょうか?」


「えと……」


 確かに、彼女達の力は欲しい。ただ、アルフさんの所にいなかった以上、私にはアテがない。それに私は彼女達を『従えた』訳じゃ——。



 私が言い淀む、その時だった。



 ——部屋に突然、声が響く。



『——無駄だ。奴らはワシが、返り討ちにしてやったわ』



 聞き覚えのない、しわがれた声。背筋が凍りつく。急激に部屋の中に魔力が満ち溢れていく——。


 エンダーさんが立ち上がり、サイモンさんを守るように立つ。護衛の兵士さんが、グリーシアさんに駆け寄る。



 ——そして声の出どころも不明なまま——言の葉は紡がれた。


『——『光弾の魔法』』


 その細く練られた一筋の光線は、皆の隙間を縫って——



「……っ……ぁッ……!」



 ——私の肩を貫いた。



「ジョヴェディ!」


 グリーシアさんが叫ぶ。私は肩を押さえてテーブルに突っ伏す。肩が焼けるように熱い。そんな私を嘲笑うかのように、いまだ姿を現さないジョヴェディの声が再び聞こえてきた。


『フン、噂になっているから様子を見にきたが……とんだ期待外れだのう、『白い燕』』


 グリーシアさんが回復魔法の詠唱を始める。護衛の兵士さんが彼女を守るように立つ。エンダーさんは辺りを注意深く窺う——。


 そんな中で、グリムがゆっくりと立ち上がった。


「ふむ。状況から察するに、キミがジョヴェディということでいいのかな?」


『いかにも。ワシがジョヴェディだ。どうだ、エリスに連絡はついたか?』


「いや、今のを見て確信したよ。わざわざエリスを呼ぶまでもない。キミには、私一人で充分だ」


『……舐めるなよ、小童こわっぱ


 グリムの挑発にのったのか、再び部屋に魔力が満ち溢れていく。不味い。ここは会合の場だ。私達は武器を、預けてしまっている。


「グリム!」


 私は叫ぶ。その声を無視してグリムは駆け出して行き——


「——そこだ」


 彼女は跳ね、何もない空間を蹴った。


 直後、ドサッという何かが床に倒れる音。そこから呻き声が聞こえてくる。


『……キサマ……なぜ……』


「詠唱中は魔力が溢れ出てしまうからね。私にとっては、丸わかりなのさ」


 床を眺め、冷たい目をするグリム。そうだ。グリムはその演算能力というやつで、魔力を発する人の位置を正確に把握できる。


 グリムは床を眺めたまま続けた。


「さて、それでは教えてもらおうか。『厄災』達を返り討ちにしたという話を。なあ、臆病者のジョヴェディ」


 グリムは煽る。と、その時だ。グリムの顔が、突然苦悶の表情に歪んだのは。


『——舐めるな、と言っておるだろう、小童。魔法なしでも、『厄災』の力は強いぞ?』


「……ぐっ……!」


 グリムは首に手を当てて苦しそうにしている。姿勢から察するに、背後から首を絞められているのだろう。


 彼女は苦悶の表情を浮かべ、もがきながら私に視線を送る。


 だが——待てよ? そんなはずはない。だってグリムは感覚を遮断出来るはず——と、いうことはだ。なるほど。


 回復魔法により傷が塞がった私は、辺りを見渡す。武器になりそうな物は——私は護衛の兵士さんに話しかけた。


「ちょっと借りるね」


「えっ?」


 私は護衛の兵士さんから半ば強引に剣を奪い、一瞬でグリムの元に飛び向かった。


 そして——



『……ぬっ、ぐおっ——!』



 ——横薙ぎ一閃。私は躊躇ちゅうちょすることなく、姿を現さない卑怯者をグリムごと両断したのだった。




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