何も出来ない王 02 —招かれざる者—
「——『造られた存在』とは……どういうことかね?」
サイモンさんの質問に、私とグリムは頷き合って説明をする。
『厄災』達は今は無き魔法国によって造られたこと。ルネディ、メルコレディ、マルテディの三人は、本人達の意思関係なく『厄災』にされた実験体であったこと。残りの者は自ら望んで『厄災』になったこと。
そして——。
——今は空間に封じ込められている全ての元凶、『厄災』ドメーニカは『厄災』達の母と呼ぶべき存在であることを——。
『厄災』達が操られている可能性があることは、ここでは伏せておいた。理性が戻った理由も分からないし、不確かなことは伏せておこうという判断だ。
あの時、オッカトルにいたエンダーさんは知っている話だ。『厄災』達が協力してくれた理由、それを、誠司さんが皆を集めて説明してくれたから。彼は腕を組んで、私達の説明を黙って聞いていた。
こうして一通りの話を聞いたサイモンさんとグリーシアさんは、深く息を吐いた。
「——なるほどな。全ての原因は、魔法国にあったのか……」
「ノクスさ……ノクスウェル様から大体の話は聞いておりましたが……」
唸る二人。その二人に、グリムは念を押す。
「気をつけて欲しいのは、私達が今話した情報は『厄災』達の言い分だという事だ。どこまでが真実かは分からない。ただ、女性の『厄災』は私達に協力的、これだけは紛れもない事実だという事を付け加えておこう」
「そうか。まあ、復活した理由が分からないのは不気味だが……その三人が人類に敵対しないようなのは何よりだな」
サイモンさんは眉間にシワをよせながらそう言った。確かにルネディ達が人類に敵対する側だったら、既にこの地方は滅んでいたかも知れない。それほどまでに彼女達は、強かった——。
そこでグリーシアさんが手を挙げた。
「あの……リナさんは『厄災』達を従えたと聞きました。彼女達の力を借りることは出来ないのでしょうか?」
「えと……」
確かに、彼女達の力は欲しい。ただ、アルフさんの所にいなかった以上、私にはアテがない。それに私は彼女達を『従えた』訳じゃ——。
私が言い淀む、その時だった。
——部屋に突然、声が響く。
『——無駄だ。奴らはワシが、返り討ちにしてやったわ』
聞き覚えのない、しわがれた声。背筋が凍りつく。急激に部屋の中に魔力が満ち溢れていく——。
エンダーさんが立ち上がり、サイモンさんを守るように立つ。護衛の兵士さんが、グリーシアさんに駆け寄る。
——そして声の出どころも不明なまま——言の葉は紡がれた。
『——『光弾の魔法』』
その細く練られた一筋の光線は、皆の隙間を縫って——
「……っ……ぁッ……!」
——私の肩を貫いた。
「ジョヴェディ!」
グリーシアさんが叫ぶ。私は肩を押さえてテーブルに突っ伏す。肩が焼けるように熱い。そんな私を嘲笑うかのように、いまだ姿を現さないジョヴェディの声が再び聞こえてきた。
『フン、噂になっているから様子を見にきたが……とんだ期待外れだのう、『白い燕』』
グリーシアさんが回復魔法の詠唱を始める。護衛の兵士さんが彼女を守るように立つ。エンダーさんは辺りを注意深く窺う——。
そんな中で、グリムがゆっくりと立ち上がった。
「ふむ。状況から察するに、キミがジョヴェディということでいいのかな?」
『いかにも。ワシがジョヴェディだ。どうだ、エリスに連絡はついたか?』
「いや、今のを見て確信したよ。わざわざエリスを呼ぶまでもない。キミには、私一人で充分だ」
『……舐めるなよ、小童』
グリムの挑発にのったのか、再び部屋に魔力が満ち溢れていく。不味い。ここは会合の場だ。私達は武器を、預けてしまっている。
「グリム!」
私は叫ぶ。その声を無視してグリムは駆け出して行き——
「——そこだ」
彼女は跳ね、何もない空間を蹴った。
直後、ドサッという何かが床に倒れる音。そこから呻き声が聞こえてくる。
『……キサマ……なぜ……』
「詠唱中は魔力が溢れ出てしまうからね。私にとっては、丸わかりなのさ」
床を眺め、冷たい目をするグリム。そうだ。グリムはその演算能力というやつで、魔力を発する人の位置を正確に把握できる。
グリムは床を眺めたまま続けた。
「さて、それでは教えてもらおうか。『厄災』達を返り討ちにしたという話を。なあ、臆病者のジョヴェディ」
グリムは煽る。と、その時だ。グリムの顔が、突然苦悶の表情に歪んだのは。
『——舐めるな、と言っておるだろう、小童。魔法なしでも、『厄災』の力は強いぞ?』
「……ぐっ……!」
グリムは首に手を当てて苦しそうにしている。姿勢から察するに、背後から首を絞められているのだろう。
彼女は苦悶の表情を浮かべ、もがきながら私に視線を送る。
だが——待てよ? そんなはずはない。だってグリムは感覚を遮断出来るはず——と、いうことはだ。なるほど。
回復魔法により傷が塞がった私は、辺りを見渡す。武器になりそうな物は——私は護衛の兵士さんに話しかけた。
「ちょっと借りるね」
「えっ?」
私は護衛の兵士さんから半ば強引に剣を奪い、一瞬でグリムの元に飛び向かった。
そして——
『……ぬっ、ぐおっ——!』
——横薙ぎ一閃。私は躊躇することなく、姿を現さない卑怯者をグリムごと両断したのだった。