表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第四部 第二章
218/625

『白い燕』待望論 11 —英雄と受付嬢①—





 エンダーさんの提案に顔を見合わせるグリムと私。いや、個人的な好き嫌いの感情は別として、三つ星冒険者が協力的なのはありがたいが——果たして私達が勝手に同席を許可していいものなのだろうか。


 それはグリムも同じ考えのようで、エンダーさんに口を開く。


「ふむ。申し出はありがたいが、私達が勝手に決めるわけには——」


「『歌姫』クラリスの居場所を教えると言ったら?」


「よし、交渉成立だ。私が何としてもねじ込んでやろう」


 ズルリ。私は椅子から滑り落ちる。二人がポカンと見守るなか私はスクッと立ち上がり、思わずテーブルを叩いてしまう。


「うおい! 知ってるなら、なんでさっき教えてくれなかったんですか!?」


 一瞬、何事かと静まり返るギルド内。エンダーさんが肩をすくめて手をヒラヒラさせると、ギルド内は再び喧騒を取り戻した。


 グリムは私の襟をつかんで、椅子にポスンと座らせる。


「落ち着け、莉奈」


「だって!」


「すまないね『白い燕』」


「……その『白い燕』っていうのやめてもらっていいですか」


「はは、気を悪くしたんなら謝るよ、リナ。まあ、あの場で言わなかったのは、あそこで言ったとしても意味がなかったからさ」


「……どういうことでしょう」


 口を尖らす私の頭をグリムがよしよしと撫でる。言っても意味がないってなんなのさ。


 その様に膨れっ面をする私を見ながら、エンダーさんは目を細めて頬杖をつき直した。


「クラリスはね、北へ行くと言っていた。ブリクセン国だ。つい先日、旅立ったばかりだから……まだ着いてもないだろうね。そういう訳で、行くにしても待つにしても、どのみちすぐには会えないだろう」


「……ブリクセン国……ですか」


 ——ブリクセン国。『北の魔女』のハウメアさんという人が治めているという国だ。


 先日の渡り火竜戦では、ハウメアさんの側近であるヒイアカとナマカにはすごい助けられた。


 そのブリクセン国は、ここからだと遠い。行って戻ってきたとしたら、半月以上はかかってしまうかもしれない。


 唸る私。クラリスの助力をあてにするのは厳しいかもしれない。


 グリムは腕組みをしながらエンダーさんに尋ねる。


「ふむ。ブリクセン国には冒険者ギルドはあるのかな?」


「ああ、もちろんあるさ。だから何日も待てば、いずれ連絡だけは取れるとは思うよ」


「——わかった。莉奈、私はちょっと席を外す。私の分まで食べないでくれよ?」


 そう言ってグリムは立ち上がり、受付の方へと歩いていってしまった。


 参ったなあ。何日も待っている余裕は私達にはない。いや、数日ぐらいは大丈夫だけど……万が一『魔女の家』の誰かが追っかけてきた時のことを考えると、この街に長居はしたくない。心が揺らぐから。


 あーあ、やっぱり私、未練たらしくて自意識過剰な女なんだなあ、と自分自身に嫌気がさす。


 心のどこかでは、誰かに追いかけてきて欲しいのかもしれない——


「どうしたんだい、リナ。うつむいちゃって」


「……ああ、いや、別に……」


 ——気まずい。たいして知らない人と二人っきり。塩対応なのは申し訳ないが、何か話してくれ。


「……ところで、勝算はあるのかい? 聞いた話だと、とんでもない相手らしいけど」


「……ええと、まだ仮説ですけど、不思議な現象のからくりは分かりました。ただ正直、分かったところで……といった感じです」


「ヒュー。詳しくは会合の時に聞くけど、さすがだねえ。そうそう、リナ。先日の渡り火竜戦の話だけど……——」



 ——私は運ばれてきた料理をつまみながら、エンダーさんの話に相槌をうつ。それにしてもよく喋るな、この人。


 私は元の世界で学んだ『褒め言葉のさしすせそ』を超低いテンションで繰り出しながらグリムの帰りを待つ。そして十五分後、グリムはようやっと私達の席へと戻ってきた。



「待たせたね、二人とも」


「遅いよ。何やってたの?」


「先ほどの『歌姫』クラリスの依頼をね。莉奈、受付にギルドカードを取りに行ってくれ」


 そうだ。そう言えば預けっぱなしだった。ちょうど相槌もうち疲れたところだ。私はスクッと立ち上がり「じゃっ!」と手を上げて受付へと向かうのだった。





「お待たせしました、リナさん。それでは先に、特殊個体『女王竜』の討伐と火竜戦の手続きからになります」


「はいはい」


 受付に行くとクロッサさんが手招きをして、受付のわきにあるちょっとしたテーブル席に私を促す。言われるがまま席につく私の前に、クロッサさんは書類を差し出した。


「先ほど、女王竜の魔素の解析が終わりました。事前の評価といたしましては、魔物としては過去最大級の脅威と仮定されてたんですけど……それが見事認定されました」


「はあ」


 私が何とは無しに書類を眺めると、女王竜のイラストやら数値やら説明文やらがビッシリと書き込まれていた。数値がどんなもんかはよくわからないけど。


 まあ確かにアレを超える魔物はそうそう居ないだろう。いたら困る。『厄災』のみんなが協力してくれたから倒せたけど、本来、人の力に余るであろう存在だから。


「それでですね、初観測という事で、討伐者であるリナさんのサインが欲しいんです」


「はい。この書類に……?」


「いえ、こちらの色紙に」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ