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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第四部 第二章
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『白い燕』待望論 10 —喧騒の中で—





「なるほどな。魔法兵団長……グリーシア君か」


 グリムのお願いに、サイモンさんは考え込む。


 もしかしたら、このお願いは難しいのかもしれない。


 普段、私達はノクスさんと普通に絡んでいるので感覚が麻痺してしまっているが、一国の兵団長を務める人だ。そう簡単に会わせてくれるはずがない。


「無理かな? 無理なら騎士団相談役のノクスウェルを頼ることになるが」


「……いや、失礼。それには及ばない。実はギルドとしても彼女から話を聞きたくてね。そこに君達を同席させていいものか、と考えていただけだ」


「ふむ。その言い回しだと、『可能』と捉えて問題ないのだな」


「ああ。ただし夕方まで待ってくれ。それまでは自由にしてもらって構わない。時間は……——」







 サイモンさんの取り計らいでグリーシアさんに会えることになった私達は、夕方までの時間潰しのために部屋を出た。腹が減ってはなんちゃらできぬ、だ。


 私は廊下を歩きながらグリムに話しかける。


「ありがとね、グリム。私ひとりだったら、何にも出来なかったよ」


「気にするな。適材適所というやつだ。それより食事だ。タダ飯をご馳走様してくれるのだろう?」


「ヒュー。もちろんさ、グリム。何でも好きなものを頼んでくれ」


 あ、エンダーさん、ついてきたんだ。この人、さっき私のために怒ってくれたんだよね。もしかしたら見た感じよりかは少し良い人なのかもしれない。グリムも普通に話しているし。


「……あの……さっきはありがとうございます……」


「ん? 何がだい?」


「……いえ、なんでもありません」


 お礼をしようと思ったけれど、忘れているみたいだし、ま、いっか。私は軽薄そうな男は嫌いだ。顔すら知らない私の父も、きっとこんな感じの人だったんだろうから。




 そんなこんなで私達はギルドのホールに戻ってきた訳なのだが——。


「おお、戻ってきたぞ!」


「ついに動くか。『白い燕』よ」


「サインください!」


 ——あっという間に冒険者の皆さまに囲まれてしまった。そう言えば『厄災』ジョヴェディを倒すって噂、広がっちゃってるんだったけなあ……。


 と、私が他人事のようにその様子を眺めていた時、エンダーさんが前に出た。


「おっと、君たち。『白い燕』は忙しいんだ。これから僕と食事をするんだからね」


「おう、ずるいぞエンダー。独り占めなんて。『白い燕』とはみんなが話したいんだ——」


 冒険者さんの一人がエンダーさんに文句をつける。その人を見てエンダーさんは、鼻に指を当てて「静かに」と促した。


「……君たちも『白い燕』が何しに来たか分かっているだろう? そう、次の『厄災』を大人しくさせるためだ。これから僕たちは食事をしながら打ち合わせに入る。だから君たちは——」


 固唾を飲み込む冒険者さんたち。ギルド内は水を打ったように静まり返る。あれ? 意外とこの人、役に立つのかもしれない——


「——今日は僕のおごりだ。思う存分、騒いでくれよ?」


 ——そう言ってウインクするエンダーさん。沸きかえる冒険者の皆さま。ちくしょう。少しでも心を開いた私がバカだったよ。


 と、私は思った訳だが、グリムはエンダーさんに耳打ちをした。


「なるほど、感謝する。周りを気にせずに話が出来そうだ」


「はは。礼には及ばないよ。みんなも分かっているさ」


 私は、んんっ? と思ったけど、その理由はすぐに分かった。


 遠慮せずに注文し、思い思いの料理を運んでくる冒険者さんたち。ジョッキ片手に肩を組んで、『白い燕の叙事詩』を歌い出す男の人たち。やめなさい。それに、まだ夕方前だぞ。


 瞬く間に、ギルド内は喧騒に包まれた——。


 私達も料理を注文し、奥のテーブルの席につく。エンダーさんは足を組み、頬杖をついた。


「聞かれて困るようなことを話すつもりはないけれど、あまり聞き耳を立てられても困るからね。ギルドの不文律だ。仮にスパイがいたとしても、諦めて帰るだろうさ」


 そういうことか。よく観察してみると、冒険者さんたちは話し相手をコロコロと変え、楽しそうに話をしている。とてもじゃないが、私達の会話に聞き耳を立てられるような状況ではない。


 その皆さんの様子を見たグリムが、感嘆の息をついた。


「面白いものだな。暗黙の了解、ってやつか」


「ああ。ランクの高い冒険者がたまに使う手さ。さすがに機密情報までは話せないけど、あまり気を遣わずに話は出来るはずだ」


 ほへー、なるほど。冒険者には冒険者のルールがあるんだ。多分そのことを知らないであろう人も中にはいたが空気を感じとったのか、今は楽しそうに溶け込んでいる。


 こういう景色を見ると常々感じてしまう。私には『経験』が足りていない。


 なんだか情けなくなって唇を噛んでうつむく私を余所に、グリムは話を切り出した。


「それでだ、エンダー。こんな事までするんだ。何か私達に話があるのか?」


 そうだ。打ち合わせとか言っていたけど、なんでこの人が?


「……そうだね。僕も少し興味を持ってね。『厄災』ジョヴェディという奴に」


「なんだ? 一緒に戦ってくれるのか?」


 グリムはお茶に口をつけながらエンダーさんに聞き返す。まあ、三つ星冒険者になったような人だ。手伝ってくれるというなら私としても心強いけど。


 しかし——エンダーさんは肩をすくめた。


「手伝いたいのは山々だけどね。だけど話を聞く限りじゃあ、僕が行っても足手まといになるだけだ。でもね——」


 エンダーさんは足を組み替える。


「——噂が本当なら、奴は『光魔法』を使うというじゃないか。僕も詳しい話を聞きたい。グリーシアとの会合、僕も同席させてくれ」





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