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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第四部 第二章
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『白い燕』待望論 03 —集いの会—






 クロカゲを走らせて、陽もどっぷり沈んだ頃。私達は妖精王アルフレードさんのいる神殿へとたどり着く。


 クロカゲにご飯を用意してあげて、ここで大人しく待ってるんだよー、とお願いをした私とグリムは、神殿の前に立ち、その扉を叩いた。



「……すいませーん。『魔女の家』の莉奈でーす。アルフさーん。いらっしゃいますかー」


 ——なんだか中からドタドタという音が聞こえてくる。どうやら複数人いるみたいだ。よし、ルネディ達がいるのかもしれない。


 そして程なくして扉は開き——なんと、私の予想だにしない人物が顔を覗かせるのだった。


「……リナ!?」


「……えっ、ニーゼ!?」


 ニーゼ。『月の集落』に住むエルフだ。少し前の『人身売買』事件で縁の出来た、レザリアと仲の良いエルフだ——もっとも本人達は否定しているが。あと返して、私の初プロポーズ。


 私とニーゼがお互いにポカンとしていると、彼女の後ろからアルフさんが顔を出した。


「やあ、リナ。いらっしゃい。今日はどうしたんだい?」


「え、あ、いや、ちょっとお話がありまして……」


「そうか。まあとりあえず、入りなさい。いいよね、ニーゼ」


「は、はいっ! もちろんです!」


 私はニーゼに腕を組まれ、神殿の中に入っていく。ニーゼはなぜかウキウキだ。


 そして神殿の中、八人掛けのテーブルには、なんと四人の見覚えのないエルフが座っていた。


 予想外の状況に私がキョトンとしていると、ニーゼは私を絡める腕に力を入れ、興味深そうに眺めるエルフ達に私を紹介してくれる。


「みんな。この人が私の婚約者のリナだよ。優しくしてあげてね」


 ガク。思わずよろめいてしまう私。待ちなさいニーゼ。初対面の紹介で、それはないんではないかい?


 ほら、エルフの皆さん方も——


「おお、君がリナか。話は聞いているぞ」


「あらあ。なかなかステキな娘じゃない」


「うちの集落からも見繕ってはくれまいか」


 ガクン。おい、なんだよこの空気。いったい何を吹き込んだんだい、ニーゼさん。


 さらに崩れ落ちた私は気を持ち直し、皆さまに挨拶をする。


「あの、ええと、ご紹介にあずかりました莉奈です。ちなみに婚約はしてませんので……」


 おっと、ニーゼが腕に力を込めて膨れっ面をし始めたぞ。だけど、誤解を生まないようにしっかりと説明しておかないと——。


「はは。そんなことだと思っていたよ。ニーゼがまさか、英雄『白い燕』の婚約者なんてなあ」


 ガガックン。私はついに床に膝をつく。ちょっと待て、見たところ『月の集落』の人達じゃないみたいだけど、なんで私の不本意な通り名、知ってんのさ。


 私はニーゼに引っ張られながら立ち上がり、彼女を横目で睨んだ。


「……ニーゼぇ……あなたまさか、吹聴したんじゃ……」


「ん? 私はただ、聞かれたから教えただけだよ?『白い燕』の話は、彼がみんなに聞かせてくれたの」


 そう言ってニーゼは、浅黒い肌の男エルフを手のひらで示す。そのエルフは立ち上がり、私にうやうやしく礼をした。


「初めまして、リナ殿。わたくしは旅エルフと呼ばれるダイズと申します。『白い燕』の噂はかねがね聞き及んでおりますよ」


 なるほど。この人が今回の諸悪の根源——っていやいや、敵視してどうする。クラリスのせいで、その点に関してはもう諦めているのだから。


「いやあ、はは……よろしくお願いします、ダイズさん」


 私は改めて彼を観察する。丁寧な物腰ではあるものの、引き締まった身体に隙を感じさせない振る舞いと、受ける感じは強者のそれだ。


 彼は自分のことを旅エルフだと言っていた。


 エルフには、定住地を持たず集落を渡り歩いて生活している、旅エルフと呼ばれる者達がいる。旅エルフは、エルフ間の物資の運搬を引き受けている、そんな存在だと聞いたことがある。


 つまりは、少なくとも何百年以上も旅をして生きている人なんだ。きっと、色んな経験を積み重ねてきた、そんな人物なのであろう。


 続いて私は残りの三人とも挨拶をする。


 どうやらこの西の森には『月の集落』を含め四つの集落があり、今日はその集落の代表が集まる『集いの会』が開かれていて、先程終了したとのことだ。そういやレザリアが、数ヶ月に一度、献上品を捧げるしきたりがあるって言ってたっけ。


 私は彼らにグリムを紹介し、促されるまま席に着く。その様子を見たアルフさんは、にこやかに微笑んだ。


「いや、この八人掛けのテーブルが埋まるなんて初めてだよ。それでリナ、話ってなんだい?」


 うっ、まずいぞ。この状況じゃアルフさんの隠していることを聞くわけにもいかないし、『厄災』のことも口に出していいのかわからない。


 みんなの視線が集まる中、うーうーと唸る私。そんな私を見かねてか、グリムが口を開いた。


「まあまあ、皆、大したことじゃないんだ。ときにちょっと聞きたいことがあるんだが、皆は『白い燕』の話は知っているようだったね。では『白い燕の叙事詩』も知っているのかな?」


 おい。その話はやめたまえ。


「ええ、もちろん聴いたわあ。さっきダイズが歌ってくれたの!」


『花の集落』の女エルフ、ミズレイアさんが目を輝かせる。


「ああ。娯楽の少ない森の生活だ。集落の皆に、いい土産が出来たよ」


『風の集落』の男エルフ、チゼットさんが顔を綻ばせる。


 グリムも釣られて穏やかな顔つきになり、満足そうに頷いた。


「そうか。私も『白い燕』の友人として鼻が高いよ。それで、『白い燕の叙事詩』は五番まであるのだが、全部聴いたかい?」


 その質問に『鳥の集落』の男エルフ、ゾルゼさんがニヤリと笑って答えた。


「無論だとも。『白き光が闇を討つ』『白き光が神狼を斬る』『白き光が竜を落とす』『白き光が大地を灼く』そして、『白き光が巨竜を貫く』だ。全部覚えていたら、こんな時間になってしまったがな」


 私はズルっと滑り落ちる。みんな、もうちょっと時間を有意義に使おうよ。


 そんな私の様子を気にも留めず、グリムは続ける。


「友人として嬉しい限りだ。特に、『五番』は傑作だったな」


「そうだな。まさか『厄災』まで従えてしまうとはな。それは本当なのか。『白い燕』よ」


「あはは……従えたとかそんなんじゃ……」


 なんだか『白い燕の叙事詩』の話で盛り上がり始めた。色々な質問が飛んでくる。くそっ、グリム、信じてたのに……と、受け答えをしている内に、私はあることに気付く。


 そうか、そういうことか。グリムは探りを入れたんだ。そして——


 ——少なくともこの人達は、『厄災』がここにいることを知らない。


 アルフさんが不用意に口を開かないのが、何よりの証拠だ。私は一つ、彼に何気ない調子で尋ねてみる。


「ねえ、アルフさん。『厄災』達って今頃、腐毒花を凍らせているんですかね?」


 どうだ。伝われ。


 アルフさんは少しだけ考えた後、私にこう答えた。


「……どうだろうね。今、彼女たちが何をしているのか、僕は()()()()よ」


 アルフさんは私に軽く頷いた。多分、通じたのだろう。


 ——つまり今、ルネディ達はここにはいないということか——。


 気取られない様に肩を落とす私。今はアルフさんに話を聞ける状況でもない。はっきり言って、ここに来たのは空振りだ——と、私が内心しょんぼりした時だった。


「ときにリナ殿。少し、お尋ねしたいことがあるのですが——」


「あ、はい、なんでしょう?」


 ダイズさんの呼びかけに、私は慌てて答える。


 だがこの旅エルフは、続けてとんでもないことを私に問いかけた。


「——『厄災』ジョヴェディを倒しに行くという話、本当ですか?」




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