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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第四部 第一章
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崩れゆく歯車 07 —悪い知らせ、再び—





「いらっしゃい、ノクスさん」


 玄関を開けてノクスさんを迎える私達。ノクスさんは何だか難しそうな顔をしてこっちにやって来た。


 そして、開口一番。


「セイジとヘザーさんを呼んでくれねえか」


 そう言って、深い息をついた。


「どうしたの? まあ、上がってよ」


「……ああ」


 ノクスさんを招き入れた私達は、先程のテーブルに戻って椅子を勧める。私達も席に着き、ポットから紅茶を注いだ。


「はい、冷たい紅茶だよー」


「それで、セイジとヘザーさんは……」


「……うん。あっちに行ってる」


 数日前にノクスさんが来た時に、誠司さんとライラの事情は話してある。その時の彼は、大層喜んだものだが——。


「……そうか」


 そう言って、彼はひたいに手を当てた。苦しそうな表情。只事ではない何かが起きたであろう感じが、ひしひしと伝わってくる。


「なあ、ノクス。誠司達は行動周期的にしばらくは出てこないぞ。一体、何があった」


「……マジか。参ったな」


 グリムの言葉に、本格的に頭を抱え出すノクスさん。なんだか悪い予感しかしない。


 ノクスさんは頭を振って、私達に話し始めた。


「……お前さん達になら言ってもいいか。特にリナちゃんには無関係な話でもねえしな——」


「私? 何よ、なんかしたっけ」


 眉をしかめる私の方を見て、ノクスさんは続ける。


「——『厄災』ジョヴェディが現れた。奴の要求はこうだ。『エリスさんを連れて来い』と。それが出来なきゃ、この地方を塵に還すだとよ」


「はあっ!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう私。グリムも驚いた顔をしている。



 ——その後のノクスさんの話をまとめると、こうだ。


 サランディア王国の皆さんは、『厄災』達が凍らした腐毒花を焼くために中央部に遠征していた。


 そこに『厄災』ジョヴェディが現れる。


 彼は皆さんに攻撃を仕掛け、エリスさんを連れて来いと要求したとのこと。


 戦っても勝てないと判断した魔法兵団長の人が、時間を稼ぐためにその要求を受け入れたらしい。


 猶予はひと月——いや、もう三週間くらいしかない。



 その話を聞いた私は、絶句する。


「……いや、エリスさんって……」


「ああ。もう……いない人だ。それで、セイジに相談しに来た訳だが……」


「あの……ノクスさんって知ってるんだよね。ヘザーのこと」


「……リナちゃん、聞いたのか」


 さすがに気づいていた。


 ノクスさんのヘザーに対する丁寧な態度は行き過ぎているものがある。あと、彼の妻であるミラさんも何かしら思うところがある感じがした。ライラが産まれた時にノクス家を頼ったところから推測するに、彼らがヘザーの事情を知っているのは間違いないだろう。


「うん。正式に聞いたのはつい最近だけど。グリムも一緒に聞いた」


「そうか……まあ、という訳でだ。事は急を要する。待たせてもらっても構わねえか」


「それは勿論だけど。でもどうすんのさ」


「困ったよなあ……グリム、お前さん何か名案はねえか」


「ふむ……まずは誠司に話を聞いてからだな」


 腕を組みながら、私達三人はため息をつく。


 そしてその姿勢のまま、ノクスさんは私に話しかけた。


「あと一つ、厄介なことがある。リナちゃん、話半分に聞いてくれ」


「ああ、私にも関係あるってやつ?」


 確かに、この家に住んでいる以上、私にも関係あるのは確かだが。改まって、一体なんだ?


「『厄災』ジョヴェディの出現の噂が広まっちまったみたいでな。そんで、大衆は待ち望んでいるみたいなんだ」


「何を?」


 私は椅子を後ろに傾けながら聞き返す。


「——『厄災』を従える伝説の冒険者、『白い燕』が動き出すのを」


 ドカッ。私は椅子ごと後ろに倒れ込んでしまった。グリムが心配そうに覗き込む。


「大丈夫かい、莉奈」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って。なに、なんなの!?」


 よろよろと起き上がる私。だが、ノクスさんは真顔で私に謝る。


「すまねえ」


「……だからあ、言論統制……」


 ノクスさんの話だと、『白い燕の叙事詩』の三番以降が早くも広まっているらしい。おい、なんでだよ。そして、そのタイミングでの新たなる『厄災』出現の知らせ。否が応でも私に期待が集まるっていう訳だ。おのれクラリスめ。


 とりあえず私は、腰をさすりながら椅子に座り直す。


「それで、ノクスさん。私になんとか出来るとでも?」


「いや、そういう話も広まってるってだけだ。アレンとグリーシア——うちの騎士団長と魔法兵団長が言うには、奴は規格外の強さらしい。現れたり消えたり、やれ無詠唱だの連発だの、魔法のことわりを無視した存在だって言ってたな。『厄災』の力が関係しているかどうか分からねえが、奴は異常だ。リナちゃんは手え出すな」


「……無詠唱?」


 おかしい。魔法とは『言の葉』を『心を込めて紡ぐ』ことで発現するのだ。私がこの世界に来た時「無詠唱がー」とか夢見ていたことがあったが、勉強した今ならわかる。


 ——この世界の魔法に、無詠唱は存在しない。


 ピアノで例えるなら、指を使わずに曲を奏でるようなものだ。出来る訳がない。ほら、なんだかグリムの目が好奇心で輝き出してしまったぞ。 


「ああ。まあ、とりあえずだ。誠司に話を通さなきゃ何も始まらねえ。時間はねえが、ゆっくり待たせてもらうわ」


「うん、ごめんね。でも……なんだかものすごく厄介そうな相手だね」


「ふむ。是非とも、直接この目で見てみたいものだな。ノクス、どこに行けば会える?」


「……危ないから、やめなさい」


 うんうんと唸る私達。とりあえず私はカルデネの元へ行き、誠司さんが出て来たら顔を出すように伝えておいた。



 ——そして、待つこと二時間——。



 ようやく書庫に繋がっている、ヘザーの部屋の扉が開く音が聞こえてきたのだった。





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