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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第一部 第三章
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月の集落のエルフ達 05 —草笛鳴らして—




「——ねえ、誠司さん。アイツらが潜んでた事、最初から気づいてたの?」


 六つの魂があるという場所へと向かう途中、誠司の後に続く莉奈が質問する。アイツらとは、先程の哀れな三人の事だ。


「ん? そりゃそうだろ。集落に入る前から気づいていたさ」


「ひどいなあ。先に教えといてくれてもよかったんじゃない?」


 さも当然かの様に言ってのける誠司に、莉奈は口をとがらした。


「すまないね。動き方から悪意ある者だとは分かっていたんだが、逃がしたくなかったんでね。その事を先に言うと、君は意識してしまうだろう?」


「……う。そうかもだけど」


 確かに、莉奈は事前に知らされていたら辺りを警戒してしまっただろう。警戒している様子が相手に伝われば、相手を警戒させてしまう。


 ぐうの音も出ない莉奈は、レザリアに話を振る。


「レザリアは? 気づいてたの?」


「はい。集落に入ってからですが……よくない視線は感じていました。当然、お気づきになられているであろうセイジ様が、本来ならあまり相手の耳には入れたくない話を始めたので……ああ、これは誘い出そうとしているんだな、と。案の定、会話を聞き取ろうと彼らは近寄ってきました」


 何なんだこの人達は、と莉奈は舌を巻く。私がほけーっとしている間にそんな事になっていたとは。


 いや、まだだ。と、莉奈は最後の望み、ヘザーの方をバッと振り向いた。ヘザーは笑顔でうなずく。


「リナの『ほけーっ』とした演技、見事でしたよ」


「……うん、もうそういう事にしといて」


 がっくりと肩を落とす莉奈。その顔を、レザリアが優しくのぞき込み声を掛ける。


「そんな顔をしないで下さい、リナ。人にはそれぞれ役割があるのですから。今回に関しては、私達の役目だった、というだけです。リナはリナの役目が回ってきた時に、私達を助けて下さいね。約束ですよ?」


 その優しいレザリアの言葉に、莉奈はレザリアの手を両手でぐっと握りしめた。そして、少し腰を落としてレザリアの顔を見上げる。


「……師匠!」


「……え?し、ししょ、えっ?ええっ!?」


 莉奈は思う。この世界に来て、出会う人皆から色々な事を教わる。誠司からも、ヘザーからも、ノクスからも、レザリアからも、そしてライラからも。皆、莉奈の師匠だ。


 いつかこの凄い人達の役に立ちたい。そして、その時が来たら迷わず助けたい。困惑するレザリアを楽しそうに見つめながら、莉奈は思うのだった。







「さあ、着いたぞ」


 誠司が立ち止まったのは、薄暗く、緑におおわれ、樹木が無造作に生い茂っている場所だった。


 周りは高台に囲まれており、どうやら袋小路ふくろこうじとなっているようだ。


 人がいる様には到底思えない、というのが莉奈の率直な感想だ。


「これは……なるほど」


 レザリアが一本の木に近づき、こちらを振り返る。


「森に詳しい者にしか分からないと思いますが、この木は黄色い花を秋口に咲かせます」


 そう言ってレザリアは木に触れ、頭上を見上げる。


 その視線の先には、美しい白い花が咲いていた。今はまだ春だ。つまり——とレザリアは続ける。


「——『木に花を咲かせる魔法』です。森に住む者にしか分からない目印です」


 レザリアは近くにある葉を一枚むしり取り、口に押し当て音を鳴らす。まるでハーモニカの様な草笛の音が、辺りに鳴り響いた。



 ——ピィ———、ピィ————……



 莉奈が聴き惚れていると、レザリアのいる木の横、高台を背にしている茂みが揺れ、続けて男の声が聞こえてきた。


「——レザリア……レザリアか?」


「はい、レザリアです。レザリア=エルシュラントです!」


 レザリアの返事に安堵したのか、顔をほころばせた男が茂みから出て来る。見た目は若く見える、痩身そうしんのエルフだ。


「心配したぞ、レザリア! よくここが分かったな」


 それは——とレザリアが言いかけたところで、男は少し離れた所にいる誠司に気づいたようだ。


 男はレザリアを手で制し、顔色を変え誠司の元へと駆け寄り片膝をつく。


「ご無沙汰ぶさたしております、セイジ様。『月の集落』の長、ナズールドです。その節は大変お世話になりました。未だ御恩もお返し出来ず、大変心苦しく……」


「待て待て待て、ナズールド。長たる者がそんな簡単に頭を下げるもんじゃない。とりあえず立ってくれ。それどころじゃないんだろう?」


 誠司の言葉に、ナズールドはもう一度頭を深く下げ、立ち上がる。


「はい、セイジ様……おっしゃる通りです。ところで、何故セイジ様がこちらに……まさかレザリア、君が?」


 ナズールドはレザリアの方を振り返る。レザリアは目をつむり、神妙な顔つきで答える。


「はい。『エリス様に頼らず頑張ろう』という月の集落の掟、このレザリアが独断で破りました。どんな罰も受ける所存でございます」


「おい、勝手に変な掟を作るな」


 誠司があきれ顔で頭を掻く。そんな誠司を余所に、二人のエルフは続ける。


「よく言った、レザリア。なら、そうだね、ご迷惑を掛けたお詫びも兼ねて『魔女の家』に給仕に出向くというのはどうだろう?」


「はい、承知致しました、ナズールド。でも、それでは罰ではなく御褒美では——」


「え、なに? レザリア、ウチに住むの? やった!」


 突然入り込んできた莉奈の頭に、誠司の手刀が叩き込まれる。


「話をややこしくするな、莉奈」


「いったあーい、ケチ!」


 別に本当に痛い訳ではないが、文句を言ってやろうと莉奈はぶつぶつとつぶやいた。そんな莉奈とヘザーの方を見て、ナズールドが尋ねる。


「セイジ様、こちらのお連れの方は——」


「ああ、それも含めて色々と情報共有をしたい。大丈夫かな?」


「でしたら、中にお入り下さい。狭いですが、ここよりは落ち着いて話せるでしょう」


 そう言って、ナズールドは彼が出てきた茂みをかき分ける。その茂みの奥、高台の壁には洞穴ほらあなの入り口が隠れていた。








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