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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 エピローグ
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エピローグ ③








 火竜襲撃から一週間後。


『魔女の集合住宅』のエントランスには、グラスを手に持ち皆の前に立つグリムの姿があった。


 彼女は咳払いをする。


「えー、それでは。諸君らの健闘によって無事、『完全勝利』が達成された。今日は心置きなく楽しんでくれ。乾杯ー!」


「「「かんぱーい!」」」



 皆は料理に舌鼓を打ち、互いの健闘を讃えあう。


 皿を持ってどこに座ろうかとキョロキョロする莉奈のところに、セレス達が感謝の言葉を述べにやって来た。


「ありがとね、リナ。大変だったわよね。火竜どころか、女王竜や腐毒花までなんとかしてくれちゃうなんて……オッカトルを代表して、お礼を言わせてもらうわ」


「あーしからも、お礼を言わせて下さい。でも、何で前もって言ってくれなかったんですか? あーし達にだけでも、こっそり教えてといてくれれば良かったのに」


「いやあ、ごめんなさい、マッケマッケさん。私も半信半疑だったし、『義足の剣士』さんに口止めされてたんで……」


 二人から感謝を受け、顔を赤らめて答える莉奈。そこに、エールを飲み干したボッズが話に加わる。


「どうだ、リナよ。リョウカは強かっただろう?」


「ん?『リョウカ』って、もしかして『義足の剣士』さんのことですか?」


「ああ、そうだ。なんだ、知らなかったのか?」


「それが聞いて下さいよ、ボッズさん。あの人、勿体ぶって名前すら教えてくれなかったんですよ? ひどいと思いません!?」


「はは。確かにヤツはそういう所があるな。どうにもつかみどころのない男だ」


「でしょ、でしょ!?……まあ、でも、結局全部、あの人のおかげなんですけどねっ!」


 莉奈は膨れっ面をしながら料理を口に詰め込んだ。


 セレス達は思う。こうしてみると、どこにでもいる普通の女性だ。


 三人は偉業を成し遂げた目の前の女性を、尊敬の眼差しで見つめるのだった。



 その時、エントランスに透き通った声が響く。


「コホン。さあさあ、皆さまお立ち会い。お待たせいたしました、『白い燕の叙事詩』の新作、三番から五番までを初公開! あなた達は今! 歴史の聴衆者になります!」


 クラリスの口上に、マッケマッケが駆け寄る、レザリアが駆け寄る、莉奈が崩れ落ちる。四番までは冗談で言っていたが、まさか五番まで出来てしまうとは——。


 ——莉奈の気持ちも露知らず、クラリスの透き通った歌声が流れ始めたのであった。



「やあ『白い燕』、どうしたんだい?」


 崩れ落ちている莉奈に声をかける者がいる。エンダーだ。莉奈は顔を上げ、露骨に嫌な顔をする。


「……あ、どうも」


「はは、相変わらず冷たいねえ。どうだい、一緒に食事でも」


「……いえ、先約がありますので……」


 莉奈はすくっと立ち上がり、顔を伏せてその場を立ち去ろうとする。エンダーに悪気はないのだが、どうも莉奈の苦手なタイプのようだ。


 肩をすくめるエンダーを置いて、莉奈は『魔女の家』の面々の元へと向かうのだった。




「ぷっはあー。いやあ、旨いっすね、セイジさん!」


「はは。君も変わってないようで何よりだよ、ジュリ君」


 エントランスの片隅で、半ば飲み比べのようなことをしている誠司とジュリアマリア。


 そこに近づいて来る莉奈の姿に気づいたビオラが、手を大袈裟に振って招く。


「お姉様ー、こっちこっちー!」


「どう、ビオラ。楽しめてる?」


「ええ。お二人の飲む姿を見ているだけでも、全然退屈しないわ」


 誠司とジュリアマリアは空のジョッキを、ドンと同時にテーブルの上に置く。視線を合わせ不敵に笑う二人。楽しそうで何よりである。


 その様子をため息混じりに見た莉奈は、さらにその奥の隅っこで話し合っているグリムとカルデネの近くの席に腰を下ろした。


「お疲れー。ねえ、カルデネ。大丈夫?」


「うん。女の人多いし、大丈夫だよ」


 そう言ってカルデネは身につけている腕輪をさする。


 その腕輪には『恐怖を和らげる魔法』の効果がある、と莉奈はカルデネから聞いた。


 そんなの家にあったんだー、と莉奈は腕輪の出所を特に気にも止めず、カルデネが人前に出れたことを嬉しく思ったものだ。


「ところでヘザーは? 家に戻ってるのかな?」


「うん。クロカゲのお世話をしに。後で戻ってくるって言ってたよ」


「そっかー」


 莉奈は自分の持ってきたお酒をチビッと飲みながら相づちを打つ。


 ヘザーはこういった時に席を外す役目を率先して引き受けてくれるので、莉奈としては心苦しい。


 ——いつかヘザーも、一緒に飲めたらなあ。


 そんな可能性がないのは分かっている。『魂』はその者の器でないと、自分であることを認識出来ないというのだから。その話を思い出し、莉奈は少し寂しくなってしまった。


 いけないいけない。今は楽しいお酒の席だ。莉奈は頭を振って、話題を変える。


「ねえねえ、二人で何話してたの?」


「えっとね、私の研究のこと。今、グリムに教えてたんだ」


 研究というのは他でもない、誠司とライラを在るべき姿に戻す方法のことだ。数日前、カルデネは莉奈の元を訪れ、進展があったと嬉しそうに報告しに来てくれた。


 ——近々、なんとかなるかも知れない。


 カルデネの言葉を思い出すだけで、莉奈も嬉しくなってしまう。莉奈はグリムに話しかけた。


「どう、グリム。力になれそう?」


 だがその莉奈の問いに、グリムは不思議そうな顔をして口を開いた。


「なあ、キミ達は気づいてないのか?」


 その言葉を聞いたカルデネの顔が、一瞬にして強張る。



 待って、まさか彼女——



「気づいたって何を?」


 莉奈が不思議そうな顔をして聞き返す。グリムは莉奈の、そして誠司の顔を見た。



 ——気づいてしまったの?



「いや、誠司とライラを会わすだけならいつでも出来るじゃないか。とても簡単に。もしかして、誰も気づいてないのか?」


 カルデネは沈痛な表情を浮かべる。やはり彼女は気づいている。その方法に。


 カルデネは一つの可能性にかけ、誠司の様子を盗み見た。


 彼は——


「……それは本当かね、グリム君……」


 立ち上がってグリムを直視する誠司。その眼差しからは、希望が満ち溢れていた。


「ああ、もちろんだ。一応、カルデネに確認をとってからだが……ん? どうしたカルデネ、ぼけっとして。おい、カルデネ?——」



 ——駄目だ、止められない。もう、セイジ様とライラを信じるしかない——。



 ——周りの心配する声も届かず、今のカルデネの耳には『白い燕の叙事詩』だけが静かに流れてくるのであった。








お読み頂きありがとうございます。


これにて第三部、完結となります。


今後の更新予定ですが、明日(1/29)に付録として第三部までの登場人物紹介。


そして明後日から第四部を隔日投稿いたします。こちらは目処が立ち次第毎日投稿に戻しますので、気長にお待ち頂けると幸いです。


なお、いつも通り活動報告の方に「あとがき的な何か」を上げておきますので、執筆の裏話とかに興味のある方は時間潰しに是非ご覧下さい。


それでは、今後もこの作品を楽しんで頂けるよう頑張りますので、お付き合い頂けると嬉しいです。


重ねてになりますが、ここまでお読み頂き誠にありがとうございました。



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