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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第七章
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白い燕の叙事詩 04 —『100%』—





 そう、今夜は満月だ。ルネディの力が、最大限発揮される夜。


 私は茫然と、ルネディの方をほけーっと眺める。そこに、『義足の剣士』さんの声が響いた。


『——炎が、来るぞ』


 私は慌てて女王竜の方を見る。その怒り狂った怪物は、今まさに、業火の炎を吐き出さんと息を大きく吸い込み終わったところだった。


「あわわ……」


「メル」


 思わず動揺してしまった私だったが、ルネディは冷静にメルに呼びかける。


 名前を呼ばれたメルは一歩前に出て、両腕を上げた。


 ——そして吐き出される、女王竜の炎。


 だがその炎は、突如空中に出現した大きな氷の盾によって阻まれた。


 溶けた先から新しい氷が生まれ、女王竜の炎を防ぐ。


 熱風どころか、私達のいる所に冷たい風が流れ込んできた。その光景を見た私は、感嘆の声を上げる。


「……すごいんだね……メル………」


「えへへ。リナちゃんを守ろうとする時のわたしは、無敵だよ!」


「こおら」


 軽口を叩くメルに、ルネディは微かに笑みを浮かべながら口を尖らした。


 すごい。本当に、すごい。女王竜が、まるで相手になっていない。私達はこんな人達を相手にしようとしていたのか——。



 やがて炎は止んだ。女王竜は叫ぶ。何もかもが思い通りにならなくて叫ぶ。


 その叫び声を受けながら——砂の巨像は姿を小さくしていった。


「わわっ!」


 突然の揺れに、思わずルネディにしがみつく私。その様子を見たルネディは、口元を押さえて笑った。


「ふふ、リナ。あなたは空を飛べるのに」


「いや、そうは言っても! 急に揺れたらびっくりするって!」


 でも、何で急に縮んだんだ? まさか、マルティ……。


 私がマルティの方を振り向くと、どうやら彼女は意識を集中しているようだった。そして——


「よし、こんなものかな」


 ——二十メートルぐらいまで縮んだところで、マルティは砂を固定させる。肩幅のサイズはそのままなので余裕はあるが、これは一体。


「さ。じゃあ始めましょうか」


「ん? なにを?」


「最後の仕上げよ」


 ルネディが言い終わると同時に、砂の像は走りだした。と同時に、女王竜を包んでいる影も引きずられるかのように動き出す。


 そして、『義足の剣士』さんがいつの間にか女王竜の逆鱗の前に現れ——その逆鱗に軽く太刀を振るい、女王竜を怒らせた。


 吐き出される、大地を焼き尽くす炎。それをメルが氷の盾で受け止める。


「ああ、仕上げって腐毒花の……」


「ええ。本当は地面に降りたいところだけど、私達『厄災』でもあの瘴気は厄介なの。だからこの位置で、焼き尽くす」


 確かに私達は今、女王竜から見下ろされる高さになっている。そして瘴気も、ここなら届かない。



 逃げる、焼き尽くす。逃げる、焼き尽くす。



 さすがに満月のルネディでも、あの巨体を引きずり回すのは厳しいらしい。でも、ここら辺一帯ぐらいならなんとかなりそうだ。


 女王竜の炎のインターバルの間、ようやく私達は再会を喜びあった。


「もういいでしょ、ルネディ。早く秘訣、教えなさいよ!」


「ええと……まず、生まれ変わります」


「……そんなあ!」



 逃げる、焼き尽くす。



「メルー、ルネディに会えたんだねー」


「うん、リナちゃんのおかげ! でもセイジちゃん、あの時から元気ないみたいだけど、大丈夫なのかな……」


「あー……今では元気だよ。多分、今は疲れてるんじゃないかな、いい歳だし。そうそうメル、聞いてよ。やっぱり見られちゃってたみたいでさ——」



 逃げる、焼き尽くす。



「マルティ、すごいんだね。あんな大きいの作れるなんて」


「ううん。私はルネディやメルみたいに攻撃が出来ないから、こんなことぐらいしか出来なくて……」


「ん? そうなの?」


「うん。私に出来るとしたら、砂に閉じ込めて窒息させることぐらい……」


「大概だな」



 逃げる、焼き尽くす——。





 こうして三十分ほどかけて、私達はこの辺一帯の腐毒花を焼き尽くした。あとは——。


『——さあ、終わりにしよう。君達四人で、女王竜を倒すんだ』


 響き渡る声。その声を聞いた『厄災』達は頷き合う。え、四人?


「じゃあ、戻すね」


 マルティはそう言い、砂の像を元の大きさに戻し始める。


「逆鱗を固定するわ」


 ルネディはそう言い、女王竜の顔まで影に包み込み、逆鱗の場所だけぽっかりと影を避ける。


「リナちゃん、『防寒魔法』かかってる?」


「え? うん、空を飛ぶ時はかけてるけど……」


「じゃあ、だいじょうぶだね」


 メルはそう言い、指を回した。え? 待って、なに、なんなの?


 と、次の瞬間、私は氷に閉じ込められた。とは言っても、周りは空洞になっているので大丈夫ではあるが——。


 私は目を閉じ、集中する。外で何が起こっているのかを、感じとる。俯瞰ふかんした景色が、私の脳内に現れた。



 私が閉じ込められているのは、先の鋭く尖った大きな氷柱だ。それを砂の巨像が、肩に担いで振りかぶる。


 って、え?


 そして砂の巨像は氷柱を——逆鱗目掛けて全力で投げた。待て待て待て!


 逆鱗目掛けて真っ直ぐに飛ぶ氷柱。『厄災』達が叫ぶ。


「いっけええぇぇーーっっ!!」


 私は、悲痛な叫び声を上げた。


「ちょっと待ってえ! 私の入っている意味はぁーーっ!?」


 その叫び声は誰にも届くことなく、氷柱内に反響する。眼前に迫り来る逆鱗。



 ——そしてその氷柱は見事、逆鱗ごと女王竜の身体を貫いたのであった。






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