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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第一部 第三章
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月の集落のエルフ達 04 —月の集落—






 莉奈は『月の集落』に入り、辺りを見渡す。


 申し訳程度にひらけた土地。数軒の住居は木の上にあり、地面には何かしらの農作物が育てられている。


 そして——レザリアの言う通り、日常で使っているであろう道具が辺りに散らばっており、木の上の住居も扉が無理矢理開かれた形跡が見てとれた。もちろん、住人の気配はない。




「レザリア君、この集落には何人が生活していたのかな」


「……はい、定住している者は私を含め十三人です。私が妖精王様の元へ旅立つ前は旅エルフも来ていませんでしたので、恐らくその人数で間違いないかと」


 誠司の問いに、レザリアは少し考えてから返答する。


 エルフには、定住地を持たず集落を渡り歩いて生活している、旅エルフと呼ばれる者もいる。その者達はエルフ間の物資の運搬を引き受けているとの事だが——。


「なるほど。もし、最初にこの集落が襲われたのなら、旅エルフがいなかったのは幸運だったかも知れない。彼らは他の集落の場所も知っているからな」


「——やはり、襲撃に遭ったんですね」


「だろうね。ちょっと失礼」


 誠司はそう言い、ふところからクナイを取り出す。そして、そちらの方を見る事なく、一本を背の高い茂みの方へと投げつけた。


「——ひっ!」


 クナイが木に刺さり震える音と、男の上げる悲鳴が共鳴する。


 誠司はゆっくりと、茂みの影で腰を抜かしている男の方へと近づいた。


「なあ、君。見るからに悪そうな顔をしているが、悪いヤツで間違いないかな」


 誠司は男の髪をつかみ、目を細めて質問する。クナイは耳をかすったのか、男の耳から血が滲み出している。


「誰だ、アンタ!」


「私が質問しているんだがね。ああ、そう、それと——そこに隠れている二人も君の仲間かな?」


 男の顔がサッと青ざめる。その言葉が聞こえたのかどうかは分からないが、二人の男が同時に別の茂みから飛び出した。


 一人は、誠司の隙を突こうと誠司の方へ。もう一人はあわよくば人質に取ろうと莉奈達の方へ。


 だが、そんな男達の行動がまるで分かっていたかの様に、誠司はクナイを立て続けに二本投げる。


 クナイの一本は、誠司へ向かって来た男の眉間を撃ち抜き、そしてもう一本は、愚かにも莉奈達へ向かっていた男の頸動脈をかき切っていた。


 いち早く反応し細剣を構えたレザリアが、ふうっと息を吐き剣を納める。


「——すまないね。君達の『魂』からはどうにもドス黒いものしか感じられなくてね。悪いけど始末させて貰ったよ。莉奈の見てる前で、こんな事したくなかったんだけどな」


 淡々と語る誠司に男は震え、歯の根が合わなくなり、嫌だ嫌だと首を横に振る。


「さあ、知ってる事を全部話して貰おうか」


 誠司は立ち上がり、刀を抜き、男の首元に宛てがう。


「ひっ!」


「——頼むから、君は気絶してくれるなよ?」




 刃を首元に当てられた男は、やがてポツリポツリと虚ろな目で語り始める。それを離れた所で見ている莉奈は、目の前で人が死んだ事に少なからずショックを受けていた。


 だが——と、莉奈は考える。もし誠司が動かなかったら、レザリアが殺していただろう。そうでなければ、ヘザーが。


 その二人が動かなかった場合——多分、莉奈が殺していた。相手が持っている紫色の液体がしたたるナイフには、明らかに毒が塗ってあったから。


 そんな莉奈の気持ちに感付いたのか、ヘザーが莉奈の肩に手を置く。


「——うん、大丈夫だよ、ヘザー。私は、皆を守るためなら、剣を振るえる」


 莉奈は目を閉じ、ヘザーの手に自分の手を重ねる。冷んやりして心地良い手だ。


 今まで散々、誠司とヘザーには教えられてきたのだ。この世界はそういう所なのだ、と。


 莉奈が目を開けると、誠司の方を見つめるレザリアが目に入る。そのレザリアは、何やらブツブツとつぶやいていた——。


「——あれ? あの光景、最近見たような……首元……刃……?」


 彼女はあごに手を当て、思考を『何かの出来事』と合致させようとしている。


 ——マズイ。そう思った莉奈は、慌ててレザリアと誠司の間に入り込む。


「はあい! レ、ザ、リ、ア。さっきの反応、早かったねえ! さっすがレザリア、守られちゃったよ!」


 その莉奈の言葉にレザリアは思考を中断し、耳を赤くして両手を振る。


「い、いえ。私は剣を抜いただけで、倒したのはセイジ様ですしっ……」


 うんうん、と話をしながら、上手く誤魔化せた——と莉奈は胸を撫で下ろす。


 ややあって、誠司がこちらに向かって来た。あの男の処遇は、どうやら聞かない方がよさそうだった。




「では、結論から話す。予想通り、この集落は人身売買のグループに襲われた」


「そう、なんですね……」


 誠司の報告を聞き、レザリアは悲痛な面持ちを浮かべる。


 仮定の一つとして人身売買絡みではないか、という話は一応レザリアには伝えてある。悪い予感が的中してしまった形だ。


「不幸中の幸いだったのは、彼らが初めて来た集落がここだという事。他の集落の場所はまだ知られていない」


「そう……それはよかった、です」


 言葉とは裏腹に、レザリアの顔は浮かない。レザリアにとっての集落は、ここなのだから。


「すまないね、レザリア君。だが今は、事務的に話を進めさせて貰う」


「構いません。私達、エルフ族全体の問題なのですから」


 気丈に振る舞うレザリアに、誠司は申し訳なさそうな顔を浮かべる。


 こういう態度の時の誠司は、間違いなく無理をしている。莉奈は四年という月日を共にする事で、その事に気がついていた。


「——そう言ってくれて、ありがとう。それでだ、人身売買の輩の手により、この集落からさらわれたエルフは四人、その後を追って返り討ちにあったエルフが二人。この二人は命までは取られてないらしい。何処かに潜伏していることだろう」


「お待ち下さい、セイジ様! では、残りの……六名はどこに!」


「それが、ヤツらが潜んでいた理由だったんだがな。いや、君の集落の長は賢明な判断をしたよ。迂闊うかつにここに戻ってきていたら、被害が広がっていたかも知れない」


「!……と、いう事は……」


「ああ」と言い、誠司は口角を上げ、ある方向を親指で指す。


「ここからしばらく行った所に、六つのじっとしている『魂』がある。一つは私も覚えている、君達の長、ナズールドの『魂』だ」








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