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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第七章
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白い燕の叙事詩 01 —砂の城③—






 女王竜から絶望の業火が放たれる。


 地上付近を飛ぶ私は旋回しながら上昇し、その炎をかわした。


『義足の剣士』さんの声が頭に響く。


『——莉奈、大丈夫か。あまりギリギリを攻めるんじゃないぞ』


「うん、わかった。正直余裕ないけど、頑張るよ」


 うん。もう、敬語とか使ってられないくらいには余裕がない。けど、私が言い出しっぺだ。頑張らなくては。


 クラリスの歌が聴こえる。彼女は通信魔法の届く範囲内で、私のあとをついてきてくれているのだろう。ありがたい。


 私は振り返りながら飛び、火竜達の炎を待つ。


「さあ、どんどん吐いて来なさい!」











「やあ、皆、お疲れ様。キミ達の活躍で、無事、ケルワンは守られた。感謝するよ」


 戦いが終わり座り込んで休む誠司達の元に、残雪を踏みしめながらグリムがやってくる。


 その声に反応した誠司は不安そうな顔を向け、彼女に尋ねた。


「なあ、グリム君。君は莉奈が何をしようとしているのか、知っているのか?」


 ルネディが言っていた、莉奈がやろうとしている『とんでもないこと』。それは。


 誠司の問いにグリムは「ふむ」とつぶやきながら、その場に腰を降ろす。


「なあ、セレス嬢。『例の水筒』は、莉奈に無事渡せたかな?」


 突然話を振られたセレスは顎に指を当て、首を傾げながらもグリムに頷いた。


「ええ、ちゃんと持っていったわよ。あなたとあの娘に言われた通り、『解毒薬』入りの水筒を」


 ——セレスは事前に莉奈とグリムにお願いをされていた。莉奈の水筒には『解毒薬』を入れておいてくれと。彼女が言うには、好きな味だからとのことだった。


 まあ、確かに『解毒薬』は味は悪くない。清涼感もあり、水分補給の役割もこなせるが——ずいぶん変わった娘もいるのね、と特にセレスは気には留めていなかった。


「つまり、そういうことだ。わかったかい、誠司」


「いやいや、どういう事だ。全然見えてこないぞ……」


 要領を得ないグリムの言葉に、誠司は眉をしかめる。その様子を見て、グリムは肩をすくめてため息をついた。くそっ、なんか腹立つな——。


 しかし、誠司の頭に何かが引っ掛かる。解毒薬、解毒薬——。


 その場にいる者は顔を見合わせて考え込む、グリムは莉奈がいるであろう北西の方に顔を向けた。


「なに、事情を知っている者は少し考えればわかることだ。『解毒薬』『マルテディが砂漠を作った理由』そして、『女王竜の大地を焼き尽くす炎』——」


 そこまで聞いた誠司とセレス、マッケマッケの顔色が変わる。まさか、莉奈は——。


「——そう。莉奈はマルテディの、そして、この地に住まう者達のために『腐毒花』を焼き払おうとしているのさ。女王竜達の吐き出す炎を使ってね」








 あの日、砂の城で——。




『義足の剣士』さんは、私に、とあるお願いをする。



『——女王竜がやって来る。今回の騒ぎの、全ての元凶だ』


「へ?」


 突然の聞きなれない単語に、私はつい間抜けな返事をしてしまう。女王竜?


『——女王竜がやって来る。今回の騒ぎの……』


「あ、すいません、聞こえてはいます……あの、女王竜って?」


『——莉奈。「女王蜂」や「女王蟻」の存在は知っているかな?』


 もちろん知っている。元の世界どころかこの世界にも、似たような生態の昆虫はいるのだから。


「ええ、知っていますけど……って、まさか」


『——ああ。今年、女王竜が動き出す。全ての渡り火竜の「母」だ。それが今回の異常事態の正体さ』


 私も詳しい訳じゃないけど、『女王ほにゃらら』っていうのが群れの中心となる個体なのは知っている。あと、身体が大きいということも。


 まさか渡り火竜達も、そういう生態だったということか?


「……あのう、その女王竜ってやつがケルワンに襲いかかってくると?」


『——その通りだ。そしてヤツは、速い、強い、格好いいと三拍子揃っている。まあ、君たちでは倒せないだろうね』


「……格好いいは関係ないんじゃ……」


 軽口を叩いてみるものの、彼の言うことが本当なら大変だ。こちとら五十頭の渡り火竜でワタワタしているというのに——。


『——そこで君にお願いだ。その女王竜が来たら、この「砂の城」までおびき寄せて欲しい』


 そう言って彼は私に頭を下げる。


 待て待て待て。私!? いや、まあ空を飛べる私が適任なのは分かるけど——。


「ちょっと待って下さい! おびき寄せるって何でですか!? みんなと一緒に戦えばいいじゃないですか!」


『——いや、それは出来ないんだよ莉奈。私でも簡単に倒せない相手だ。奴は強い。それに、奴の吐く火炎は、熱く、広い』


「……それって、街やみんなが危険に晒されるってことですよね」


『——その通りだ。もし私と奴が街の近くで戦えば、攻撃の余波で街も君たちも、全滅する』


 私の背筋に冷たいものが流れる。もし彼のいうことが本当なら——炎の中で踊る、私の大切な人達——想像しただけで、涙が滲み出る。


 私は瞬きをし、彼に尋ねた。


「……あなたなら、勝てるんですか?」


『——ああ。もし君がここまで奴をおびき寄せてくれたら——私とマルテディが迎え討つ。負けは、ない』









 

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