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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第六章
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『0%』 06 —集う者たち—






「それで、どうして君がここに?」


「ああ。そりゃトロア地方の危機だ。かと言って、ルネディ対策で騎士団は動かせねえ。だからサランディアはアレンに任せて、俺が飛び出してきたって訳だ」


 アレンというのは、サランディアの現騎士団長だ。ノクスの部下にあたる人物だが、彼も騎士団長を務めるだけのことはあり、なかなかに優秀な人物ではある。


「そうか、助かったよ。では少し、暴れるとするかね」


「おう、そうだな」


 状況を察したマッケマッケが、ノクスに水の障壁を張る。


 それを横目で見ながら、ボッズがノクスに並び立った。


「ずいぶん面白い技を使うな」


「あ?……もしかしてお前さん、三つ星冒険者のボッズか?」


「ああ、そうだ。ではオレも真似させてもらうとしよう」


 ボッズは屈み、力を溜める。筋肉が膨れ上がる。そして——。


「フンッ!」


 ボッズは斧を投擲とうてきした。その斧はものすごい速さで——見事、一匹の火竜に突き刺さった。高度を落とす火竜。


 ボッズは通信を立ち上げる。


「——おい、ジュリ。斧をなくした。予備を持ってきてくれないか」


『——こら、見えてたっすよ、投げましたよね!? 信じられない、ふざけんなこのクソ狼! 今持っていくから、おとなしくしてるっす!!』


 悪態をつきながらも了承するジュリアマリア。そのやり取りを見た誠司はため息をつきながらも、二人の顔を見る。


「さて、私達には時間がない。今のうちに動くぞ」


 誠司とノクス、そしてボッズは頷きあい駆け出してゆく。


 女性陣は『大水海の障壁魔法』の中に入り、『旋風の刃の魔法』の準備をする。


 男性陣の行先には、地に落ちた火竜三頭が待ち受けているのであった。









 

 エンダーは一人、戦う。


 魔力回復薬のおかげで魔力切れの心配はないが、集中力の疲弊により、ただでさえ低い命中率がだんだんと落ちてきてしまっている。


 先程から、一発も当たっていない。


(……情け無いな、僕は)


 だが、諦める訳にはいかない。もしエンダーが一匹でも多く落とせば、その分、勝利に近づくのだから。エンダーは杖を構え直す。


 その時、背後から人が近づいて来る気配がした。


 エンダーは手を止め、振り返る。そこには、どこかで見た覚えのある人物がいた。


「……君は」


 そのメイド服を着た女性は、苦虫を噛み潰した様な顔をして無言で近づいてくる。そして立ち止まり、不機嫌そうな声でこう言った。


「……あなたがリナにちょっかいを出さないのであれば、力を貸してあげますが?」


 エンダーは思い当たる。彼女は『白い燕』と行動を共にしていて、彼女の素晴らしさを皆に語っていた人物だ。確か名前は——。


「……一応、名乗っておきますが、私はレザリア。レザリア=エルシュラント。別にお見知り置かなくて大丈夫ですので、さあ、約束を」









 グリムは隣にいるヘザーに語りかける。


「良かったよ、キミ達が間に合って。大変だっただろう?」


「ええ。クロカゲが頑張ってくれたので。それでも、ギリギリだったみたいですが」


 火竜襲来の知らせを受けたその日、グリムはヘザーにお願いをした。オッカトルに向かう道中で話に聞いた、『空を飛ぶ魔法』の使い手、『南の魔女』を連れて来て欲しいと。


 ここから『魔女の家』まで、普通のペースで六、七日間。


 それを、少しまわり道をしてビオラを拾い、その上で五日以内に『魔女の家』にたどり着けないかと。


 ヘザーの返事は、こうだった。ギリギリだが間に合うかもしれないと。


『魔女の家』にさえたどり着ければ、書庫からグリムに預けたバッグを通して出入り出来る。その場合、『魔女の家』に住まう者も戦力として連れて来れるという訳だ。


 正直、賭けだった。先行してレザリアを連れて来ようとは試みたが、彼女はその夜、集落の様子を見に家を空けていたのだから。


『南の魔女』を捨てヘザーとレザリアを取るか、三人を戦力としてあてに出来る可能性を選ぶか——グリムは後者を選ぶ。


 そしてヘザーは間に合った。言葉通り、ギリギリにはなってしまったが。


 結果論ではあるが、もしグリムが安定策を取っていたら今頃結界は破られ、この街は火竜達に蹂躙されていたことだろう。


 これもひとえに、クロカゲの頑張りのおかげだ。彼は今、『魔女の家』の馬房にてゆっくり身体を休めているとのことだ。


 そしてグリムは、もう一人の人物に声を掛ける。


「さて、キミはどうする? 無理はしなくていいぞ」


 だがその人物は首を横に振った。


「私も連れて行って。もしかしたら私の『深き眠りに誘う魔法』が、役に立つかもしれないから——」










 誠司は刀を振るう。ノクスは大剣を振るう。ボッズは火竜に飛び乗り、翼膜を噛みちぎる。


 気をつけて立ち回ってはいるが、炎を浴びたら引き返さなくてはならない。逃がしてくれればの話だが——。


「——せやっ!」


 まだ元気溢れるノクスが、一匹の火竜の首を両断する。


 ——斬


 誠司の一閃が、火竜の命を刈り取る。


「——ボッズさん、お待たせっす!」


 ジュリアマリアが駆け寄り、ボッズに斧を投げ渡す。


「フンッ!」


 その力を溜めた一振りは、火竜の頭をもぎ取った。


「……ふう」


「よお、セイジ。これならなんとか——」


 そうノクスが声を掛けようとした時だった。誠司が膝から崩れ落ちる。


「どうした、セイジ!」


 誠司は刀をつき、肩で息をしている。ノクスは慌てて振り返った。


「おい、ボッズ。セイジの様子が……」


 そのノクスの目に映ったのは、立ってこそはいるものの地面に斧をつき、誠司同様苦しそうにしているボッズの姿だった。


「……おい、お前ら一体……」


 そのノクスの言葉に、誠司は顔を上げ、無理矢理笑顔を作って答える。


「……悪いな、ノクス……どうやら、時間切れらしい」






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