表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第六章
181/610

『0%』 04 —砕け散る結界—






 女王竜達がやってくる。街の方へと真っ直ぐに向かって。竜達はもう、目前にまで迫っていた。


『——エンダー、頼んだぞ』


 グリムから通信が入る。街の外壁の上で待ち構えるエンダーは、杖を身構えた。


「——ああ、任せてくれ。もうすぐ射程内に入る」


 彼の足元には、大量の魔力回復薬が入った箱が置かれている。魔力切れの心配はないだろう。


『光弾の魔法』の射程距離は長い。魔法抵抗を貫通する性質も持つ。この場面において、最も有効であろう攻撃手段。


(——撃ち続けてやるさ、最後まで)


 エンダーは、火竜達に向け魔法を唱えた。


「——『光弾の魔法』」





 街から放たれる幾筋もの光が、火竜達の群れへと吸い込まれていく。


 これだけの火竜の数だ。外れる光弾も多いが、当たる光弾も多い。


 そしてその内の何発かは、火竜の飛行能力を奪うことに成功していた。


 だが——止まらない。


 火竜達の群れは、街の結界部分へと到達した。


 セレス達は群れの背後から攻撃を仕掛ける。エンダーは休まず撃ち続ける。火竜達は結界に攻撃を仕掛ける。


 竜と炎を対象にした結界。ライラが頑張って、頑張って張った結界。その結界の強度は凄まじく、今のところ火竜達の攻撃を防げている。


 そんな中——女王竜が大きく息を吸い込んだ。


『——来るぞ! 全員、備えろ!』


 グリムが叫ぶ。莉奈は上昇する。ナマカは障壁を張る。エンダーは結界を信じ、撃ち続ける。



 一瞬の静寂。後、絶望の火炎は、放たれた。



 炎が結界を包み込む。巻き起こる熱波。



 溶けていく、溶けていく、溶けていく——。



 結界は、よく耐えた。耐えてくれた。


 だが、女王竜の火炎ブレスを受け切った結界は、ブレスが止むと同時にその役目を終えた。


 ——パリンと音を立て砕け散る結界。


 それを見た火竜達は、全てを焼き尽くさんと街へと突撃する——。



 だが、先頭を飛ぶ火竜は見えない壁にぶつかった。後続の竜達も、見えない壁に阻まれ身体を打ちつける。


 その様子を好機とばかりに、速度を上げ連続で放たれるエンダーの光弾。それが何匹かの火竜を撃つ。


 困惑した様子を見せる火竜達。



 ——そう、ライラはその街を守る強力な結界を、『二枚』張っていたのだった。



 グリムは息をつく。


「しかし、このままでは後がないな」


 ジュリアマリアは唇を噛む。


「……やばいっすね、いよいよ。何か手は、ないんっすか……?」


「……ああ、何とか耐えるしかないな」


 とは言うものの、あと一発、女王竜の火炎ブレスが放たれれば全ては終わってしまうのだ。


 そこまで時間に猶予がある訳ではない。五分と経たずに次のブレスが来るだろう。


(……ここまでか)


 グリムが諦めかけた、その時だった。アオカゲにぶら下げてある荷物が動くのが、彼女の視界に入った。


 グリムの目が輝く。


「——全員、速やかに私の指示通り動いてくれ。一発、ぶちかますぞ」










 莉奈はグリムの指示を受け、地上にいる誠司達の元へと急ぎ、向かう。


 そこには、魔法を詠唱するナマカ、セレス、マッケマッケの姿があった。


 ヒイアカが、迫ってくる莉奈に叫ぶ。


「リナ!『身を軽くする魔法』、ナマカにかけといたから!」


「さんきゅ、ヒイアカ!」


 それと同時に、ナマカは詠唱を完成させる。


「——『大水海の障壁魔法』」


 彼女達の近くに、ドーム状の水の障壁が完成した。


 そのナマカを、莉奈はすくい取り上昇する。


 軽い。ヒイアカの魔法が効いているのだろう。


 そのナマカは、魔力回復薬を飲み干し次の詠唱を始めた。




 残された面々に、マッケマッケが『水の障壁』を配る。その間セレスは、最大限の魔力を込めた魔法の準備をする。


 やがて言の葉を紡ぎ終えたセレスは杖に魔力を収束し、女王竜の方を睨んだ。


「……あの位置だと厳しいわね」


「ああ。だが、グリム君を信じよう」


 誠司がセレスの肩に手を置く。セレスは誠司の方を向き、強く頷いた。


「——こちら、セレス。準備は出来たわ、いつでも大丈夫よ」





「——こちら莉奈。ナマカの準備も大丈夫!」


 女王竜の背後に回った莉奈は、ナマカの代わりに通信を入れる。


 ナマカは両手を前に突き出し、女王竜をジッと見据えている。


 女王竜は息を吸い込む動作をし始める。いよいよ絶望の火炎を吐き出す準備が出来たようだ。


 皆が、汗を握る。果たして、果たして間に合うのか——。



 そして、グリムの号令は下った。


『——今だ!!』



 それを合図に、ナマカの『大水海の障壁魔法』が放たれる。その空中に出来た湖は、女王竜を取り囲む火竜達を巻き込んだ。


 同時に、地上からセレスの魔法が放たれる。


「——『凍てつく氷の魔法』!」


 人々から『東の魔女』『魔人セレス』と称される、その彼女の全力を乗せた氷の最上級魔法は、湖めがけて放たれた。


 しかし距離が遠いせいで、凍らせるには至らない。


 だが、充分だ。湖の温度さえ下げられれば。



 そして、本命の魔法が上空から降り注ぐ。



「——『凍てつく氷の魔法』!」


 その魔法は、充分に温度の下がった湖めがけて放たれた。



 ——凍りつく、凍りつく、凍りつく。


   大気が、湖が、火竜達が——



 氷漬けにされる取り巻きの火竜達。さすがの女王竜も、困惑した様子を見せていた。


 その魔法を唱えた人物は、ふうと息を吐き眼下を見渡す。


 その空に浮かぶ者は、ウィッチハットにワンピース、マント姿と、いかにも『魔女』っぽい風体をしていた。



 彼女はつぶやく。



「それで、お姉様はどこにいるのかしら?」



 ——『南の魔女』、ビオラだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ