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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第六章
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『0%』 01 —道はあるか—







『——皆、ここまでよく頑張った。これ以降、生存を最優先に立ち回ってもらうことになる』


 グリムから全員あてに通信が入る。それを聞いた誠司は、グリムに聞き返した。


「——グリム君、どういうことかね?」


 その場の皆が疑問に思う。


 もとより、生存を重視して立ち回ってはいた。それでも、怖いくらい順調に成果を上げていたはずだ。


 現在、誠司の周りにいるのはセレス、マッケマッケ、ボッズ、それにヒイアカにナマカ。この地方において、トップクラスの実力を持つ面々。


『飛べない』火竜どころか『万全の』火竜でさえも、数さえ少なければ、もはや彼らの相手にはならない。


 ジュリアマリアは戻ってきていないが、彼女は街に近づく火竜がいたら引きつけるために待機しているとのことだ。


 莉奈に何かない限り、このままいけば問題ないはずだが——。


 グリムは淡々とした口調で告げる。


『——渡り火竜の特殊個体とも呼べる存在、『女王竜』がやってくる。連絡によると、全長百メートル近くある化け物とのことだ。しかも、渡り火竜三十頭ほどのオマケを引き連れてね』





『女王竜』——『渡り火竜の歴史における特異点』の正体。


 全ての渡り火竜は女王竜から産まれる。彼女は一つの場所に巣を作って数万年ほどとどまり、そこで渡り火竜を産み出し続ける。


 そして不運なことに、今年、女王竜は巣替えの為に動き出した。


 渡り火竜の習性か、巣替えの年は世界中全ての渡り火竜が女王の元へと集う。


 前回の巣替えは数万年前——それは、文献にも残ってないほど遠い昔の話。


 人間族は勿論、長命のエルフ族でさえ知る者はいない。


 ——その年、その地の全てが焼き尽くされたことを——。





 グリムからの通信を受けた面々は絶句する。


 すでに、五十頭近くの渡り火竜を倒した。当初の予定に近い数字だ。


 だが、女王竜に加えて渡り火竜三十頭。上空で莉奈が引きつけている二十五頭近くを合わせれば、まだ半分も倒していない計算になる。



 ——心の折れる音が、聞こえる。



「……合わせて百頭ですって、セレス様。しかも特殊個体付きとか……はは……」


 マッケマッケが自嘲する。


「……ここまでかしらね」


 セレスが諦観ていかんの表情を浮かべる。


「大変なことになったね、ナマカ……」


「うん、そうだね。どうしよう、ヒイアカ……」


 ヒイアカとナマカが困惑する。


「…………」


 ボッズは無言で目を瞑る。


 そんな彼らを、誠司はただ、無言で見つめる——。





 上空の火竜達が動いた。何かに呼ばれたかのように、一点へと向かい一斉に引いていく。


 恐らく女王竜と合流をするためだろう。取り残された莉奈は、誠司達の元へと降り立った。


「お疲れ、莉奈。よく頑張ったな。ありがとう、助かったよ」


 誠司は優しい口調で、莉奈にねぎらいいの言葉をかけた。だが、莉奈は浮かない顔でうつむく。


「……うん。あのね、みんなに謝らないといけないことが……」


「——莉奈。君は知っていたんだね、こうなる事を」


 その誠司の言葉に、莉奈はビクッとする。それを聞いた皆の視線が、莉奈に集まった。


「……うん、ごめん」


 うつむいたまま、皆に謝る莉奈。マッケマッケが、苦しそうな表情で莉奈を問いただす。


「……それ、ホントですか? リナさん、知ってるんなら、なんで教えてくれなかったんですか……」


「……それは……」


「待ちなさい、マッケマッケ君」


 言葉を詰まらせる莉奈を見て、誠司は穏やかな顔つきで一人ひとりを見渡した。


「——皆も聞いて欲しい。もしそれを、事前に私達が知っていたとしたら……君達はどうしていたかな?」


 皆は沈黙し、考える。もし、事前に知っていたら——ヒイアカとナマカが口を開いた。


「もしハウメアが知っていたら、私達を行かせなかっただろうね。ナマカ」


「うん。私達がよくても、絶対に呼び戻されてたよね、ヒイアカ」


 その二人の言葉を聞き、皆が唸る。ハウメアという人物なら確かにそうするだろう。その場合、特にナマカの『大水海の障壁魔法』がなければ、すでに誰かしらの命を失っていたか、街を捨てての撤退戦を余儀なくされていたはずだ。


 ボッズが目を閉じたまま答える。


「この二人がいなければ、少なくともオレは死んでいたな」


 セレスが莉奈を見つめる。


「私も……私は残って戦うとして、早々に皆を逃がす方向で考えていたと思う」


 マッケマッケはため息をつく。


「確かに、あーしも事前に知っていたら、今のこの状況はなかったと思います……」


「そうだろう? 何よりそのことを知っている莉奈が、孤軍奮闘、頑張っていたんだ。何か思うところがあるんだろう。莉奈、この先に道はあるのかね?」


 誠司の問いに、莉奈は顔を上げる。その瞳は誠司の優しさを受け、少し潤んでいた。


「うん。私がこの場から『女王竜』を引き剥がす。何としてでも」


「……莉奈……それは危険だ。やめなさい」


 誠司は、皆は、『女王竜』がどの様なものか知らない。しかし、全長が百メートル近くはあるという化け物だ。莉奈一人でどうにか出来る相手ではないだろう。


 心配する誠司に、莉奈は微笑んだ。


「……ありがと。でも、大丈夫。私にしか出来ないの。私がやらなきゃ」


「……いや、そうは言ってもだな……引き剥がした後はどうする。ずっと逃げ回るつもりかね?」


「道はあるよ。あるんだよ、誠司さん——」


 莉奈は真っ直ぐ誠司を見据える。


「——マルティの城に『義足の剣士』さんがいる。私と彼、そしてマルティの三人で『女王竜』を止めてみせる」






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