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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第五章
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ケルワン防衛戦 09 —役立たず—






「ジュリ、この人は?」


「……あー、二つ星冒険者のエンダーさんっす……くっ、もしかして『嫌な予感』って、これのことっすか……」


「やあ、ジュリ、久しぶり。相変わらず小さくて可愛いね」


「小さい言うなっ! 気にしてるんっすから!」


 グリムの後ろで「ガルルル……」とうなるジュリアマリア。


 グリムはため息をつき、空を見上げた。


「再会を懐かしむのも結構だが、火竜達が向かって来ている。エンダーとやら、力を貸してくれるということでいいのかな?」


 二人がグリムの見上げている方を見ると、体勢を立て直した火竜達が向かって来ていた。


 エンダーは長い杖をクルリと一回転させ、火竜達の方へと向ける。


「当然さ、素敵なお嬢さん。よければ名前を聞かせて欲しいな」


「私の名はパブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソだ。よろしく」


「えっ、グリムさん、そんな名前だったんっすか?」


「おい、言うな」


「なるほど、グリムだね。どうだい、終わったら食事でも——」


 と、三人が軽口を叩き合っている時だった。火竜達が滑空しながら、速度を上げ襲いかかってくる。


 散り散りに逃げる三人。エンダーは白馬の尻を叩き、街の方へと逃した。


「ヒュー。近くで見るとすごい迫力だねえ」


「いいから早く撃て! 役立たず!」


 遠くからジュリアマリアの叫び声が聞こえる。エンダーは今度こそ杖を火竜の方へ向け、詠唱を始めた。


 一匹の火竜がエンダーに狙いを定める。手早く言の葉を紡ぎ終えた彼は、帽子を手で押さえながらその魔法を唱えた。


「——『光弾の魔法』」


 杖から放たれる一筋の光。


 しかしその光線は——外れた。いよいよ迫り来る火竜。


 だが、既にエンダーは次の詠唱を終わらせていた。


「——『光弾の魔法』」


 その光弾は、火竜の翼の根元部分を貫く。いよいよ飛行能力を奪われた火竜は、勢いそのままにエンダー目掛けて突っ込んできた。


 それをエンダーはゴロゴロと転がり避け、地面に片膝をついて起き上がる。


「はは! すごいねえ、僕の魔法をかわすだなんて。でも、二発連続は無理だったようだね?」





 グリムはジュリアマリアに並走し、尋ねる。


「なあ、ジュリ。あれは『光魔法』か?」


「ええ、エンダーさんは数少ない光魔法の使い手っす。ただ、見ての通りノーコンなんで……ああっ、ウチも何度巻き添えを喰らいそうになったことか!」


「……なるほど」


 グリムはそうつぶやき、ジュリアマリアと分かれ、エンダーの元へと駆け出していった——。





 グリムがたどり着くと、そこには火炎ブレスを必死になって避けているエンダーの姿があった。


 グリムは自分の腕を火竜の顔に投げ当てて気を逸らし、その隙にエンダーへと駆け寄る。


「やあ、エンダーとやら。私がおとりになろう。その隙に、奴を仕留めてくれ」


 そのグリムの言葉に、一瞬顔を歪めるエンダー。しかし次の瞬間には、いつもの飄々(ひょうひょう)とした仮面を被る。


「はは。それには及ばないよ、グリム。ここは僕に任せてくれ」


「……私の言う事を聞けば、食事に付き合ってやってもいいが?」


「ヒュー。本当かい?」


「——避けろ」


 グリムがエンダーを突き飛ばす。その位置を、業火の火炎が吹き抜けた。


 茫然とするエンダー。無意識のうちに伸ばしかけた腕を、力なくダランと降ろす。しかし彼は、予想外の光景を目にすることになる。


 火炎の中から、身体を再生しながらグリムが歩み出て来た。信じられない。それを見たエンダーは、言葉を絞り出す。


「……君は、一体……」


「ご覧の通りだ。だからキミは、巻き添えを気にすることなく撃ってもらって構わない。私ごと、やれ」


「……!」




 ——それは、エンダーのかせであった。


 彼は、誰とも組まずにソロで活動をする冒険者だ。


 エンダーは口ぶりではあんな感じだが、自分のコントロールの無さは自覚している。


 当時の彼は積極的に仲間を募り、あるいは自分を売り込んでいたが——その自身の魔法のせいで、仲間を傷つけてしまったことがある。


 いつしか彼は、周りに人がいる時は魔法を使わないようになった。もう、自身のせいで誰かが傷つくのは、嫌だったから。


 自分へのいましめ。そのしばりのせいで、周囲が危険な状況に晒されるほど魔法が使えなくなる魔法使い。役立たず。


 それはすなわち誰かと組むことはせずに、ソロでの活動を余儀なくされる枷であった。


 孤独なエンダー。彼がプライベートで無駄に人と関わり合おうとするのは、その反動なのかもしれない。



 ——だが、今、エンダーはグリムと走り出す。



「……本当に君は、僕の攻撃を受けても大丈夫なのかい?」


「ああ、保障する。心臓と頭を同時……いや、簡潔に言うと粉微塵にされない限り私は死なない。しかも、痛みもないぞ」


「はは、すごいんだね、君は……」


 まるで噂に伝え聞く、『厄災』並の再生能力だ。エンダーは舌を巻く。


 二人は火竜の注意を引きつけながら走り続ける。そして頃合いを見たグリムは速度を落とし、エンダーの背中に声を掛けた。


「では、お手並み拝見といこうか。期待しているぞ、エンダーとやら」


 そう言ってグリムは振り返り、火竜と対峙した。





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