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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第五章
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ケルワン防衛戦 08 —光弾の射手—






 グリムとジュリアマリアは、二頭の火竜を引きつけ逃げ回る。


 ジュリアマリアは、通信魔法ごしにグリムに叫んだ。


「——ちょっと、グリムさん? 作戦とかないんっすか!?」


『——ああ。肉体のリミッターを外しているとは言っても、私の攻撃は奴らには通用しないだろうからね。逃げ回るので、精一杯さ』


「——くっ……何か秘策がありそうな感じかもし出しておいて……」


『——まあ、初コラボなんて往々にしてそんなものだ。放送事故は付き物さ。そうだジュリ、この力、『限定解除』と名付けたいのだがどうだろう?』


「——そういうのは、後にしてください……」


 と、そんな軽口を叩いている彼女達であったが、実はかなりの余裕を持って立ち回れている。


 撹乱かくらんはジュリアマリアの得意とする所ではあるし、肉体のリミッターを外している——限定解除をしているグリムの動きは火竜達を翻弄している。


 そんな二人が息をあわせて動いているのだ。目的である、街の結界から引き剥がすことには成功している。


 だが、彼女達の力だけでは、その先がない。


「——どうします? このまま皆の元へ引き連れていくのもアリだと思うっすけど」


『——……いや、今はやめておこう。あちらも次の戦闘に入っている』


 彼らは今、集団で移動をしながら、火竜達が合流する前に数を減らすという動きをとっている。


 地上戦において余裕のある今、出来るだけ確実に数を減らしておきたい。


 そう、『奴』が来る前に——。


 そんなことをグリムが考えている時だった。ひたすらに逃げ回るグリム達に嫌気がさしたのか、火竜達が街へと戻る動きを見せ始める。


 二人は合流し、後を追いかける。


「……マズいっすね。結界って、どのくらい持つんっすか?」


「分からない、な。もうしばらくは耐えると思うが、これに関してはライラを信じるしかない」


 グリムは一瞬、莉奈を呼ぼうかと考える。彼女なら、二匹程度の火竜を落とすぐらい訳ないだろう。


 しかし、今、彼女は約二十頭もの火竜を相手取っている。彼女にこれ以上の負担をかける訳にはいかない。今は、まだ。


 グリムは街へと駆けながら、振り返り空を見上げた——。










「んならぁ、こんちくしょうがあっ! かかってこいやぁっ!!」



 ——当の莉奈は、荒ぶっていた。ものすごく。



 落としても落としても、キリがない。


 火竜の動きには慣れた。クラリスの歌のおかげで疲労もない。


 しかし、数が数だ。一瞬でも気を抜けば、落とされるのは莉奈の方なのだ。あと、一人で戦うのは、少し寂しい。


(……もう、五十匹以上来てるよね? まだ来んの!?)


 最新の通信では、既に二十九頭が討ち倒されたらしい。しかしまだ、地上には何頭もいる。そして、莉奈が対峙しているのは約二十頭。五十はすでに超えている。


(……もう! 予報とか全然あてになんないじゃんっ!)


 ——それに——。


 考えようとして莉奈は首を振る。今は目の前の火竜達を何とかすることに集中しなければ。


「でやあっ! どうしたぁっ、こいやあぁっっ! しゃあっ!」


 燕は声を張り上げ、自分自身を鼓舞するのであった——。










 二匹の火竜が街を襲う。


 吐かれる炎。結界への攻撃。


 このままでは、結界が破られてしまうのは時間の問題だろう。


 グリムは誠司から預かっている短刀で、自分の左腕を切り落とす。そしてそれを、火竜に向け投擲とうてきした。


 その左腕は見事、火竜の身体に当たるが——火竜はそれを一瞥いちべつし、街への攻撃を続ける。


「ふむ。先程はこれで注意を引けたのだがな」


「……グリムさん、グロいっす……」


 ジュリアマリアの不満を聞き流し、左腕を生やしながらグリムは考える。


 奴らが空を飛ぶ以上、何も手出しは出来ない。だとしたら、対空攻撃手段を持つ者が必要だ。


 しかし、莉奈は動かせない。動かしたとしても、火竜達を引き連れてくるリスクの方が大きい。


 そうなると、戦力的にマッケマッケとヒイアカを呼び戻すべきなのだろうが——ここまで来るのに時間がかかるだろう。それにどちらか一人では、火竜は叩き落とせない。なら、戦力の分散は避けたい。



 ——そう、最適解は、ない。



「……ふう、まいったね。なら、奴らの気を引けるまで投げ続けるしかないな。私は腕を、投げるのみ、だ」


「もー、ボッズさんみたいなこと言って……」



 と、その時だった。


 街の入り口の方から、一筋の光が放たれる。その光線は、一匹の火竜の翼膜を突き抜ける。たまらずバランスを崩す火竜。


 そして光線は、二発、三発と発射された。その内の一発が、もう一頭の火竜の翼膜を突き抜ける。


 高度を落とす火竜達。グリム達は目を見張る。


 やがて、その光が放たれた街入り口の方から、馬に乗ってグリム達に向かい駆け寄ってくる人影が見えた。


 それを見たグリムはつぶやく。


「ふむ。計算通りだ」


「えっ……マジっすか!?」


「すまない、言ってみたかっただけだ」


 とぼけたグリムの言葉に、崩れ落ちるジュリアマリア。グリムは目を細める。


「ところでジュリアマリア。彼が誰だか、キミは知っているかい?」


 それを聞いて近寄って来る人物を認めたジュリアマリアは、「うへえ」と顔を歪めた。


 やがて白馬に乗って来た男はグリム達のそばに着いて馬を降り、マントをひるがえしながら飄々(ひょうひょう)と語りかけてきた。ジュリアマリアがグリムの背に隠れる。


「はは、どうやら間に合ったようだね、お嬢さんがた。どうだい、早いとこ片付けて、この後一緒に食事でも」


「嫌っすよ。あんた、酒弱いっすもん……」



 グリムにとって思いがけない援軍——魔法抵抗力を無視する稀有けうな『光魔法』の使い手、二つ星冒険者、『光弾の射手』エンダーである。





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