ケルワン防衛戦 08 —光弾の射手—
グリムとジュリアマリアは、二頭の火竜を引きつけ逃げ回る。
ジュリアマリアは、通信魔法ごしにグリムに叫んだ。
「——ちょっと、グリムさん? 作戦とかないんっすか!?」
『——ああ。肉体のリミッターを外しているとは言っても、私の攻撃は奴らには通用しないだろうからね。逃げ回るので、精一杯さ』
「——くっ……何か秘策がありそうな感じ醸し出しておいて……」
『——まあ、初コラボなんて往々にしてそんなものだ。放送事故は付き物さ。そうだジュリ、この力、『限定解除』と名付けたいのだがどうだろう?』
「——そういうのは、後にしてください……」
と、そんな軽口を叩いている彼女達であったが、実はかなりの余裕を持って立ち回れている。
撹乱はジュリアマリアの得意とする所ではあるし、肉体のリミッターを外している——限定解除をしているグリムの動きは火竜達を翻弄している。
そんな二人が息をあわせて動いているのだ。目的である、街の結界から引き剥がすことには成功している。
だが、彼女達の力だけでは、その先がない。
「——どうします? このまま皆の元へ引き連れていくのもアリだと思うっすけど」
『——……いや、今はやめておこう。あちらも次の戦闘に入っている』
彼らは今、集団で移動をしながら、火竜達が合流する前に数を減らすという動きをとっている。
地上戦において余裕のある今、出来るだけ確実に数を減らしておきたい。
そう、『奴』が来る前に——。
そんなことをグリムが考えている時だった。ひたすらに逃げ回るグリム達に嫌気がさしたのか、火竜達が街へと戻る動きを見せ始める。
二人は合流し、後を追いかける。
「……マズいっすね。結界って、どのくらい持つんっすか?」
「分からない、な。もうしばらくは耐えると思うが、これに関してはライラを信じるしかない」
グリムは一瞬、莉奈を呼ぼうかと考える。彼女なら、二匹程度の火竜を落とすぐらい訳ないだろう。
しかし、今、彼女は約二十頭もの火竜を相手取っている。彼女にこれ以上の負担をかける訳にはいかない。今は、まだ。
グリムは街へと駆けながら、振り返り空を見上げた——。
†
「んならぁ、こんちくしょうがあっ! かかってこいやぁっ!!」
——当の莉奈は、荒ぶっていた。ものすごく。
落としても落としても、キリがない。
火竜の動きには慣れた。クラリスの歌のおかげで疲労もない。
しかし、数が数だ。一瞬でも気を抜けば、落とされるのは莉奈の方なのだ。あと、一人で戦うのは、少し寂しい。
(……もう、五十匹以上来てるよね? まだ来んの!?)
最新の通信では、既に二十九頭が討ち倒されたらしい。しかしまだ、地上には何頭もいる。そして、莉奈が対峙しているのは約二十頭。五十はすでに超えている。
(……もう! 予報とか全然あてになんないじゃんっ!)
——それに——。
考えようとして莉奈は首を振る。今は目の前の火竜達を何とかすることに集中しなければ。
「でやあっ! どうしたぁっ、こいやあぁっっ! しゃあっ!」
燕は声を張り上げ、自分自身を鼓舞するのであった——。
†
二匹の火竜が街を襲う。
吐かれる炎。結界への攻撃。
このままでは、結界が破られてしまうのは時間の問題だろう。
グリムは誠司から預かっている短刀で、自分の左腕を切り落とす。そしてそれを、火竜に向け投擲した。
その左腕は見事、火竜の身体に当たるが——火竜はそれを一瞥し、街への攻撃を続ける。
「ふむ。先程はこれで注意を引けたのだがな」
「……グリムさん、グロいっす……」
ジュリアマリアの不満を聞き流し、左腕を生やしながらグリムは考える。
奴らが空を飛ぶ以上、何も手出しは出来ない。だとしたら、対空攻撃手段を持つ者が必要だ。
しかし、莉奈は動かせない。動かしたとしても、火竜達を引き連れてくるリスクの方が大きい。
そうなると、戦力的にマッケマッケとヒイアカを呼び戻すべきなのだろうが——ここまで来るのに時間がかかるだろう。それにどちらか一人では、火竜は叩き落とせない。なら、戦力の分散は避けたい。
——そう、最適解は、ない。
「……ふう、まいったね。なら、奴らの気を引けるまで投げ続けるしかないな。私は腕を、投げるのみ、だ」
「もー、ボッズさんみたいなこと言って……」
と、その時だった。
街の入り口の方から、一筋の光が放たれる。その光線は、一匹の火竜の翼膜を突き抜ける。たまらずバランスを崩す火竜。
そして光線は、二発、三発と発射された。その内の一発が、もう一頭の火竜の翼膜を突き抜ける。
高度を落とす火竜達。グリム達は目を見張る。
やがて、その光が放たれた街入り口の方から、馬に乗ってグリム達に向かい駆け寄ってくる人影が見えた。
それを見たグリムはつぶやく。
「ふむ。計算通りだ」
「えっ……マジっすか!?」
「すまない、言ってみたかっただけだ」
とぼけたグリムの言葉に、崩れ落ちるジュリアマリア。グリムは目を細める。
「ところでジュリアマリア。彼が誰だか、キミは知っているかい?」
それを聞いて近寄って来る人物を認めたジュリアマリアは、「うへえ」と顔を歪めた。
やがて白馬に乗って来た男はグリム達のそばに着いて馬を降り、マントを翻しながら飄々と語りかけてきた。ジュリアマリアがグリムの背に隠れる。
「はは、どうやら間に合ったようだね、お嬢さんがた。どうだい、早いとこ片付けて、この後一緒に食事でも」
「嫌っすよ。あんた、酒弱いっすもん……」
グリムにとって思いがけない援軍——魔法抵抗力を無視する稀有な『光魔法』の使い手、二つ星冒険者、『光弾の射手』エンダーである。




