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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第五章
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ケルワン防衛戦 05 —籠—






『——ごめん、抑え切れない! 何匹か地上に行った!』



 もはや通信のていを保つことが出来ず、ヒステリック気味に叫ぶ莉奈。彼女は頑張っている。想像以上の働きだ。



 莉奈の通信に返事を返したグリムは、静かに目をつむる。


 ——私も頑張らなくてはな。


 グリムは集中する。




 戦いの準備期間、彼女はギルドに行って魔力量を計測してきていた。


 その結果は『12』。この世界において、グリムに魔法の才能は、ない。


 だが、全くないという訳ではない。魔力を感じとることぐらいは出来る。




 彼女は集中する。


 通信魔法に使われている微弱な魔力を。


 彼女は解析する。


 その方角、その減衰から予測される各人の大体の位置を。


 そして彼女の脳内に——戦場の盤面が描かれた。視界では捉えきれない、全員の配置を。


 グリムは静かに、通信魔道具で全体に告げる。


「——それでは各人、混線してもいい。渡り火竜の視界に入る頭数を、変化がある度に報告してくれ。必要があれば、都度、私から指示を出す。皆、健闘を祈る——」












 セレスとマッケマッケは、火竜を引き連れ逃げていた。


 その数、『飛べない』渡り火竜が四頭、『万全の』渡り火竜が一頭。この数になってくると、まともに渡り合うのはかなり苦しい。


「——『水の障壁魔法』」


「——『水の障壁魔法』」


 彼女達は、障壁を張り続ける。直後、襲いかかってくる炎。彼女達の障壁が、蒸気と共に剥がされる。


「キリがないわね——『水の障壁魔法』」


「飛ぶやつがいると、さすがにキツいですね——『水の障壁魔法』」


 火竜達は地上を速く走れる訳ではない。だが、奴らが走ることに注力すれば人が走る速さなどは軽く凌駕りょうがする。


 セレスは障壁が維持出来ている隙に、バッグから大筒を取り出した。そして振り返り、火竜目掛けて発射する——



 ——ドゴォン……



 ——反動で吹き飛ばされるセレス。そして、火竜達の目前に着弾した弾は大きな音を立てて爆発した。


「グォオオォォォォ!」


 ダメージは大してない。だが、火竜達を僅かの間足止めすることに成功する。マッケマッケはセレスを助け起こし、大筒を置いて再び駆け出した。


「ああ、もう! あの大筒、高かったのに!」


「運が良ければ後で回収出来ますって。ほら、もう少しですよ」


 一瞬怯んだものの、再び駆け出す火竜達。空を旋回する火竜は、炎を吐き出す。


「——『水の障壁魔法』」


「——『水の障壁魔法』」


 それを防ぎながら、二人は駆け続けた。やがて二人の視界に——。


「見えました、セイジさんです!」


 彼女達の目的の場所には、誠司がいた。それを確認したセレスは、駆けながら超長文詠唱を始める。


 火竜達は容赦なく炎を吐き出す。マッケマッケは、自身とセレスに障壁を張り続ける。


 ——そして言の葉は、紡がれた。



「——『渦巻く颶風ぐふうの魔法』!」



 激しい風の刃が空を飛ぶ火竜を切り刻む。魔法抵抗力が高い火竜とはいえ、その『風の最上級魔法』の威力に翼膜がズタズタにされる。


 高度を維持出来ず、地面付近まで降りてくる火竜。それを見た誠司は、グリムに通信を入れた。


「——五匹が範囲内。グリム君、やってもいいか」


『——ああ、よろしく頼む』


 グリムの返事を聞いた誠司は、目をつむる。セレスとマッケマッケは左右に分散した。火竜達の動きが一瞬止まる。



 そして誠司は、一瞬の光に包まれる——。



 顕現けんげんした少女は、いつものように自分の身を守る祈りを——捧げなかった。



 少女はすぐに目を開き、魔法を発動させる。



「——『反転の結界魔法』発動!」



 高らかに放たれる凛とした声。ライラが白い杖で地面をトンと叩くと、範囲百メートル、火竜達を閉じ込める結界が発動した。


 ——そう。ライラは街への結界とは別に、竜を閉じ込めるかごを仕込んでいたのだ。


 そして、少女は詠唱を始める。


「——『子守唄の魔法』」


 魔法の効果はすぐに現れたが、少女はそれにあらがう。


 襲いかかる睡魔。だがそれに耐えながら、続け様にライラは彼女がもっとも得意とする祈りを捧げた。


「……——『身を守る魔法』……」


 その魔法の効果が現れる前に、先程の『子守唄の魔法』の効果を受け入れたライラは一瞬の光に包まれる。


 入れ替わりで再び現れた誠司に、完全ではないが『身を守る魔法』の効果が現れた。



(……ありがとう、ライラ)

 


 結界の対象は火竜、そして炎。それらは結界の外には出られない。


 セレスの銃弾で一匹ずつ確実に仕留めたいところだが、そこまで悠長にしている時間はない。


 結界も、戦況も、どこまで持つか分からないのだから——。


 誠司は火竜達のうごめくかごへと向かい、駆け出していった。




 誠司は結界の境界を上手く使い、立ち回る。『身を守る魔法』のおかげで、相手の多少の攻撃はいとわわない。


 マッケマッケは誠司に『水の障壁魔法』を掛け続ける。セレスは銃を構え、集中する——。




 そして五分後——。


 無事、結界内の火竜五頭の殲滅せんめつに成功し、グリムに連絡を終えた彼らは息をついた。


「ありがとうございます、セイジさん!」


「いや。これも全部、ライラのおかげだ。飛んでいる火竜を潰せたのは大きいな」


「ええ。それにしても『渦巻く颶風ぐふうの魔法』でも落としきれないんですもの。もし、リナがいなかったら……」


 三人は空を見上げる。そこには、大量の火竜の影を引き連れて飛び回っている彼女の姿がおぼろげに見えた。


 グリムから通信が入る。


『——キミ達、ボッズ達が苦戦している。一旦固まって、例の動きをやるぞ。全員、すぐに向かってくれ。場所は——』


 通信を聞いた彼らは頷き合い、すぐに駆け出した。


「いよいよ始まるな、総力戦が」


「ええ。分散しての各個撃破は、もう無理そうね。私達は上手くやれてるのかしら……」


「やるしかないですよ。ここまできたら」


 彼女達は身体強化魔法を掛け直しながら、ボッズ達の元へと向かう。



 現在、渡り火竜討伐数、十五頭。本来ならば、この人数でも偉業と呼べる成果である。


 しかしまだ、この戦いにおいては前哨戦に過ぎない。



 破滅の羽ばたく音が近づいて来る——。




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