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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第五章
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ケルワン防衛戦 03 —マッケマッケ—





『——こちら誠司。渡り火竜一体、無事撃破。所定の位置に戻る』



 誠司から通信が入る。それを聞いたセレスは、飛び跳ねて喜んだ。


「——ねえ、聞いたかしらマッケマッケ! さすがセイジ、格好いいわ! あーもう好き好き!」


「あの、セレス様……通信、開いてますよ……」


 慌てて通信を遮断し、顔を覆ってしゃがみ込むセレス。マッケマッケはため息をつく。


「まったく、抑圧されたものが解放されると人ってこんなんなっちゃうんですね。この恋愛狂いが」


「あの、マッケマッケ? 聞こえてるわよ?」


「聞こえるように言ってますので。さ、セレス様。あーし達の出番ですよ」


 マッケマッケは空から落ちてくる火竜を睨む。セレスはしゃがみ込んだまま、黒いボストンバッグからスナイパーライフルのようなものを取り出した。


「……まったく、なんでアイツら、魔法抵抗力が高いのかしらね。魔法の通りが良ければ、ちょちょいのちょいなのに」


「まあ、そういう種族だからでしょう。それでも、あーしの敬愛してやまない『東の魔女』セレス様なら、まだ相性がいい方でしょうに」


「……飴と鞭かしら? まあそれに関しては、魔道具様々っていうところね」


『東の魔女』セレスは、『魔人』と称される程度には魔法に精通し、扱いこなせる人物ではある。


 だが、彼女の本領はそこではない。


 魔道具を使った戦闘——それこそが、彼女の最も得意とする領域なのである。


 セレスは魔法の込められた弾を、銃に装填する。


「じゃあマッケマッケ、お願いね」


「はいはーい。じゃあ宜しくお願いしますねえ」


 地面に落ちた火竜は起き上がり、こちらを睨む。その火竜目掛けて、マッケマッケは駆け出していった。


「——『暗き刃の魔法』」


 マッケマッケはまず、牽制として黒い刃を火竜に撃ち込む。火竜の身体に突き刺さる刃。さほど効いているわけではないが、意識を自身に向けさせることに成功する。


 火竜は口を開き、マッケマッケ目掛けて灼熱の炎を吐き出した。


 それよりも一歩早く、マッケマッケは次の詠唱を終わらせる。


「——『水の障壁魔法』」


 炎が届くよりも先に、マッケマッケの身体が水の膜に包まれる。直後、マッケマッケは火竜の炎に包まれるが——その炎の中から、蒸気に包まれた彼女が飛び出してきた。




 ——マッケマッケは何かに特化した、いわゆる超上級魔法と呼ばれるものは扱えない。残念ながら、才能に恵まれなかったのだ。


 しかし、彼女は努力した。自分の可能性を信じて。


 結局彼女には適性となる、得意と呼べる属性はなかった。だが、その努力の過程で、彼女は実に数多くの魔法を身につけたのであった。


 その彼女の引き出しの多さ、それを的確に引き出す判断能力は素晴らしい。


 それは、才能に恵まれなかったからこそ見つけることが出来た才能。彼女の扱える魔法の全てが、彼女の限界値にまで熟練されたオールラウンダー。




 そんな彼女——『魔法の量販店』マッケマッケは、今、火竜の前に躍り出る。


(んじゃ、セレス様。お願いしますよ)


「——『灯火の魔法』」


 マッケマッケは魔法を唱え、火竜の目の前に灯りを出現させた。


 そしてその灯りを、ククッと急上昇させる。


 その光に釣られ、一瞬、顔を上げてしまう火竜。



 ——首元の、竜の逆鱗があらわになる——



 離れたところからスナイパーライフルを構えて待っていたセレスは集中する。


(相変わらずの手際ね、マッケマッケ)


 そしてセレスは、引き金を引いた。


 ——ズドン……


 発射された銃弾は、次の瞬間には火竜の逆鱗を寸分の狂いもなく穿つ。急ぎ退避するマッケマッケ。


「グォオオオオオオォォォォーーッッ!」


 逆鱗を穿たれ、叫び声を上げる火竜。そして、火竜は怒り狂——



 ——バンッ、と響き渡る破裂音。



 ——火竜は怒り狂う間もなく、その首は弾け飛んだ。



 セレスの放った弾丸には『ぜる光炎の魔法』が込められていた。


 いかに火竜の魔法抵抗力が高いとはいえ、内部から、しかも魔法抵抗の影響を無視する『光属性』の力が込められている魔法が爆発すれば、ご覧の通りひとたまりもないだろう。


 問題は『光属性』の使い手は殆どいないので、この弾丸は大陸から取り寄せた貴重品であるという点だが——状況が状況だ、出し惜しみをしている場合ではない。


 セレスの元に、マッケマッケが駆け戻ってくる。


「いやあ、さすがセレス様。お見事でしたよ」


「いえ、身体強化魔法でゴリゴリに強化してるから、このぐらいはね。とは言え……マッケマッケ。あなたも感じたかしら……」


「……はい。『飛ばない』ってだけで、こんなにも相手しやすくなるもんなんですね」


「ええ。あの娘の……リナのおかげね」


 セレスは空に踊る人影を眺めながら、通信魔法を立ち上げる。


「——こちらセレス。渡り火竜撃破。所定の位置に戻るわ」











『——こちら誠司、渡り火竜三体目との交戦に入る』



 通信を聞きながら一旦水を飲み、喉を潤したクラリスはグリムに話しかける。


「うふふ。思ったより順調じゃないですか。これ、このままいけちゃうんじゃないですか?」


 クラリスがそう思うのは当然だろう。瞬く間に、しかも危なげなく二体の渡り火竜を倒したのだから。


 しかし、グリムはゆっくりと首を振る。


「いや。ここまでは『飛べない渡り火竜』単体に対し、三つ星冒険者や魔女と呼ばれる者が二人一組であたったんだ。当然の結果だろう」


「うーん、まあ、そうですけど」


「観測所から連絡は入ってきている。ここからが本番だ。キミも休む暇はなくなるぞ」


「はあい! 喉が潰れるまで、頑張りますとも!」


 笑顔で歌を再開するクラリス。グリムはまず、三人に連絡を入れる。


「——ジュリ、ヒイアカ、ナマカ。いよいよ始まるぞ、キミ達の出番だ」


 三人から了承の返事が戻ってくる。それを確認したグリムは、次に莉奈に連絡を入れた。


「——莉奈、大丈夫か。そろそろ第二陣が来るぞ」


『——了解。じゃあ、全部叩き落とす方向で大丈夫?』


 そう、莉奈は頭数の少ない内は、決して二頭を同じ場所に落とさない様に立ち回っていたのだ。だが、いよいよそんな余裕もなくなる。


「——ああ。出来る限りな。だが、キミは『その時』が来るまで無茶するんじゃないぞ」


『——ふふ。もうだいぶ無茶してるよ……よっと。第一陣は後一匹……うん、第二陣が見えてきた』


「——そうか。一旦距離を取り、迎え撃ってくれ」


『——りょうかーい……って、うわ……』


 グリムは空を見ながら、返事を待つ。しばらくして、五匹目の火竜の影が落ちるのと同時に、莉奈から全体に向けた通信が飛んできた。



『——こちら莉奈。渡り火竜第二陣、及び、遠方に第三陣の影を確認。第二陣八頭、第三陣はおよそ六頭、間もなく会敵します——』





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