表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第五章
168/610

ケルワン防衛戦 02 —開戦—






 莉奈は地平線を見つめる。とても静かな、静かな空。


 緊張で手が震える。鼓動の音が、耳を打つ。


 莉奈は見つめる。注意深く、見つめる。



 やがて、魔法で強化された視界に、その影は映った。


 それは予想通り——真っ直ぐとこちらに向かって、飛んで来ていた。


 莉奈は静かに通信魔法を立ち上げ、皆に告げる。


「——こちら、莉奈。『渡り火竜』第一陣、六体を視界に確認。まもなく、会敵します」







 莉奈からの通信を受け取ったグリムは、同じく街の入り口近くに待機しているクラリスに声をかける。


「それではクラリス。長丁場になるが、早速始めてくれないか」


「うふふ。私、喉には自信がありますので! さあさあ、ご覧ください、二つ星冒険者『場末の歌姫』クラリス、一世一代の大舞台が今、開幕しますよー! あ、サイン要ります?」


「全てが終わり、伝説を作った暁にはな。では、配信を開始するぞ」


「はいはーい! じゃあ、おっぱじめますねー」


 そう言ってクラリスは咳払いを一つし、その透き通る歌声で高らかに歌い始めた。


 グリムはインカムをいじり、皆に通信を飛ばす。


「——それでは各自、クラリスの通信回線は常時開いておくように。大まかな動きは事前に打ち合わせた通りで、必要な時以外、基本的に私からは細かい指示は出さない。キミ達の経験と勘を信じているからな。皆の健闘を祈る」






 クラリスの歌が聴こえてくる。莉奈は身構える。渡り火竜は目前、初手は私だ。


 莉奈はビシッと小太刀を竜達の方に向け、宣言する。


「やいやいやい、このトカゲども! 三つ星冒険者の最弱筆頭、この莉奈さんが相手だっ。お手柔らかにかかって来い!」


 と勇んではみるものの、海竜ほどではないがやはりデカい。怖い。


 そして、その莉奈の煽りに乗ったのかどうか定かではないが、先頭を飛ぶ渡り火竜が口を開いて炎のブレスを吐いてきた。


(……おっと。でも、ヴァナルガンドさんよりかは怖くはないかな)


 莉奈は空中を旋回しながら炎をかわす。そして、火竜達よりも上空に浮かび上がって、獲物を見定める。


(……ええと。うん、あなたに決めた)


 莉奈は急降下し、一匹の背中に飛び乗った。背中に異物を感じ取り、暴れる渡り火竜。それを意にも介さずに、莉奈は小太刀を握りなおす。


(さてさて、どうかなあ)


 試しに、莉奈は渡り火竜の翼に小太刀を振り下ろす。しかし、カツンという音と共に、莉奈の小太刀は跳ね返されてしまった。


(硬っ! ここに刃が通れば楽だったんだけどねえ……)


 まあ、想像通りである。早々に諦めた莉奈は、当初の予定通り『翼膜』を切り刻んだ。


「グォオオオォォーーッ!」


 渡り火竜の動きが激しくなる。だが、問題ない。無理に動きに逆らわず、莉奈はもの凄い速さで翼膜を切り裂いていく。


 飛ぶ。乗る。しがみつく。切り裂く——その動きは、そう、まるで燕のように。


 やがてその火竜は飛行を維持出来なくなり、高度を下げていく。莉奈は地上を睨んで、もう片方の翼膜を切り裂いた。


(ようし、ドンピシャ!)


 飛ぶ術を失い、落ちていく火竜。そこは狙い通り、歴戦の三つ星冒険者達が待ち受けている場所であった。


(はい、次!)


 莉奈は急上昇し、五匹の火竜の前に立ち塞がる。


「やーいやーい! 悔しかったら、かかっておいでー!」


 同族を落とされ、色めき立つ火竜達。


『魔物は目立つ獲物から狙う』——その習性を利用するために、莉奈は小太刀を手の平でクルリと回し、火竜達を挑発するのであった——。






 火竜が落ちてくる。


 それを確認した誠司とボッズは、その火竜の元へと駆け向かった。


「さあ、ボッズ君。長丁場になるぞ」


「ふん。望むところよ」


 やがて、大きな音を立てて地面に打ちつけられる渡り火竜。それなりにダメージはあるはずだが——


「グォオオォォーー!!」


 ——火竜はすぐさま起き上がり、迫り来る誠司達を迎え撃つ体勢をとる。


「来るぞ、ボッズ君」


「ああ」


 開かれる口、渦巻く炎。火竜の口から、炎が放たれる。


 それを二手に別れ、回避する誠司とボッズ。そして火竜とすれ違いざま、その身体を——斬る。


「グギャァオオォォー!」


「やはり……硬いな」


 傷こそ与えられたものの、その硬い鱗に阻まれ大してダメージは入ってないだろう。火竜は誠司の方を向き、その炎を纏った口で噛みつこうとする。


(……食らったら、終わりだな)


 誠司は大きく飛び退き、火竜と距離をとった。空振りに終わる噛みつき攻撃。その隙にボッズが、斧を振るう。


「フンッ!」


 火竜の脚を狙って振り下ろされたその斧が、その骨を砕く。たまらずよろけ、踏ん張るために動きを止める火竜。


 その大きな隙を、誠司が見逃すはずがない。



 —— 一閃



 そう、動きを止めた竜など、誠司の相手ではないのだ。


 刀を鞘に納める音。落ちる首。断面から炎がくすぶる。


 ブスブスと音を立てながら、火竜の肉体は魔素へと還り始めた。魂が肉体から離れてゆく。


 それを確認した誠司達は、所定の位置へと駆け戻る。


「莉奈のおかげだな。飛ばない火竜なら、何とかなりそうだ」


「ああ。これで、五十分の一を倒したことになるな」


「……数字は言わないでくれ。先が思いやられる」


 誠司が空を見ると、二匹目の火竜が落ちてくるところだった。


 ——あちらはセレスに任せよう。


 誠司は通信魔法を立ち上げ、三匹目の火竜が落ちてくるのを待つのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ