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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第四章
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集えよ、冒険者たち 10 —ゲイン効果—






 住民の避難は終わった。ケルワンに住む者は、街から離れた南の平野部にいる。


 小規模ではあるが街が近くにあり、物資の運搬もしやすい場所だ。


 とは言っても、渡り火竜達をケルワンで食い止められなかったら、彼らには逃亡の日々が待っているのであろう。


 渡り火竜は人の匂いを辿って、必ずこちらにやってくるだろうから。


 民兵達は祈る。自分達の信望する『東の魔女』セレスの無事を。


 彼女は言っていた。『もし私達が敗れて渡り火竜がそちらに向かうようなら、住民を守りつつあなた達も逃げなさい。生きてさえいれば、国は立て直せるのだから』と。


 しかし、セレスのいないオッカトルなど、それは彼らの望むオッカトルではない。


 民兵達は、そして住民達は話し合う。


 ——もしセレス様がお亡くなりになられたら、私達も最期まで戦って、華々しく散ろうと——。






 火竜襲来を明後日に控えた夜。皆で打ち合わせをしている中、誠司の身体がピクリと反応する。


 その様子に気づいた莉奈が、小首を傾げた。


「どうしたの、誠司さん?」


「……いや。まさか彼女らが来るとはな……ちょっと行ってくる」


 立ち上がり、そう言い残して退室する誠司。残された者は顔を見合わせる。


 そして、五分程経っただろうか——誠司は二人の人物を連れて戻ってきた。


「皆んな。知っている者は驚くがいい。まさかの援軍だ」


 誠司の後ろから、ひょっこり顔を出す二人。魔族の耳をピョコンと立て、その手に杖を握りしめた彼女達は皆を見渡した。


「おーおー、錚々(そうそう)たる顔触れだね。ナマカ」


「うん。すごいね、ヒイアカ」


 その顔を見たセレスが驚く。


「……あなた達、どうして……」



 ——ヒイアカとナマカ。


 彼女達は北方のハウメアの治める国、ブリクセン国お抱えの三つ星冒険者である。


 三つ星冒険者とはいえ、ハウメアの側近だ。招集に応じることはないと考えていたのだが——。



「だって私達、これでも三つ星冒険者だもん。招集には応じたいさ。ね、ナマカ」


「うん。ハウメアも心配してたしね。それで、ハウメアから伝言。『力を貸した以上、一匹残らず全滅させなさい』だって」


「はは。また無茶を言う」


 そう言いながらも、誠司の顔は綻んでいる。これはあれだ。マイナスイメージを持った人がたまに良いことをすると評価が上がる、あれだ。



 ヒイアカとナマカは、順番に自己紹介をしていく。と言っても、初顔合わせは莉奈とグリムだけであったが。


「よろしくだね、リナ」


「……白い燕……実在したんだ……」


「……あはは……どうも。よろしくね、ヒイアカさん、ナマカさん」





「——そんで知ってる人も多いと思うけど、私、ヒイアカは攻撃魔法と補助魔法。そんでこっちのナマカは防御魔法が得意なんだ」


「うん。私は水魔法に適性があるから、それなりに役にたてると思うよ。ただ、ハウメアからのお願いで、私達は最前線には立たずに安全第一に立ち回りなさいって」


「いや、構わないさ。そもそも君達は、支援で本領を発揮するからな」


 誠司の言葉に、一同はうなずく。三つ星冒険者が新たに二人も加わったのだ。状況が劇的にくつがえる訳ではないが、非常に心強いのは確かである。


 誠司は時計を見て、口を開く。


「さて、ブリクセンからここまでだ。君達もだいぶ疲れているだろう。今日はここまでにするから、ゆっくり休みなさい。詳しい打ち合わせは、明日行うとしよう」


 その提案に、ヒイアカとナマカは顔を見合わせた。そして、ヒイアカが手を上げる。


「一つ確認したいことがあるんだけど、街の結界は大丈夫なの? まあ、マッケマッケがいるから抜かりはないと思うけど」


「うん。もしまだなら、私達、今から張りに行くよ。そんなに得意じゃないけど……」


 二人の言葉を聞き、マッケマッケとグリムは頷き合った。


「お心遣い、感謝します。でも、安心して下さい。そこいら辺は、抜かりありませんよ」


 マッケマッケは、にこやかに微笑む。そこでセレスが、不思議そうな顔をした。


「あら。あなた、私とずっと一緒にいるじゃない。いつの間に終わらせたの?」


「ふふ。あーし以上の結界魔法の使い手にお願いしてありますので。皆さんはゆっくり休んで英気を養って下さい」


「……どういうことかね?」


 誠司が口を挟む。皆の行動は把握している。それに、オッカトルにマッケマッケ以上の結界魔法の使い手はいないはずだ。だとしたら——。


 グリムが後を引き継いだ。


「キミは気づかないだろうね。まあ人知れず、戦いを始めている者がいるというだけの話さ。その成果を、期待しようじゃないか」











 ——深夜。



 ケルワンの街の周りを駆け回る少女の姿があった。


「——『結界の魔法』」


 少女の身体が淡い光に包まれる。効果が現れた証だ。


(……ふう。間に合うかなあ)


 結界を張り始めてからすでに三日目、あと、今夜と明日しかない。


 少女はパタパタと駆け、街の入り口へと戻る。そこには、大量の魔力回復薬が運び込まれていた。


 少女は肩掛けカバンに入れるのとは別に、腰巻きのホルダーにも魔力回復薬を差し込んでいく。『南の魔女』ビオラから貰ったものだ。このホルダーには、十本差し込める。


 少女は白い杖を握りしめ、再びパタパタと駆け出す。


(……みんな、頑張ってね。私には、こんなことぐらいしか出来ないから)


 ——少女は唱える。唱え続ける。ただひたすらに。皆の、そして、大好きなお姉ちゃんの驚く顔を思い浮かべながら。


 少女の詠唱が、暗闇の中、静かに響き渡る。


 少女は一人、頑張り続ける。



「——『結界の魔法』」



 少女の身体が、淡い光に包まれる……——。


 




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