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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第四章
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集えよ、冒険者たち 08 —燕の実力—






 ちょっとちょっとちょっとちょっと、なんでこんな事になってるのおーー!?



 私は『魔女の集合住宅』の近くにある広場で、三つ星冒険者、獣人族のボッズさんと相対あいたいしていた。


 彼は私の実力をみたいらしい。でも、ボッズさんはきっと勘違いをしている。私からは何も出ないぞ。やっぱりなるんじゃなかったよ、三つ星冒険者……。


 そんな訳で、模擬戦だ。



 彼は首を鳴らし、木刀を肩に乗せ始まりの合図を待っている。いつまで鳴らしてんだよ、その首。


 対する私はというと、へっぴり腰で木刀を持つ手はプルプルと震えていた。はたから見たら狼と子鹿だぞ、これ。


 ギャラリーは、誠司さんとグリム、そしてジュリさん。セレスさんとマッケマッケさんは、さすがに手が離せないようだ。


 ジュリさんとグリムの話し声が聞こえてくる。


「ふ……その実力、見せてもらおうじゃないっすか。『白い燕』よ」


「ジュリ、君はそんなキャラだったか?」


「あ、一回やってみたかったんっすよねえ」


 くっ、人ごとだと思って。そんな二人を尻目に、誠司さんが近づいてきた。


「では、二人とも。準備はいいか?」


 ああ、止めてくれないのね。というか、楽しそうな目をしている。覚えてろよ。今回のセレスさん関係で、からかうネタはいっぱいあるんだから。


 こうなりゃヤケだ。私はカラ元気で返事をする。


「お、おうよ!」


「ボッズ君もいいかね?」


「ふん、その実力、見せてもらうぞ。『白い燕』よ」


 おい、さっき聞いたぞ。まあ、仕方ない。稽古だと思って、胸を借りよう。私は覚悟を決める——。



「——それでは、始め!」


 

 誠司さんの合図と共に、私は超低空飛行でボッズさんの足下目掛けて飛ぶ。それに素早く反応したボッズさんは身を屈め——木刀を横に薙ぎ払った。下段斬りだ。


 しかし、この程度なら反応できる。私はそのままの体勢でわずかに上昇して、それをかわす。そのせいで勢いは落ちてしまったが、そのままボッズさんの顔を目掛けて木刀を振り下ろした。


 ボッズさんは、かわす。だが私の木刀の切っ先は、ボッズさんの顔をかすった。


 やった——と喜ぶよりも前に、かわした勢いを利用してボッズさんは足下から木刀を振り上げた。私はとっさに木刀で受け止め——


 ——カンッ、という小気味良い音が響く。私は勢いに逆らわず、わざと上空に押し出され射程の外に出る。なかなかの力だ。腕が痺れる。


 私は気取られないよう、木刀をしっかりと握りなおした——。


 



 二人は打ち合う。さすがにボッズの方が優勢に思える、が、莉奈も空中からの死角を意識した立ち回りで見事、ボッズを翻弄していた。


 その戦いを眺めるジュリアマリアは、舌を巻いていた。


「はえー。さすがっすね、リナさん。ボッズさんとあそこまでやり合うなんて。こりゃ、ウチじゃまず、勝てないっすねえ」


「そうなのか? キミも三つ星冒険者なのだろう?」


 首を傾げながら不思議そうな顔をするグリムに、ジュリアマリアは苦笑いを浮かべた。


「ウチはトレジャーハンターっすからね。戦うだけが、冒険じゃないっすよ」


「ふむ、なるほど。勉強になるな。あとで色々聞かせてくれ」


「いいっすよー。酒に付き合ってくれるならっすけど」


「構わないが……私は二歳だ。果たして、飲酒してもいいものだろうか」


「ん? えっ? はあーっ!?」





 莉奈は感じていた。


 確かに彼は強いが、速さだけでいえばライラよりは遅く、力だけでいえばノクス程の馬鹿力もない。そして何より、誠司程の技のキレもない。



 ——意外と戦えるかも。



 そうなのだ。莉奈は気づいていない。


 ライラは幼少期より、防御面——攻撃をかわすことに特化した戦いを身につけていた。


 元騎士団長であるノクスの実力、そして破壊力は、サランディア王国随一と謳われている。


 そして、数多あまたの死線をくぐり抜けてきた誠司の剣技。


 その者達に、莉奈は四年間みっちりしごかれてきたのだ。莉奈の自己肯定感の低さが良い方向に作用したこともあり、彼女は著しく成長していた。


 それに加え、莉奈は『空を飛ぶ』能力を使いこなす。あくまで、その能力を活かすことが前提ではあるが——すでに彼女の実力は、三つ星冒険者に肉薄するものを持っていた。


 しかし、そんな彼女にも決定的に足りないものがある——それは稽古では身につかない、実戦での『経験』だ。






 息があがる。それでも私は、打ち続ける。


 前から、後ろから、左右から、上下から。


『空を飛ぶ』というアドバンテージを活かして、つかず、離れず、相手を翻弄する。



 ——それが私の戦い方だ。



 そして、その時は訪れた。


 私の剣を受け流しきれず、よろめくボッズさん。私は追撃を入れるために剣を振り上げる。


 その時、ボッズさんの目が、剣先がピクリと動くのが分かった。


 よろめいたのは、わざとだ。


 それに気づいた私は、予測される剣の軌道から身体を逸らす。


(……もらった!)


 私は剣を振り下ろす。これは入っただろう。私が三つ星冒険者から一本取れるなんて——ごめんね、ボッズさん。



 ——そう、私は油断してしまったのだ。



 私の剣が当たる直前、私の首根っこがつかまれる。


「えっ?」


 よろめいたのがわざとなら、剣先の動きも、視線の動きも、全部フェイクだったのだ。


 本命は、今、私の首根っこをつかんでいる左腕。


 全ては、その動きを隠すための動作だったのだ。それを私が理解した時には、もう手遅れだった——。



 ——ビターン!



 私の身体が地面に激しく打ち付けられる。ああ、痛い、悔しい、鼻血出そう。


「そこまで!」


 誠司さんの声が高らかに響く。ボッズさんは優しく私を起こした。もちろん、首根っこをつかんでだ。うー。


 ボッズさんは私の目を真っ直ぐに見る。


「……さすがだな『白い燕』。噂にたがわぬ強さだ」


「……うー。いえいえ。本気でやりましたけど、全然ダメでした……でも、すっごく勉強になりました。ありがとうございますぅ……」


 ペンペンと土を払う私。そんな私を見て、ボッズさんは豪快に笑う。


「ははは、何を言う『白い燕』。勉強させてもらったのはこっちの方だ。なあ、セイジ。お前が育てたのだろう?」


「ああ、驚いただろう。私の自慢のむ……ンッ、自慢の弟子だ」


「む?」


「お前の太刀筋に似ている……いや、それ以外にも……。何にせよ、心強い仲間に違いない。頼りにさせてもらうぞ、『白い燕』!」


「む?」


「さあ、もう一本行くぞ! ジュリ、お前も来い!」


「ええ、ウチもっすかあ……」


「むー?」



 こうして私達は打ち合い、打ち解け、歓談するのだった。


 一日が終わる。夜がやってくる。渡り火竜襲来の時が、刻一刻と迫り来る。


 私は不安と希望を抱きながら、今日に別れを告げ眠りにつくのであった。


 んで「む」ってなによ。まさか、ね。




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