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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第四章
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集えよ、冒険者たち 07 —懐旧—







 住民の避難は始まった。街中が慌ただしい。


 怯える者、涙ぐむ者、落ち込む者、人々は色々な感情を覗かせている。


 ただ、大きな混乱は起きていない。これもひとえに、セレスの人望たる所以ゆえんであろう。


 彼女は誠司の前ではあんな感じではあるが、普段は凛々しく、優しく、仲間思いの素晴らしい人物なのだ。


 魔族が攫われたと聞きつければ飛び出して行き、国に危機が迫れば自身が矢面に立つ。


 そして、どんなに無謀とも思われることであっても、それに伴う結果を彼女は残しているのだ。


 実はその裏には、彼女の右腕を務めるマッケマッケの涙ぐましい努力があるのだが——ここでは触れないでおこう。




 そして午後、本日分の避難民の手配を終えた彼女達の部屋に、マルテディの元を訪れた莉奈が戻ってくる。


 その莉奈の顔は——げっそりとしていた。



「ただいまぁ……」


「どうだった、莉奈。ずいぶんと疲れているようだが」


 扉を開け入ってきた莉奈に、誠司が手を止め声をかける。彼は今、グリムのために実戦での渡り火竜の動きを説明しているところだった。


「うん、ええと……結論から言うと、期待しないで」


「……そうか。会うには会えたのか?」


「ええとね、うーん、そう、怖がってたみたい。臆病さんだもんね、仕方ないよ……うん、ごめんね、力になれなくて」


 おかしい。莉奈の歯切れが悪い。誠司は首を傾げる。


「どうした、莉奈。何かあったのか?」


「うっ、何もないよ、本当に」


「……うっ、ってなんだね……」


「えと……しゃっくり的な何か? そんなことよりさ、グリム、ちょっと散歩行かない?」


 あからさまにおかしい。誠司とグリムは顔を見合わせる。グリムは頷き、立ち上がった。


「そうか。青髪が勝ちヒロインになる日がついに来たか。莉奈、幸せにしてくれよ?」


「そんなんじゃないからっ! さ、行くよっ!」


 ズルズルと莉奈に引きずられて表に連れ出されるグリム。それをため息をつきながら見送った誠司に、目の下にクマをつくったセレスが近づいてきた。


「セイジ……どうもおかしいわね」


「ああ。何か隠してるな」


 それは間違いないだろう。だが、誠司は莉奈を信頼している。何か隠しごとがあるにしても、彼女なりの理由があるのだろう。きっと、大丈夫だ。


「ええ。あの二人が、デキていたなんて……」


 マッケマッケが勢いよくやってきて、セレスの頭をスパンッと打って無言で作業に戻っていく。誠司は深く息を吐いた。


「どうした。眠くて頭が回らないのか」


「いたた……あなたが昨日、眠らせてくれなかったから……」


「こら、誤解を招くようなことを言うんじゃない。まあ、仕方あるまい。何があったか知らないが、マルテディをあてにせず準備するだけの話だ。何も変わらんよ」


「そうね。でもマルテディ、そんな娘だったかしら……」


 二人は唸る。


 結局その後、二人は戻ってきたグリムにそれとなく聞いてみたが——「やはり青髪は、負けヒロインの運命さだめのようだ」と、はぐらかされるだけだったのである。









 時は流れ、その日の夕方。


『魔女の集合住宅』の扉が、冒険者の手によって叩かれる。



「んー、アパートの入り口の扉叩いて、意味あるんっすか、ボッズさん」

 

「開かないなら、壊すまでだ」


「……多分鍵、かかってないっすよ?」


 不穏な会話。扉にとっては、たまったものではないだろう。と、その時。扉の願いが通じたのか、一人の男がその扉を開いた。


「やあ、久しぶりだね、ボッズ君、ジュリ君。私のことを覚えているかな」


 作務衣さむえ姿に眼鏡越しの優しい瞳。その懐かしい姿を見て、二人の冒険者は顔を綻ばせる。


「セイジ……久しぶりだな。まだ生きていたか」


 いかつい獣人族の男性、ボッズが満足そうに頷く。


「セイジさん! お久しぶりっす! ささ、飲みに行きましょ!」


 小柄なハーフエルフの女性、ジュリアマリアが、ピョンと誠司に抱きつこうとする。


 それをヒラリとかわしながら、誠司は懐旧の情に浸る。


 ——二人とも、あの時のままだ。まるで私だけ、歳を取っているみたいだな。


 誠司は目を細め、二人に声をかけた。


「さあ、上がってくれ。『東の魔女』が、お待ちかねだ」






「——という訳でだ、この面々で火竜を迎え撃つことになる」


 顔合わせを終えた冒険者二人は、声を詰まらす。現状前線に立てるのが、誠司と莉奈、セレスにマッケマッケ、そしてボッズとジュリアマリアの六人だ。


 ジュリアマリアが頭をかく。


「……これだけっすか? しかもウチ、あまり戦力にならないっすけど」


「あ、私も戦力に数えないでもらえると……」


 莉奈がおずおずと手を上げる。


 ため息をつく一同。誠司は首を振り、口を開いた。


「……まあ、欲を言えば奴らと同数——三つ星冒険者が五十人は欲しいところだがね」


「いやあ、この地方の三つ星が全員が集まったとしても、全然足んないっすね。今、十人もいないんじゃないっすか?」


 平和の代償である。少なくともこの二十年近く、迫り来る危機もなければ、偉業を達成する方法も限られていたのだ。必然的に三つ星冒険者の頭数は、少なくなる。だからこそ半ば無理矢理、ギルドは莉奈を三つ星冒険者にしたという側面もあるのだ。


「ああ。それに五日間……いや、あと四日だ。近くにいなきゃ、間に合わないだろう」


「そっすよねえ。ウチとボッズさんはこの近くにいたから良かったっすけど。あの……他の国とか動かせないんっすか?」


 そのジュリアマリアの質問には、セレスが答える。


「サランディアには応援を要請したけど……ほら、あそこは今『厄災』問題を抱えてるじゃない? それに、ここから王都は離れすぎている。期待出来ないでしょうね」


 誠司やセレスは、『厄災』と対話したことでルネディへの警戒度は下がっているが——サランディア目線では、そんなことはない。他国の危機より自国の危機の対処を優先するのは、仕方がないことだろう。


「……『ハウメア』は、動かせないのか?」


 ボッズが腕を組み、セレスに問う。


 ハウメア——『北の魔女』ハウメア。四方の魔女の一人。このトロア地方の北部に位置する国の、統治者でもある。


 もし彼女が——国家規模でなくてもいい、彼女自身が動いてくれれば、大きな力になるであろう。だが、セレスは首を横に振った。


「逆に、彼女を知っている者に聞くわ。彼女が自国以外のことで動くと思う?」


「……まあ、無理だろうね」


 誠司が眉をしかめ、答える。彼女は自国のことでしか動かない。二十年近く前の『厄災』戦ですら渋々といった感じだったのだ。


「ええ。要請は出してみたけど、返ってきた返事は『もし自国に来たら、その分は倒す』といった内容だったわ」


 ——場は沈黙する。各国の援軍は期待出来ない。


 重苦しい空気の中、ボッズが静かに立ち上がった。


「仕方あるまい。なんにせよ、オレは斧を振るうのみ、だ。よし『白い燕』よ、ついてこい」


「ふえっ!?」


 突然名指しをされた莉奈は、驚いて立ち上がる。ボッズは莉奈を横目で見て、首を鳴らした。


「——共に戦う仲間の力を知りたい。力を見せてくれ、三つ星冒険者、『白い燕』よ」





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