集えよ、冒険者たち 06 —砂の城②—
「……どこから聞けば……とりあえず、この前はありがとうございます。おかげで誠司さん、助けられました」
『——そうか。それは良かった』
「……それで、何であなたが私達のことを知っているんですか?」
まずは、そこだ。この人は誠司さんのことを知っているようだった。そして、私のことも知っている。
『——マルテディ、椅子を用意してくれないか。この身体だ、立ちっぱなしは疲れるものでね』
「は、はい!」
「うぉい! 色々聞けって言ってましたよねっ? なんで、はぐらかすんですかっ!?」
また来てしまったのか——勿体ぶりキャラが。だがそんな私の言葉に、彼は肩を揺らして楽しそうに答えた。
『——落ち着けと言ってるだろう。まあ、言えないことも多いんだ。だけどこれだけは言っておく。私は君達の、そして彼女達の味方だ』
「……教えては……くれないんですね?」
『——ああ、少なくとも、今はまだ、ね』
「いつかは教えてくれるんですか?」
『——……そうだねえ。知らずに済むのに越したことはないんだけど……すまないね、これで勘弁してくれないか?』
謎だ。謎すぎる。これが物語だったら、絶対黒幕だ。裏で全てを操っていそう。
「……わかりました。納得いきませんけど、今は納得します」
『——ありがとう』
マルティが三人分の椅子を作る。私は勧められるまま、ドカッと腰を下ろした。
「……では次です。なんで私が来ることがわかったんですか?」
マルティは知っていた。私が来ることを、私のことを。その質問に、彼はマルティと顔を見合わせ頷き、声を響かせる。
『——それは簡単だ。この城に向かって飛んでくる君の姿が見えたからね。だから私がマルテディに教えたんだ。『あれが今、巷で有名な白い燕だよー』ってね』
思わず椅子からずり落ちる私。
「な、な、何で知っているんですかっ!?」
『——ん?『白い燕の叙事詩』は有名だぞ? マルテディにも語って聞かせていたんだ』
「うん! リナさんってすごいんだね! 三番、楽しみ!」
「……ちょ、ちょっと待って下さい——」
私は起き上がり、椅子に腰掛けなおす。
「——あなた、噂じゃ最強の三つ星冒険者ですよね? なんでこんな一介の冒険者の歌なんかを……」
『——いや、何を言っている。君も私と同じ、三つ星冒険者じゃないか』
「名目上だけですってばあ……」
駄目だ、この人と話していると疲れる。とりあえず一つ分かったことがある。この人が何者であるか、それは絶対に教えてくれないであろうことを。
「では、話を変えます……。まず『義足の剣士』さん。聞いているとは思うけど、あなたがここに居るということは、『渡り火竜』との戦いに力を貸してくれるということでいいんですよね?」
そうだ。最強と名高い彼の力を借りられれば、かなりの戦力になるはずだ。ノクスさんが言ってた。『なんたって、竜の単独討伐も成功したらしい』と。そんな人が力を貸してくれれば——。
だが、彼の言葉は私の予想を裏切るものだった。
『——莉奈、すまない。私は皆とは合流できない』
「……何でですか。あなた、三つ星冒険者ですよね? 今、オッカトルがどのくらい大変なことになっているか——」
私は彼を睨む。勿体ぶるのはまだいい。しかし、これはオッカトル、ひいてはトロア地方の危機だ。こんな時に動かないで、じゃあ何で冒険者やってんのよ、という気持ちが胸を満たす。力を持っているのに使わないなんて——。
しかし、彼の思惑は別のところにあるのだった。
『——待ちなさい。合流は出来ないが、手伝うことは約束する。そこで君に、お願いがあるんだ——』
彼は語る。私への『とあるお願い』を。彼は何度も私に頭を下げてきた。私は提案する。もし彼の言う通りになるのだったら——彼は快く頷いた。
そして、私達三人の話は終わった。
「……分かりました。もし今までの話が本当なら、マルティは動かない方がいいですね」
「ごめんなさい、リナさん……『その時』がきたら、必ず手伝うから……」
私はマルティの頭を撫でた。
「いいんだよー。マルティのためだもん。でも……もし全部上手くいったら、三番どころか四番まで出来ちゃうんじゃないかな……」
「うふふ。楽しみにしてるね」
私はマルティのおでこを突っつく。
『——莉奈。今の話は内密にしてくれ。君達の『司令塔』以外には』
「……そんなことも知っているんですね」
『——ああ。私の意識は、遠くまで『届く』からね』
「はあ……本当にあなた、何者なんですか……」
『——私は、君達の……世界の味方だよ』
こうして私は、砂の城を後にした。『義足の剣士』さんのことを心から信用した訳じゃないけど、もし彼の言う通りになるのならば、それが最善の策になると思う。
——信じてみよう、彼を、最強の三つ星冒険者の言うことを——
私はすっかり待たせてしまっているアオカゲの元へと、飛んで向かうのだった。
†
リョウカとマルテディは、城に空いた窓から莉奈を見送る。
「大丈夫かな……問題は『その時』まで耐えられるかどうかだけど……」
『——まあ、信じるしかないね。彼女達を』
リョウカは仮面を外し、マルテディの頭を撫でる。
そう、全ては冒険者たちの手にかかっているのだ——。




