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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第四章
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集えよ、冒険者たち 04 —今日の終わりに—





 打ち合わせは深夜まで続いていた。


 住民の避難場所の確保、民兵への連絡、食糧の準備など多岐に渡る指示を、セレスとマッケマッケは矢継ぎ早に飛ばしていく。


 一方で、誠司と莉奈も顔を突き合わせて相談をしていた。


「ねえ、誠司さん。私、マルテディに会ってくるよ」


「……そうか。なら、私も一緒に行くが」


「ううん。誠司さん、やること多いでしょ? 私、一人で行ってくるよ」


 確かに、誠司にもやることは多い。セレスに余裕がない今、その他諸々の——三つ星冒険者の相手や、実際に外に出向かなくてはならない用事などは、誠司が引き受けたのである。


「……すまないな。もし彼女の力を借りることが出来れば、戦況はだいぶ優勢になると思うんだが……」


「うん……まあ、会ってみてからだけど……期待はしないでね?」


 問題はある。『厄災』として顔の知られてしまっている彼女が、人前に姿を現すことをよしとするか。『厄災』として顔を知られてしまっている彼女を、人々が許すかどうか。


 それに莉奈自身の感情で言わせてもらえば、『罪を償いたいのなら私達に力を貸しなさい』と、なんだか弱みにつけ込んでいるみたいで嫌な気持ちになる。


 ただ、そうも言っていられる状況ではない。とりあえず会ってみて、強制はせず、彼女の意思を尊重しようというのが誠司と莉奈の結論である。


「——では、よろしく頼むよ」


「うん。場所は教えてもらったから、明日にでも行ってみるよ」


「話を聞く限り大丈夫だとは思うが……気をつけてな」


 その時、部屋の扉が開く。ヘザーと共に席を外していたグリムが戻ってきたようだ。グリムは誠司に頭を下げた。


「事後報告になってすまない、誠司。ヘザーとクロカゲをお借りしたよ」


「……どういうことかね?」


 誠司の質問に答えず、グリムは紙を手渡す。そこには、ヘザーの文字でこう書いてあった。


『しばらくおいとまをいただきます。セレスの力になってあげて下さいね ヘザー』


 それを読んだ誠司が固まる。



 ——そうか……ついに、私に愛想を尽かして……。



 ——スパーンッ!


 一緒に紙を覗き込んだ莉奈が、誠司の頭をハリセンで叩く。


「……待て、なぜ叩く」


「いや。なんかまた良からぬことを考えてる感じがしたからさ。つい」


「つい、で叩くな。つい、で」


「——誠司、裏も読んでみろ」


 グリムの言葉に紙を裏返す誠司。そこには——


『私が戻るまで、浮気しないで待ってるんだよ? エリス』


 ——と、書かれていた。それを読んだ誠司が、再び固まる。


「……悪ふざけが過ぎやしないか……」


 そう言いつつも、いそいそと紙を大事そうにしまう誠司。それを見た莉奈が、ニターッと笑う。


「おー、おー、お熱いですねえ」


「ンッ……うるさい。そ、それでだ、グリム君。ヘザーは何処へ?」


「ああ。手札は多いに越した事はないからな。全てはそこからだ」


 話が見えず、顔を見合わせる誠司と莉奈。その時だ。マッケマッケが顔を綻ばせてこちらにやって来た。


「セイジ様、朗報です! ギルドから連絡が入りました。三つ星冒険者のボッズさんとジュリアマリアさんが明日、到着するようです!」


「おお!……あ、ええ、あ、ボッズ君に……えっ、ジュリ君……が?」


 あからさまに困惑する誠司。その様子にマッケマッケは首をかしげた。


「あれ? お知り合いですか?」


「……ああ。ボッズ君は確か『巨鳥殺し』だったかな。そんな異名を持つ獣人族の男性で、大きな戦力になるだろう」


「えと、じゃあジュリアマリアさんは?」


「……彼女は……うーむ、当時は二つ星冒険者だったはずだ。彼女は確か、戦闘が苦手だったような……」


 誠司は唸りながら、当時の記憶を呼び起こす。


 ジュリアマリア。愛称、ジュリ。トレジャーハンターを名乗るハーフエルフで、洞窟の探索を生業なりわいとする冒険者だ。誠司も当時、何回か彼女の護衛を引き受けたことがある。


 そんな彼女は、度胸は据わっているが危険なことには首を突っ込まない、それでいいのかトレジャーハンター、といった感じの人物だったはずだ。


 その彼女が、三つ星冒険者になったとはいえ招集に応じるとは、成長したんだな——誠司は時の流れを感じとる。


「——失礼。そうだな、彼女は強いよ。私以上に」


「えっ! 誠司さんより!?」


 つぶやくように発せられる誠司の言葉に、莉奈は驚く。負けず嫌いの誠司にそこまで言わせる強さを持つ人物、そんな人が加われば——。


「ああ。私が唯一、飲み比べで負けた相手だ。彼女は底なしだよ。私では相手にならなかった」


 ——スパーンッ!


「ふざけないのっ! こんな時にっ!」


「……すまない。私も眠たくて頭が回らないんだ。ライラを抑えつけるのに必死でね」


「ああ、そう言えば……」


 気がつけば、時計の針は深夜一時を回っていた。いい時間だ。


 その様子を見たセレスが、皆に優しく微笑みかけた。


「それじゃあ、今日は終わりにしましょうか。明日も早い事ですし。マッケマッケ、皆さんを部屋に案内してあげてちょうだい」


「はい、了解です、セレス様。ささ、皆さんどうぞこちらへ」


 マッケマッケは莉奈とグリムの手を引っ張る。話ではこの集合住宅はセレスの持ち物で、彼女達以外住んでないらしい。ひとり一部屋、割り当ててくれるそうだ。


「待て、私の部屋は……」


 置いてきぼりをくらいそうな誠司が、慌てて後を追おうとする。だがその手を、セレスがつかんだ。


「セイジ……あなたは私と一緒の部屋じゃ……嫌?」


 うつむいて誠司に問いかけるセレス。その声は震えている。そんなセレスに、誠司は微笑み返した。


「……セレス……いいのか?」


「……!……うん、あなたさえよければ。だって、これが最後かもしれないもの……」


 誠司は優しくセレスの手を離す。セレスの瞳は、嬉しさのあまり潤んでいた。それはまるで、あわよくばこれから起こる不貞行為を、夢のごとくぼやかすかのように。


「そうか。いや、安心したよ。どうしようか悩んでいたんだ」


「……え?」


「ライラが一人っきりじゃ寂しいと思ってね。君が側にいてくれるなら安心だ。よろしく頼むよ。おやすみ」


「え、ちょ」


 誠司はそう言い残し、瞬く間に光に包まれる。一瞬の光の後現れた少女は、自分の身を守る祈りを捧げる——。


 それを呆然と眺めながら、セレスは膝をついた。


「バカヤロウだわ……私も、あなたも……うわあああん!」


「……あ、セレスさん、おはようございます! お父さん、仲良くしてくれた?」



 ——こうして、波乱の一日目は終了した。それぞれが出来ることをする、今はそれしかないのだ。




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