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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第三章
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『東の魔女』 10 —マルテディという『厄災』—





「はい、それじゃあ、全て丸く収まりましたし、ご歓談の時間としましょうか。いやあ、よかった、よかった」


「そうね、マッケマッケ。ああ、こんな日が迎えられるなんて、夢みたい!」


 やいのやいのと、話を終わらせようとするセレス達。それを聞いた誠司は、急に真顔になる。


「待て。話はまだ終わってないぞ」


 ピタッと固まる二人。セレスはぎこちなくヘザーの方を向き、何事もなかったかの様に振る舞う。


「ねえ、エリス。あの人との暮らしはどう? 困ったことはない?」


「んー。もうちょっと相手して欲しいっていうのが本音かなあ。でも、今ぐらいの距離感がちょうどいいと思うの」


「もう、妬けちゃうなあ!」


「セレス様、今度『魔女の家』に遊びに行きましょうよ!」


「……こらこら待て待て待て。『厄災』は? 砂漠化は? 君達はさっきから何故、話題を逸らす?」


 再び固まるセレスとマッケマッケ。やがて観念したかの様に、マッケマッケが口を開いた。


「……セレス様、やっぱり誤魔化しきれませんって。話しちゃいましょうよ」


「……でも……セイジの気持ちを考えると……」


 聞こえる声でヒソヒソ話を始める二人。もうちょっと聞こえないように出来ないものか。誠司がジロリと睨むと、二人は視線を落とした。


「なんだね、話してみなさい」


 うつむく二人に、誠司は促す。セレスは大きく息を吐いた後、申し訳なさそうに顔を上げた。


「あのね、セイジ……今でも『厄災』は憎い?」


 誠司の顔を恐る恐るうかがうセレス。無理もない。当時『厄災』さえ現れなければ、誠司は、エリスは、今もなお幸せな生活を送れていたはずなのだ。


 誠司は腕を組み、セレスに答える。


「……ああ。と言いたいところだが、以前とは事情が異なる。そこまで話を逸らすということは……君達は『厄災』と対話でもしたのか?」


 その言葉にビクッと肩を震わせる二人。その様子に誠司は、莉奈は確信した。この二人は『厄災』に会っていると。


「あのね……ええと……驚かないで聞いて欲しいの。あの……ねえ、マッケマッケ。やっぱり、あなたから話してくれる?」


「ひえっ! セレス様ぁ、こっちに振らないで下さいよお……」


 話の進まなさに、誠司は深く息をつく。


 まあ、もしそうだとしたら、気持ちは分からなくもないが——誠司は確信を持って、二人に打ち明けることにした。


「——言いにくいのなら、まず、私の方から話がある。私は先日、『厄災』メルコレディと対話をした。彼女は優しい人だったよ」


 誠司はそう言って、セレスの目を真っ直ぐに見た。セレスは驚いた表情で誠司を見つめ返す。


「嘘……セイジ……あなたも……なの?『厄災』と、対話を……?」


「ああ。君に手紙を出したのが、サランディアでルネディと戦った直後。そして先日、私達はスドラートでメルコレディと邂逅かいこうした。彼女の話だと、ルネディとマルテディも本来優しい人物らしい。それを踏まえて、だ。知っていることがあるのなら、教えて欲しいのだが」


 その言葉を聞き、セレスとマッケマッケは互いに頷き合う。そして、セレスは意を決して口を開いた。


「……セイジ、ひとついい?」


「なんだ?」


「……あなたの瞳って、ほんとキレイ——」


 ——スパパン!


 マッケマッケとヘザーのハリセンがセレスに飛ぶ。テーブルに頭を打ち付けるセレス。ヘザーはハリセンをバッグにしまい、頬を膨らませている。あの書庫には、そんなものもあるのか——。


 セレスは頭をさすりながら起き上がり、改めて口を開いた。


「ごめんなさい、つい。今までの反動かしら。じゃなくて……ええ、セイジ。確かに私達は『厄災』マルテディと対話をしたわ」


「やはりか……それで、セレス。どうだった? 彼女は『厄災』の力を振りまいていると聞いたが」


「……それには……理由があるの……」


「理由?」


 怪訝そうに尋ねる誠司にセレスは頷き、マッケマッケの方を向く。マッケマッケは頷き、話を引き継いだ。


「それでは、あーしからお話ししましょう。セイジ様から手紙を頂いて『浮かれポンチ』になってしまったセレス様は、セイジ様の元へ向かおうとしました。その時です。この国と中央部の国境沿いに、砂漠が出現したという連絡が入ってきたのは」


「あの、マッケマッケ?」


「当然、あーし達は『厄災』を警戒しました。セレス様は、歯噛みをしながらもセイジ様に救援要請——あの『クッソだらしねー手紙』のことです、を出して、国境を封鎖し、情報を集めることにしました」


「マッケマッケ?」


「セレス様、お静かに。それで、諜報員から砂漠の中に砂の城が出来ているという情報が入り、あーし達は急ぎ向かうことにしました。こりゃいよいよ『厄災』の再来だぞ、と。本当はセイジ様を待ちたかったのですが、状況が状況なだけに一刻も早く事実確認をする必要があったのと、あんな手紙の書き方じゃセイジ様の協力は得られないな、という理由で、あーしとセレス様は二人で城に乗り込んだのです」


「あら。私はセイジなら察してくれると思っていたけど?」


「散々文句言ってたくせに……セイジ様、察せましたか?」


「いや、無理だな」


 即答する誠司の言葉を聞き、セレスがガクンとうな垂れる。ヘザーがポンポンと彼女の頭を撫でた。


「はい、では続けます。城の中にいたマルテディは、怯えていました。そして、あーし達に懇願こんがんしてきたのです。『今は殺さないで』と。明らかに当時と様子が違う彼女の様子を不思議に思い、セレス様は話を聞くことにしました」


「……ええ、ここからは私が話しましょう。マルテディの話を要約すると、『なぜか生き返ったが理由は分からない』、『当時の記憶はある』、『この土地に罪滅ぼしがしたい』とまあ、そんなところかしら」


「待て。メルコレディも大体同じ感じだが、最後の『罪滅ぼし』って何だ。彼女は『厄災』の力を振り撒いてしまっているのだろう?」


 そうだ。『罪滅ぼし』と言っておきながらマルテディはこの地を砂漠化してしまっている。どういうことかと尋ねる誠司に、セレスは沈痛な面持ちを浮かべた。


「ねえ、セイジ。あなたも『腐毒花ふどくばな』は知っているでしょう?」


「ああ。中央部で繁殖している……ってまさか……」


 誠司は思い至る。土地を腐らせ繁殖する花。この土地に対する罪滅ぼし。彼女のやろうとしていることは——。


「ええ。彼女はこの地まで侵食してしまった腐毒花を食い止めてくれているの。腐毒花を砂で埋めて。これ以上被害が広がらないように。その『厄災』の力を使ってね。それが彼女なりの、『罪滅ぼし』よ」




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