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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第三章
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『東の魔女』 06 —事案が発生しました—









 ライラは目の前の半裸の女性の姿を見て、一つの考えに思い至る。これ、アレだ。えっちなやつだ。


「そっか……お父さん、お母さんのこと、どうでもよくなっちゃったんだ……ぐすっ」


「え、え、えっ、お父さんって、もしかしてあなた……セイジの娘……なの?」


 セレスの問いに、コクンと頷くライラ。セレスは下着姿のままオロオロする。


 そこに、玄関先から声が聞こえてきた。


「——『全ての魔法を解除』! セレス様、大丈夫ですかあ!?」


 マッケマッケの声だ。セレスは慌てて声を上げる。


「ま、待ちなさい、マッケマッケ! 今は、今だけはあ!!」


 マズい、非常にマズい。目の前には涙ぐむ少女。後ろからは近づいてくる足音。そして、自身は半裸である。


 ああ、これはきっと罰ね。セレスは覚悟を決める——もう、オロオロするしかないと。


「セレス様ぁ! セレス……さ……ま……?」


「……あれ、ライラ? どうして?」


 部屋に駆けつけたマッケマッケと莉奈が見たものは、うつむいてすすり泣くライラと、下着姿で床に座り込むセレスの姿であった。


「……マッケマッケさん……この痴女が、セレスさん?」


「……痴女……ええ、そうです……何やってるんですか、セレス様……」


「ふふふ。何とでもお言いなさい、マッケマッケ。言い訳はしないわ……」


 しおらしく、うな垂れるセレス。その様子を見て、莉奈も一つの考えに思い至る。


「……そうか、そういうことか……」


 莉奈はセレスに近づき、自分の上着を脱いで彼女にかける。「え?」と困惑するセレスの耳元で、莉奈はささやいた。


「……まったく、そんな人だとは思いませんでした」


「……ごめんなさい。とても許されることではないわ」


「ええ、まったくです。誠司さん……そんなことは絶対にしない人だと思っていたのに……」


「はい?」


 莉奈の言葉に、キョトンとするセレス。莉奈はこめかみに青筋を浮かべ、歯軋はぎしりをしていた。


 セレスは未だ混乱している脳を無理矢理落ち着かせ——そして、目の前の女性の言わんとしていることを感じとり、サーッと顔を青くする。


「ち、違うの! あの人は悪くないの!」


「……あなたは優しいんですね、セレスさん。でも、好きな男とはいえ、これは許してはいけません……ったく、見損なったよ、誠司さん……」


「だからあ、違うのお! ごめんなさあい!」


 ワンワンと泣き始めるセレス。そのただならぬ様子に唖然とする莉奈とライラ。


 なんとなくセレスのやろうとしたことを察したマッケマッケだけが、深くため息を吐いたのであった——。










 202号室——落ち着いたセレスに服を着せ、マッケマッケは自分の部屋へと彼女を連れていく。セレスは無言でうつむいたままだ。


 莉奈とライラ、マッケマッケは別室に行き、何やら話し合っている。そして三人は戻ってきた——その手にロープを持って。


 マッケマッケが優しくセレスに話しかける。


「セレス様、一つ確認しておきたいことがあります。セレス様はセイジ様に睡眠薬を飲ませた、間違いないですね?」


「……ええ……間違いないわ」


「効果時間は?」


「……即効性はあるけど、無味無臭の薬だからそんな強い効果じゃないの。三十分くらいだから、本当ならもう起きてるはずだったの……」


 セレスの鼻をすする音が聞こえてくる。その言葉を聞いた三人は、頷き合った。


「セレス様、提案があります。あの部屋で何があったか、話していただけますか?」


「……そ、それは……構わないけど……」


 目を逸らし答えるセレスに、マッケマッケは無情にも告げる。


「セレス様。『催眠魔法』を受け入れて下さい。そして、この場の皆を納得させるため、正直に話してもらいます」


「……!!」


 セレスの顔が青ざめる。


『催眠魔法』——術者の手により、対象の心の内をさらけ出すことが出来る、潔白を証明するための魔法。


 その魔法はいくらでも悪用出来てしまうため、『同意を得られた相手』という対象制限と、『お互いが合意した範囲のみ』という条件がつけられている。


「……私は……やましいことは……していない……」


 くっ、と下を向くセレス。


「いやいや、してたでしょ思いっきり。それ、セイジ様……いえ、エリス様の娘の目を見て言えます?」


「お姉さん……」


 ライラが心配そうにつぶやく。セレスはライラの目を見て、優しく微笑んだ。


「お姉さん、だなんてそんな……お母さんって呼んでもいいのよ?」


 ——スパーン!


 マッケマッケのハリセンが、セレスの後頭部を打つ。


「セ、レ、ス、さ、ま、あ?」


「……ごめんなさい、マッケマッケ、つい。……分かったわ。『あの時、部屋で起きたこと』を条件に、受け入れましょう」


「……わかりました。ありがとうございます、セレス様」


「……ううん。私が原因だもの、仕方ないわ。でもね、マッケマッケ——」


「はい?」


「——なんで私、縛られてるのかしら?」


 マッケマッケは、セレスをロープで椅子に縛り始めていた。その疑問に、マッケマッケは飄々(ひょうひょう)と答える。


「だって心神喪失状態になりますもの。万が一があったら困るじゃないですか」


「そんな危険な魔法だったかしら。それと、あと——」


 セレスは目の前の椅子に腰掛けたライラを見ながら問う。


「——なんであの娘も縛られているのかしら?」


 目の前の少女は、ニコニコしながら莉奈の手により椅子に縛りつけられていた。その質問にマッケマッケは答えずに、詠唱を開始した。


 それと同時に——ライラも詠唱を開始する。


「え、ちょっと、なに、なんなの!?」


 嫌な予感がしたセレスは身体を動かそうとするが、駄目だ、びくともしない。


 やがて皆が見守る中、先にライラの魔法が完成する。


「——『子守唄の魔法』」


 少女の身体が一瞬の光に包まれる。その現象を見て、セレスは全てを悟った。


(……因果応報ってやつね。これが終わったら……私、誰も知らないところにいかなきゃなあ……)


 光の後、椅子に縛られた状態で誠司が顕現けんげんした。全てを諦めきったセレスは、フッと遠い目をしてマッケマッケの魔法を受け入れていく。


 そして、マッケマッケの言の葉は紡がれた。



「——『微睡まどろみ伝える魔法』!」






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