別れ、出会う 09 —懺悔—
「これが……誠に……誠にありがとうございます」
「ああ、そうだ。でも、約束は忘れないでくれよ?」
「はい、もちろんですとも」
カルデネは立ち上がり、深々とお辞儀をする。その様子を見て、アルフレードはフッと笑った。
「そうだ。少し待っててくれないか」
そう言ってアルフレードは部屋の棚の方へと歩いていき、何かを持って戻ってくる。
首を傾げるカルデネに、彼は腕輪のような物を差し出した。
「これを持っていきなさい」
「これは……腕輪ですか?」
「ああ、まっさらに近い魔道具だ。効果は若干弱くなるが、好きな魔法を詰め込める。ルネディ、よろしく頼むよ」
「……ああ、そういうことね。わかったわ」
キョトンとするカルデネを余所に、ルネディは魔法の詠唱を始める。そして腕輪に手をあて、その魔力を込めた。
「——『恐怖を和らげる魔法』」
「……!!」
腕輪は光を帯び、やがて落ち着く。それを見届けたアルフレードは、寂しげに微笑んだ。
「これを身につけていれば、恐怖をある程度誤魔化すことが出来るだろう。君がいつか、心の傷を克服できる日が来ることを祈ってるよ」
「わ、私などのために! ありがとうございます!」
カルデネは平伏する。それをアルフレードは、すぐさま立つ様にうながした。
「立ちたまえ。これから君は、『別れ、出会う魔法』の研究と習得に勤しむのだろう? その餞別だと思ってくれ」
「はい! はいっ! 何から何まで、ありがとうございます!」
——その後、しばらく雑談をしたあと、彼女達は別れを惜しみながらも『魔女の家』へと帰っていく。
それを見送ったアルフレードは、深く息を吐き目を瞑った。
「どうしたの、アルフ。あの娘にずいぶんと親切だったじゃない」
「あっ、わたしわかっちゃった! きっと、あの人がキレイだったからだよ!」
「あら。最低ね、アルフ」
だが、そんな『厄災』達の冷やかしを気にもとめず、アルフレードは懺悔する。
「いや、彼女のためというより、セイジという男のためだな。僕達のせいで、迷惑をかけてしまったからね。その贖罪だよ」
「……どういうことかしら?」
「彼は当時、君達を倒して回ったんだろう? 自分の妻を失ってまで。僕は彼にあわせる顔がないな」
「……話が見えてこないのだけれど。だってあなた、当時は引きこもっていたのでしょう? いいかげん、説明してくれないかしら」
しかし、アルフレードは口を噤む。この男は肝心な話になるとすぐにこうだ——ルネディは鼻で息を鳴らすのだった。
†
神殿からの帰り道、カルデネはレザリアに、気絶していた間のことをざっくりと説明する。
そして、作ってもらった『別れ、出会う魔法』と『支配の杖』、それらをどう使おうと考えているのかを——。
「——とまあ、大体こんな感じ。あとは私が魔法を覚えればいけるはずなんだ」
「そうですか、いよいよなんですね……って、あれ? ちょっと待って下さいカルデネ」
カルデネの話を聞き納得しかけたレザリアだったが、ある肝心なことが抜け落ちていることに気づいた。
「ん? どうしたの、レザリア」
「あのですね、今の話を聞く限りですと、肝心要の手順が抜け落ちているような気がするのですが……」
その言葉を聞き、目を伏せるカルデネ。それは間違いなく、誠司とライラの肉体を、同時に空間に存在させる方法のことだろう。
カルデネは立ち止まり、レザリアの手を握った。
「あのね、レザリア。お願いがあるんだ。その時がくるまで黙っていて欲しいの」
「はい? 何がでしょう?」
「実はね、早い段階から気づいていたんだ。セイジ様とライラ、二人が起きたまま出会える方法」
「……え、そうなのですか?」
さすがはカルデネ、とレザリアは思うが、事はそう単純ではなさそうだ。彼女の曇った顔を見ればわかる。
「……うん。それも、とっても簡単に。その気になれば、いつでも出来るんだ」
「だったら……」
「私だって会わせてあげたいよ。でもね、この前見て、わかっちゃったんだ。あの二人は、今は会わせちゃいけない。少なくとも、全ての準備が整うまでは」
半ば自分に言い聞かせる様に語るカルデネ。その視線は宙を睨む。
レザリアは唾を飲みながら、カルデネの横顔を覗った。彼女には、一体何が見えているのか——今はまだ、知る由もない。
これにて第二章完。そしてお待たせ致しました、明日より第三部完結まで、毎日投稿致します。
物語は莉奈達へと戻ります。東の国での彼女達の活躍、是非、ご期待下さい。




