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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第二章
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別れ、出会う 05 —魔法談義—





「ふむ、混ざり合った魂を二つに分ける魔法ね……」


 アルフレードは宙を見ながら考える。そして——


「……難しいな」


 ——彼は、宙に視線を預けたまま答えた。その返事を聞きカルデネは肩を落とすが、挫けずにアルフレードに食い下がる。


「あの……例えば『条件』や『制限』を加えても無理でしょうか?」


「ん? 君は魔法に詳しい……いや、魔法の成り立ちに詳しいみたいだね」


「はい。私は昔、魔法国で研究職についておりましたので」


 そのカルデネの言葉を聞いたアルフレードの顔が、一瞬にしてこわばった。そして、カルデネの顔を真っ直ぐに見つめ、彼女に問う。


「……君はもしかして、僕の存在を知る者かな?」


 その、静かだが威圧感のある声にカルデネは怯んでしまう。怖い。


 その様子を感じ取ったのか、ルネディがアルフレードを横目で睨み、いましめる。


「アルフ」


「……いや、すまない。ただ、もし知っているのなら、答えて欲しいな」


 カルデネはその両の手に感じる温もりに集中し、アルフレードを見つめ返した。大丈夫、私は、大丈夫。


「はい。リナから『胸を大きくする魔法』の術式を見せてもらった時に、疑問に思いました。そしてアルフという呼ばれ方を聞いた時、確信に変わりました——」


 いったん息を飲み込んで、カルデネは続けた。


「——もし間違っていたら申し訳ございません。あなたは魔法国……いえ、当時の『魔法国アルフレード』の建国者にして近代魔法の基礎を作られた、アルフレード様の血縁者の方ではないでしょうか」


 そのカルデネの推測を聞き、アルフレードは深く息を吐いた。


 そしてカルデネを睨み——と、その時。


「い、痛っ!」


「ア、ル、フ……何度も言わせないでちょうだい?」


 ルネディがアルフレードの長い髪を引っ張り、耳元で囁く。ハッとしたアルフレードは、バツが悪そうに頭を下げた。


「すまない、こちらから聞いておいて。そうだね、まず、僕は君の言うアルフレードその者だ。僕は長生きなもんでね。そこで君に二つ質問がある——」


 彼の言葉を聞き、まさかの本人だったとはと驚くカルデネ。その様子に構うことなく、アルフレードは彼女に質問をする。


「まず、僕達が何をしたのか、言い換えれば、『魔法国アルフレード』が『魔法国』になったいきさつは伝わっているのかな? それと、今の話はどこまで広まっている?」


(僕達……?)


 カルデネは彼の言葉に引っ掛かりを感じ考えるが、何も思い当たらない。カルデネは自身の知っていることを、正直に答える。


「い、いえ……先程話した内容以上の事は……断片的な資料からの推測でもありますし。あと、研究者の中でもそこまで気にして調べたのは、私ぐらいだったと思います……なにぶん、資料はほとんど失われていたもので……」


 そう、カルデネはその事実を深掘りする前に魔法国から離れた。


 ちょうど職場での関係が悪くなってきた頃で、他人から距離を置くように、誰も読まないような資料を読み漁っていた時期だった。


 その時にカルデネは、アルフレードという名前にたどりつく。そして、その内容を誰に話すこともなく、彼女は魔法国から去ったのだ。


 その言葉を聞いたアルフレードは、安堵の息を漏らす。


「そうか。ならいいんだ。僕のことは詮索しないでもらえると助かる。申し訳ないが、話を続ける条件だと思ってくれ」


「な、に、を、え、ら、そ、う、に」


 ルネディがアルフレードの髪をピンピンピンと引っ張る。彼の顔がガクガクと揺れる。


 呆気にとられてそれを見るカルデネの緊張は、だんだんと解れてきていた。ルネディがその様子を優しく見つめてくる。


 ——ありがとう、ルネディ。


 カルデネは彼女に頷き、アルフレードに返事をした。


「分かりました。お約束いたします」


「ありがとう。では、僕の『魔法を作る能力』について、簡単に説明しよう」


 カルデネは静かに耳を傾ける。目的の遂行のために、抑えきれない好奇心のために。


「まず、僕の作る魔法は全て『超長文詠唱』となってしまう。そして、僕のイメージしづらいものは、作ることはできない」


「イメージ……ですか」


 確かに、『混ざり合った魂を二つに分ける』というのはイメージしづらいだろう。普通の人は、魂を感じとることは出来ないのだから。


「そう、イメージだ。それを踏まえて、『制限』について話そう。例えばリナにお願いされて授けた『胸を大きくする魔法』だけど、あれは人体変化の魔法だ。自身にしか使えないという『対象制限』を設けないと、作ることが出来ない」


 その会話を聞いていたメルコレディが、うつむいた。


「リナちゃん……胸、気にしてるんだ」


 肩を落として悲しそうな顔をするメルコレディ。


 レザリアは無言でメルコレディに手を重ね、微笑みながら首を横に振った後、大きく頷く。


 それで何かを察したのか、メルコレディも笑顔で大きく頷き返した。


 その様子をため息混じりに眺めていたルネディは、アルフレードに質問する。


「アルフ。なんでそんな制限をつける必要があるの?」


「ああ。例えば相手をありに変える魔法があったらもはや敵は無いし、対象を竜に変える魔法の使い手がいたら過剰な兵力を持つことが可能かもしれない。だから、人体変化というカテゴリー自体に制限が掛かっているみたいなんだ。多分、僕の倫理感的にね。言い換えれば、僕の倫理観に抵触する魔法には、制限をつける必要がある」


 カルデネは考える。話を聞く限り、イメージだけで作ってもらうのは難しそうだ。倫理観という点では、どうだろう。後は——。


 アルフレードは紅茶をひと口飲み、続ける。


「最後に『条件』付き魔法だ。ちょうどいい。この前レザリアに授けた『命を宿す魔法』を例に説明しよう」





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