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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第一部 第二章
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四年後の莉奈 05 —出発前夜①—






 自室に戻った莉奈は明日の準備を軽く済ます。


 ライラを連れ、この家から少し離れたところまでは出掛けた事はあるが、この様に一家総出というのは初めてだ。


 事態が事態なだけに気を引き締めなければならない。だがそれでも、レザリアには申し訳ないが莉奈の気持ちはたかぶっていた。


 莉奈は、誠司から預かっている魔法の力を宿した小太刀を点検する。


 魔法の力、とはいっても何か凄いことが出来る訳ではない。


 純粋に耐久力が高められているのだ。刀は迂闊うかつな箇所で衝撃を受けたり、与えたりしてしまうと簡単に折れてしまう。


 異世界において刀を得物えものとして使う場合、この魔力付与はほぼ必須だ、と誠司は言っていた。


 後は弓矢。正直、こちらの腕はまだそれ程上達していない。あくまで使うとしても牽制目的としての運用になるが、空を飛べる莉奈には合っているだろう。


 ——出来れば、何かと戦う事などありませんように——。


 こうして武器とある程度の荷物をまとめ終え、莉奈は誠司の部屋へと向かった。




「——誠司さん、ライラの服持ってきたよー」


 莉奈は誠司の部屋のドアをノックし声を掛ける。


 少しだけ間があり「どうぞ」という返事が聞こえた。莉奈はゆっくりと扉を引き、誠司の部屋へと入った。


「すまないね。服はそこに置いといてくれ」


 何やら本にしるしていた誠司が、作業を止めず莉奈に声を掛ける。莉奈は知っている。あれはライラとの交換日記だ。


 その日記を通じて誠司はライラとコミュニケーションを取っており、そして、それを読む時の誠司の顔はとても穏やかなのだ。


「服ぐらい自分で持ってくればいいのに。別にライラ気にしないと思うよ?」


「……いや、でもなあ。年頃の娘はそういうの気にするもんだろう」


 お互い口にこそ出さないが、誠司は服の中に下着が混ざっている事を気にしているのだろう。


「ないない、ライラに限っては絶対ないって。ライラ、誠司さんの事、大好きすぎるもん」


 いや、好きだからこそ見られたくないという心理はあるのかも知れないが——それはそれで、『やだ! 恥ずかしいなあ、もう!』と赤面するライラが見れそうだ。想像した莉奈の口元がゆるむ。


 まあ、こんなことになっている発端はライラにあるのだが。


「で、誠司さん。さっきのレザリアさんの話だけど——」


 二人用のテーブルの空いている椅子に腰掛けながら、莉奈は真剣な表情で誠司に尋ねる。


「——『人身売買』絡みなのかな」


「そう結論付けるのは早いが——もしそうだとしたら、全員(さら)われたか、全員避難したか、あるいはその両方か。全員避難してるのならいいが、そうでない場合は面倒な事になるな」


「そうだよねえ。私、出来れば人とは戦いたくないんだけどなあ」


「基本は私一人で何とかするつもりだが……状況によっては守る戦いを強いられるかもな」


「ですよねえ……」


 莉奈はため息を吐く。誠司やノクスに鍛えられた関係で、よくわからない魔物を相手にするよりは対人戦の方が自信がある。


 だが試合とかならいざ知らず、人とは殺し合いなどしたくない。それでも何かを守る為なら——莉奈は剣を振るえるだろうか。



 少しの間の静寂。ペンを走らせる音だけが聞こえてくる。莉奈は悪いとは思いつつも、先程のレザリアと誠司の会話について触れることにした。



「ねえ、誠司さん」


「何だ」



「昔——大変だったんだね」


「……異世界で暮らすという事はそういう事なんだろうな」



「世界を救ったって本当?」


「私は何の役にも立ってないよ。全てエリスのおかげだ」



「ライラのお母さん、エリスさんって名前なんだね」


「ああ」



「そっか」



 ——再びの静寂。日記を書き終えた誠司がペンを置き、莉奈の顔を見る。



「いいのか? もっと色々聞かれるかと思っていたが」


「ううん、いいよ。いつかで」


「そうか。すまない」



 言葉少なめのやり取り。確かに聞きたい事はまだまだ沢山あった。だが、莉奈にとって今はこれで十分だった。






「——それでは待たせてしまったね。お願い事があるんだがいいかな」


「うん。私に出来る事なら何でもいいよ」


 誠司は莉奈の方に向き直る。


 部屋に呼び出した理由が、ライラの服を持って来る事だけではないのは分かっていた。多分だが、面倒な事を押し付けられるだろうと莉奈は感じていた。


「今から、ライラを無理矢理起こす。それで、だ。莉奈はライラに説明をお願いしたい。というか、ねると思うのであやして欲しい」


 誠司がガバッと頭を下げる。莉奈は大袈裟おおげさに、手の甲を額に当て天を仰いだ。誠司はそっと莉奈の顔色を覗き見る。


「だめ……かな?」


 誠司の困った顔に、莉奈は舌を出して答える。


「フフ。いいよ、任せといて。そんな所だろうと思ってたし。で、それって誠司さんも仮眠取るって事だよね?」


「ああ、それもあるが——一番は時間調整だな。向こうに着いた時に私が起きてないと、その分遅れや危険が発生する可能性が増す。何があるか分からない以上、私の状態で集落に入りたい」


 仮に何者かに襲われたとした場合、並の相手なら今の莉奈に、ライラ、ヘザーの三人で事足りるだろう。


 だが、何が起こったのか、何が待ち構えているのか分からない以上、誠司の経験と索敵さくてき能力は必須になる。


 ライラをあやすのは大変だが、莉奈は快く返事をする。


「了解! ライラにはどう説明すればいい?」


「日記に必要な事は書いておいた。それを読ませてやってくれ。そして、大丈夫そうだと判断したらライラの相手はヘザーに任せて、莉奈は寝るように。くれぐれもライラに付き合うんじゃないぞ」


「そこが一番問題なんだよねえ」


「まあ、状況が状況だからな。きっとライラも分かってくれるさ」


 そう言って誠司は立ち上がり、誰にも使われる事のないベッドに座ってシーツを身体にまとった。


「それでは宜しく頼む。また明日」


「うん。誠司さん、また明日」


 その言葉をきっかけに、誠司は目をつむった。





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