別れ、出会う 04 —再会—
「もう、ルネディ! だめだよ、出ていっちゃ!」
今度は柱の影から、薄い青髪の少女が駆けてきた。その思わぬ再会に、レザリアは顔を綻ばせた。
「メル! どうしてここに!?」
「えへへ、レザリアちゃん、思ったより早く会っちゃったね。ちょっと恥ずかしいや」
「もう! みんな心配してましたよ!」
抱き合う二人。その様子をルネディは優しく見つめる。
「あなたもメルをかばってくれたんですってね。ありがとう、私からも感謝するわ」
「……ルネディ。メルから話は聞きましたが……本当に私達と戦う気はないんですか?」
「ふふ。どうしても、っていうのなら戦ってあげるけど?」
「おい。ここではやらないでくれよ」
アルフレードがルネディに釘を刺す。その言葉を聞き流し、ルネディはカルデネに話しかけた。
「それで、そこの娘。カルデネ、だったかしら。私が代わりに話を聞いてあげるけど」
レザリアは驚く。メルコレディの話の通りだ。少なくとも表面上は、カルデネの様子を心配して出てきたように見える。あの時のメルコレディの言葉が思い出される。
——『ルネディはね、少し怒りっぽい所があるけど、とっても優しいの。いつもわたし達を心配してたし、守ろうとしてくれた。わたし達のお姉さんなの』
本当に、本当に素の彼女はこんな感じなのか——。
代わりに話を聞いてあげる。そのルネディの申し出に、カルデネは少し顔を上げゆっくりと首を振った。
「……ううん。私が……妖精王様にお願いしなくちゃ……いけないことなの……私が……きちんと……」
「ふうん、そ。わかったわ」
震える声を絞り出すカルデネに、ルネディは短く言葉を返す。
怒らせてしまったか——そうレザリアは危惧したが、ルネディはカルデネに近づき——
「——『恐怖を和らげる魔法』」
——カルデネに魔法を唱えた。カルデネが優しい光に包まれる。
「どう、少しは落ち着いたかしら?」
「え、あ、うん……少し気持ちが……落ち着いたかも……」
「そ。よかった。私がアルフの隣に座るから、あなたは安心してこの人に話しなさい。メル、彼女の隣に座ってあげて」
「うん!」
メルコレディはカルデネの隣に座り、レザリアに倣って彼女の手を握る。茫然とする二人に、メルコレディは小声で囁いた。
「あのね、マルティが臆病さんだから、ルネディ、あの魔法覚えたんだよ。これ、内緒ね」
「こおら、メル。聞こえてるわよ」
ルネディは口を尖らせながらも、メルコレディに掛けるその声は穏やかだ。
——信じられない。
レザリアは困惑する。実際に目の当たりにしても、当時を知るレザリアは素のルネディを受け入れられないでいた。
だが、メルコレディは莉奈の命の恩人だ。その彼女が言うのなら、きっとルネディは目の前の印象通りの人なのだろう。そこに関しては、受け入れるしかない。
ただ、これだけはハッキリとさせなければいけない——レザリアは口を開く。
「……教えて下さい。なぜ、妖精王様の元にあなた達がいるのですか?」
「君達、何か飲むかい?」
「アルフ、私は紅茶がいいわ。さっきは落としてしまったもの」
「あ、わたしはミルク!」
「……あの、さっきからこの質問、流され続けているような……」
なかなか教えてもらえず、いいかげん肩を落とすレザリア。そんなレザリアの様子を見て、ルネディがクスクスと笑う。
「ごめんなさい、レザリア。知り合ったのは最近よ。私は私の事情を知っている、ある人の紹介でここに来たの。これでいい?」
「その人物は……教えてもらえないのですね?」
「ええ、申し訳ないけど。あなた達の敵でないことは確かよ」
ルネディはそう言って、紅茶に口をつけた。続けて、メルコレディが申し訳なさそうに口を開く。
「わたしは……その……」
「リナ、ですね?」
「……!!……リナちゃんから聞いたの!?」
「やっぱり……それしか考えられませんもの」
「あっ!」
メルコレディは慌てて口を塞ぐ。だが、レザリアには何となく分かっていた。
思えば、最初に妖精王に会った後の莉奈の態度は、どことなくおかしかった。もしあの時ルネディに会っていたんだとしたら、あの様子にも辻褄が合う。
——『胸を大きくする魔法』を理由にしていましたが、でも、胸の大きさなんてリナの魅力には関係ありませんから——
と、少し思考が横道に逸れてしまい、レザリアはフルフル頭を振る。
そしてメルコレディ。西の森の地図を渡した時は、『魔女の家』の場所を教えていたんだと思っていた。招こうとしたのか、遠ざけようとしていたのかは分からないけど。
しかし、ルネディがこの場所にいるんだとしたら話は別だ。莉奈はメルコレディにこの場所を教えたに違いない。
——ああ、リナ、あなたはなんて優しいのでしょう。出来ればその優しさを、私にだけ——
と、またまた思考が横道に逸れてしまい、再びレザリアはフルフル頭を振る。
そんな頭をフルフルし続けているレザリアを心配して、メルコレディは声を掛けた。
「レザリアちゃん、だいじょうぶ?」
「いえ、申し訳ありません。とりあえずあなた達は、妖精王様のところに避難している、そう受け取っておきます」
「そうね。そんな感じで問題ないわ」
ルネディはレザリアの方を見ながら微笑んだ。その視線を受け止めながらレザリアは息を吐く。
彼女達が何かを企んでここにいるのではないのなら、追求したところで意味はない。まずは、今日ここに来た目的を果たさないと——。
会話が落ち着いたのを見計らって、アルフレードが口を開いた。
「そろそろいいかな。それで、彼女のお願いごととは、一体なんだい?」
カルデネはその声にビクッと肩を震わせるが、大丈夫だ。ルネディの魔法で恐怖心は和らいだ。女性密度が増えたのも、安心できる。何より、その両の手から感じる温もりが勇気をくれる。
カルデネは顔を上げた。その表情からは、恐怖は感じられない。
「妖精王様は魔法をお作りになられるとお伺いしております。そこでお願いがございます。私に、授けて欲しい魔法があるのです」
「……ほう?」
妖精王の目が光る。その様子を見たルネディが、アルフレードの頭をはたいた。
「うっ!……いったいなあ」
「そんな目で見ないの、アルフ。優しくしてあげなさい」
「分かってるよ。ルネディ……それで、カルデネ。作って欲しい魔法ってなんだい?」
「はい……かなり限定的な魔法となるのですが——」
カルデネは深呼吸をし、続ける。
「——混ざり合った魂を二つに分ける魔法を授けていただきたいのです」




