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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第二章
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別れ、出会う 04 —再会—






「もう、ルネディ! だめだよ、出ていっちゃ!」


 今度は柱の影から、薄い青髪の少女が駆けてきた。その思わぬ再会に、レザリアは顔を綻ばせた。


「メル! どうしてここに!?」


「えへへ、レザリアちゃん、思ったより早く会っちゃったね。ちょっと恥ずかしいや」


「もう! みんな心配してましたよ!」


 抱き合う二人。その様子をルネディは優しく見つめる。


「あなたもメルをかばってくれたんですってね。ありがとう、私からも感謝するわ」


「……ルネディ。メルから話は聞きましたが……本当に私達と戦う気はないんですか?」


「ふふ。どうしても、っていうのなら戦ってあげるけど?」


「おい。ここではやらないでくれよ」


 アルフレードがルネディに釘を刺す。その言葉を聞き流し、ルネディはカルデネに話しかけた。


「それで、そこの娘。カルデネ、だったかしら。私が代わりに話を聞いてあげるけど」


 レザリアは驚く。メルコレディの話の通りだ。少なくとも表面上は、カルデネの様子を心配して出てきたように見える。あの時のメルコレディの言葉が思い出される。



 ——『ルネディはね、少し怒りっぽい所があるけど、とっても優しいの。いつもわたし達を心配してたし、守ろうとしてくれた。わたし達のお姉さんなの』



 本当に、本当に素の彼女はこんな感じなのか——。


 代わりに話を聞いてあげる。そのルネディの申し出に、カルデネは少し顔を上げゆっくりと首を振った。


「……ううん。私が……妖精王様にお願いしなくちゃ……いけないことなの……私が……きちんと……」


「ふうん、そ。わかったわ」


 震える声を絞り出すカルデネに、ルネディは短く言葉を返す。


 怒らせてしまったか——そうレザリアは危惧したが、ルネディはカルデネに近づき——


「——『恐怖を和らげる魔法』」


 ——カルデネに魔法を唱えた。カルデネが優しい光に包まれる。


「どう、少しは落ち着いたかしら?」


「え、あ、うん……少し気持ちが……落ち着いたかも……」


「そ。よかった。私がアルフの隣に座るから、あなたは安心してこの人に話しなさい。メル、彼女の隣に座ってあげて」


「うん!」


 メルコレディはカルデネの隣に座り、レザリアに倣って彼女の手を握る。茫然とする二人に、メルコレディは小声で囁いた。


「あのね、マルティが臆病さんだから、ルネディ、あの魔法覚えたんだよ。これ、内緒ね」


「こおら、メル。聞こえてるわよ」


 ルネディは口を尖らせながらも、メルコレディに掛けるその声は穏やかだ。


 ——信じられない。


 レザリアは困惑する。実際に目の当たりにしても、当時を知るレザリアは素のルネディを受け入れられないでいた。


 だが、メルコレディは莉奈の命の恩人だ。その彼女が言うのなら、きっとルネディは目の前の印象通りの人なのだろう。そこに関しては、受け入れるしかない。


 ただ、これだけはハッキリとさせなければいけない——レザリアは口を開く。


「……教えて下さい。なぜ、妖精王様の元にあなた達がいるのですか?」


「君達、何か飲むかい?」


「アルフ、私は紅茶がいいわ。さっきは落としてしまったもの」


「あ、わたしはミルク!」


「……あの、さっきからこの質問、流され続けているような……」


 なかなか教えてもらえず、いいかげん肩を落とすレザリア。そんなレザリアの様子を見て、ルネディがクスクスと笑う。


「ごめんなさい、レザリア。知り合ったのは最近よ。私は私の事情を知っている、ある人の紹介でここに来たの。これでいい?」


「その人物は……教えてもらえないのですね?」


「ええ、申し訳ないけど。あなた達の敵でないことは確かよ」


 ルネディはそう言って、紅茶に口をつけた。続けて、メルコレディが申し訳なさそうに口を開く。


「わたしは……その……」


「リナ、ですね?」


「……!!……リナちゃんから聞いたの!?」


「やっぱり……それしか考えられませんもの」


「あっ!」


 メルコレディは慌てて口を塞ぐ。だが、レザリアには何となく分かっていた。


 思えば、最初に妖精王に会った後の莉奈の態度は、どことなくおかしかった。もしあの時ルネディに会っていたんだとしたら、あの様子にも辻褄が合う。


 ——『胸を大きくする魔法』を理由にしていましたが、でも、胸の大きさなんてリナの魅力には関係ありませんから——


 と、少し思考が横道に逸れてしまい、レザリアはフルフル頭を振る。


 そしてメルコレディ。西の森の地図を渡した時は、『魔女の家』の場所を教えていたんだと思っていた。招こうとしたのか、遠ざけようとしていたのかは分からないけど。


 しかし、ルネディがこの場所にいるんだとしたら話は別だ。莉奈はメルコレディにこの場所を教えたに違いない。


 ——ああ、リナ、あなたはなんて優しいのでしょう。出来ればその優しさを、私にだけ——


 と、またまた思考が横道に逸れてしまい、再びレザリアはフルフル頭を振る。


 そんな頭をフルフルし続けているレザリアを心配して、メルコレディは声を掛けた。


「レザリアちゃん、だいじょうぶ?」


「いえ、申し訳ありません。とりあえずあなた達は、妖精王様のところに避難している、そう受け取っておきます」


「そうね。そんな感じで問題ないわ」


 ルネディはレザリアの方を見ながら微笑んだ。その視線を受け止めながらレザリアは息を吐く。


 彼女達が何かを企んでここにいるのではないのなら、追求したところで意味はない。まずは、今日ここに来た目的を果たさないと——。


 会話が落ち着いたのを見計らって、アルフレードが口を開いた。


「そろそろいいかな。それで、彼女のお願いごととは、一体なんだい?」


 カルデネはその声にビクッと肩を震わせるが、大丈夫だ。ルネディの魔法で恐怖心は和らいだ。女性密度が増えたのも、安心できる。何より、その両の手から感じる温もりが勇気をくれる。


 カルデネは顔を上げた。その表情からは、恐怖は感じられない。


「妖精王様は魔法をお作りになられるとお伺いしております。そこでお願いがございます。私に、授けて欲しい魔法があるのです」


「……ほう?」


 妖精王の目が光る。その様子を見たルネディが、アルフレードの頭をはたいた。


「うっ!……いったいなあ」


「そんな目で見ないの、アルフ。優しくしてあげなさい」


「分かってるよ。ルネディ……それで、カルデネ。作って欲しい魔法ってなんだい?」


「はい……かなり限定的な魔法となるのですが——」


 カルデネは深呼吸をし、続ける。


「——混ざり合った魂を二つに分ける魔法を授けていただきたいのです」







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