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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第二章
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別れ、出会う 02 —恋話—






 ——夜。


 彼女達は手頃な洞穴ほらあなの中で休息をする。


 カルデネは体力がなかった。無理もない。長い間捕らえられていて身体も弱り、助け出されてからも引きこもり同様の生活を送っていたのだから。


 それにしても、だ。


 今までのレザリアが持つ彼女のイメージは、綺麗で頼れるお姉さんキャラであった。しかしいざ蓋を開けてみると、まるで手のかかる妹のようではないか。


 あれからもカルデネは敵を見つけては、無謀にも突撃していった。そのたびにレザリアは肝を冷やした訳だが——。


 レザリアは収集しておいた木の実を取り分けながら、彼女に尋ねる。


「ねえ、カルデネ。なぜあなたはそんなに戦いたがるのですか?」


 カルデネは出された木の実を含み、口の中でコロコロ転がしながら、レザリアに謝った。


「ごめんね、迷惑なのはわかってるんだけど……」


「では、なぜ?」


「……うん、セイジ様と約束したの。あの家にいていいのは、私が独り立ちできるまでって。きっと私は邪魔者だから、早く力をつけて、セイジ様の恩義に報いて、独り立ち出来るように頑張らないと……」


 その言葉を聞き、レザリアは納得をする。だからカルデネは、無茶な戦闘をしたり、過度に研究に時間を割いているのだと。でも——。


「カルデネ。セイジ様は、あなたを邪魔だなんて思っていませんよ、きっと。だから無理しないでください。それに私があなたの立場だったら、いつまでも独り立ちせずに居座り続けますよ?」


「そ、そんなこと出来るわけないじゃん!」


「そうですか? 私はリナとずっと一緒にいたいですからね。許される範囲で、どんな手を使ってでもあの家にいたいです」


「……レザリアは、すごいんだね……」


「それはそうでしょう。人間族の寿命は短いのですから。少しでも長い時間、一緒にいたいだけですよ」


 さも当たり前のように言いながら、レザリアは水筒から水を注ぎ、カルデネに差し出す。それを受け取ったカルデネは、その水面に揺らめく自分の顔を見つめながらつぶやいた。


「……私も……わがままになれたらな……そしたら、あの人に……」


 その言葉に、レザリアの耳がピクッと反応する。そしてカルデネの方にずずいと身を乗り出した。


「……まさか、カルデネ——」


 自身の言葉に驚くカルデネ。だが、もう遅い。迫り来るレザリアから視線を逸らせずにいる。近い。


 レザリアの目が、冷たく光る。


「——あなたも、リナのことを?」


 カチャリ、と細剣に手をかける音が聞こえて来た。カルデネはジリジリと後ずさって、首を振りながら誤解を解こうとする。


「ち、違うよ? 私は別の人! リナじゃないよ!?」


「……なんだ、そうですか……安心しました」


 そう言って元の位置に戻り、自身のコップに水を注いで口に運ぶレザリア。カルデネは安堵する。よかった、誤解が解けて——


「ブーッ!」


 突然レザリアが水を吹き出した。そして、カルデネにまた身を寄せてくる。何事!? と混乱するカルデネ。まずい、後ろはもう壁だ。


「ちょ、ちょ、ちょ、ま、まさか、カルデネ、セイジ様のことを!?」


 レザリアの言葉に、カルデネは顔を赤らめてコクンと頷いた。


 恩義で尽くしているのは間違いないのであろう。しかし、そこに恋心があったとは——いや、待てよ? と、レザリアは疑問に思う。


「でも、カルデネ、その、あなたは、男性のことを……」


 確か、彼女は男性に対してトラウマを抱えているはずだ。無理もない。あんな酷い目にあったのだ。


 レザリアの言いたいことを悟ったのか、カルデネはポツリポツリと、自分の想いを話し始めた。


「……うん。今でも男の人は怖い、とっても。それに、こんな汚れてしまった身体で誰かを想うなんて、相手の人に失礼だと思う……」


「カルデネ……そんなことは……」


「ううん。分かっている、迷惑なだけだって。それに、セイジ様にはエリス様がいらっしゃるし。でもね、もし、叶うなら——」


 そこまで言って、カルデネは自分の胸に手を当て目を伏せた。それは、自身の激しく打つ鼓動を押さえつけるかの様に。


「——私の忌まわしい記憶を、思い出を、身体を、セイジ様で上書きして欲しいと思っているの。なんて……」


 そこまで言ってカルデネが目を開けると、レザリアが顔を赤くして目を回していた。そのただならぬ様子に、カルデネは首を傾げる。


「どうしたの、レザリア?」


「か、か、身体を、上書、き……わ、わっ……」


「え、え、えっ、私、そんなこと言った!?」


 カルデネは自身の先程の言葉を思い出す。あ、言った。確かに言った。


「ち、違うのレザリア! 例えばの話、うん、深く考えないで、例え話だからあ!」


「……なるほど。わかりました。いえ、あなたにとってデリケートな話題のはずなので、少々驚いてしまいました」


「少々?」


 必死に言い訳しようとしたカルデネだったが、レザリアは急に平静を取り戻す。切り替え早いな、このエルフの人——。


 ふう、と息を吐くカルデネに、レザリアは優しく微笑みかけた。


「いいんじゃないでしょうか? そんな想いを持つことくらい。それに、悲しいことですが、エリス様はもういない訳ですし」


「え?」


 レザリアの言葉に、カルデネは思わず気の抜けた返事をしてしまう。



 レザリアはあの書庫に出入りしているので、知っていて当然かと思っていたけど、そうだ、彼女は読ませてもらっていないんだ。


 エリス様に何があったのか記されているあの本を。一連の顛末てんまつが書かれた、あの本を。


 だったら今は、伏せておく方がいいのかもしれない。



「ふふ。じゃあ、叶わない恋をしている者同士、頑張ろっか」


「なっ、なっ、いえっ、私は叶えてみせますってえっ!——」



 ——彼女達の夜は更けていく。



 こうして、恋話に花を咲かせて距離の縮まった二人は、翌朝、晴れやかな顔で旅路をいく。


 そして昼前には、目的地である妖精王の住まう地へとたどり着いたのだった。




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