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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第二章
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別れ、出会う 01 —西方森中膝栗毛—





 ——翌朝。



 ノクスを見送った後、莉奈は新しく出来上がった馬房からクロカゲとアオカゲを出し、馬車へと繋ぐ。


 ドワーフ達はいい仕事をしてくれた。新しい馬房の居心地が良かったのか、二頭の馬もすこぶる機嫌が良さそうだ。


 莉奈は二頭の馬に声をかけた。


「ごめんね、クロカゲ、アオカゲ。働かせっぱなしで。また、よろしくね!」


 莉奈の呼び掛けに、二頭の馬は「ブルッ!」と応え莉奈に頬を擦り寄せる。


 特に今回は長距離の移動だ。常歩なみあしで、休み休みでの進行になるので大丈夫だとは思うが、やはり申し訳ない。


 だが二頭は気にするなと言わんばかりに、目を細め莉奈を見つめた。そこに、ライラがてててと寄ってくる。


「リナ。荷物、積み終わったよ!」


「お疲れー、ライラ。じゃあ荷台待機!」


「りょーかい!」


 ライラは昨晩、日付けが変わる頃に起きた。今回は目的が目的なので、しばらくは夜型に近い生活を送ってもらう事になっている。退屈させてしまうが、致し方ない。



 こうして彼女達は準備を終え、出発の時を待つ。


 目指すは——


「——じゃあ行くよ。クロカゲ、アオカゲ、東の地、オッカトルへGO!」


「ヒヒーン!」


 馬達はいななき、てくてくと歩き出す。二頭の馬も長旅だということを理解しているのだろう。莉奈は振り返り、見送る二人に手を振った。


「レザリア、カルデネ、行ってきまーす!」


「リナ! リナぁぁぁ!」


 レザリアの声が遠ざかっていく。片道一週間、莉奈はまだ見ぬ地に、思いを馳せるのだった——。









「うぅ……リナぁ……」


 馬車の姿が見えなくなると、カルデネに羽交い締めにされてジタバタしていたレザリアは、動きを止め肩を落とす。そして力なくつぶやいた。


「……カルデネ、そろそろ離していただけると……」


「ごめんね、レザリア。五分は押さえつけてくれってお願いされてるから」


「うぅ、そんなぁ……」


 うな垂れるレザリア。


 そして五分後——カルデネは彼女を解放する。


「リナ、リナぁ!」


 解放された瞬間駆け出そうとするレザリアの服を、必死でつかむカルデネ。彼女の身体がズルズルと引きずられていく。


「待って、レザリア。お願いがあるの!」


「いえ、止めないで下さいカルデネ。リナは私が……ん? お願い?」


 カルデネのお願いという言葉に、レザリアは動きを止める。カルデネは息を吐き、土を払いながら立ち上がった。


「お願い、レザリア。連れて行って欲しいところがあるの」


「……え? どこへでしょう」


 首を傾げるレザリア。どうやら莉奈から意識を剥がすことに成功したようだ。カルデネは、真っ直ぐレザリアを見つめ、何かを決意するかの様に言葉を続けた。


「——妖精王様という人のいる所へ、私を連れていって」










「えいっ!」


 ポコッ


 カルデネのへっぴりごしから放たれるメイスの一撃が、この辺りで最弱の魔物、『歩くキノコの魔物』の頭を撃つ。


 ポヨン


 しかしそのメイスは、キノコの弾力に弾かれてしまった。


「えいっ、えいっ、えいっ!」


 ポコッポコッポコッ


 めげずに撃ち続けるカルデネ。キノコの胞子が、バフバフッとばら撒かれる。その様子を眺めるレザリアは、ため息をついた。


「カルデネ……無理しないで下さいね?」


「いえっ、このぐらい、たおせなきゃ、私だって、がんばるからっ!」


 プシュー


 十発ぐらい叩いただろうか。ようやくカルデネのメイスで致命傷を受けたキノコの魔物は、魔素となり消えていった。肩で息をするカルデネは、笑顔でレザリアに振り返る。


「ぜー、ぜー……どう、見た? レザリア、倒したよ!」


「ええ、カルデネ。でもあなた、キノコまみれですよ?」


 レザリアの言う通り、カルデネの身体からいくつものキノコが生えていた。きゃーきゃー言ってカルデネはそれを払い落とす。


 再びため息をついたレザリアは、カルデネが払い落としたキノコを丁寧に踏み潰していった。


「カルデネ……無理して戦わなくていいですからね?」


「うぅ、ごめんね、レザリア。やっぱり私、戦闘に向いてないみたい……」




 彼女達は妖精王のいる場所へと向かっていた。馬車でも結構な時間のかかる距離だ。徒歩では一日歩き続けてやっとという所だろう。レザリアはそれを理由に断ろうとしたが——



『セイジ様とライラのためなの、お願い!』


『でも……』


『リナが見直してくれるかもよ?』


『行きましょう』



 ——こんな感じだ。


 こうしてレザリアはカルデネと行動を共にしている訳なのだが、はっきり言って甘かった。カルデネがまさかここまで動けないとは。予定よりも時間がかかるかもしれない。


「あっ。あれは『巨大蜘蛛の魔物』ね。私、戦ってみる!」


「ちょ、ちょっとーー!」


 メイスを構えて「やー」と突撃するカルデネを、レザリアは追いかける。戦闘に向いていないのを自覚しておきながら、なぜ戦おうとするのか。


 レザリアの受難はまだまだ続きそうである。





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