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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第一章
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『ようこそ』 10 —悪い知らせ—








「悪いな、セイジ。帰って来ていてよかったぜ」


「どうした、ノクス。まあ、入ってくれ」


 誠司はノクスを部屋に招き入れる。レザリアは夕食の準備中ということで、再び席を外した。


「と、その前に……そちらのお嬢ちゃんは?」


 部屋の中に見覚えのない人物がいる。その人物は、ノクスの方を興味深く見ていた。ノクスは当然ながら、誠司に尋ねる。誠司は少し困った顔で、彼に答えた。


「……ああ。なんの因果かまた拾ってしまったよ。私と同じ世界から来た、『転移者』だ」


「は?」


 ノクスは気の抜けた返事をし、グリムをまじまじと見つめた。グリムはノクスに自己紹介をする。


「私はグリム。何の因果か拾われてしまった。よろしく」


「あ、ああ……俺はノクス。セイジの友人だ……ってちょっと待て。こっちの言葉喋れるってことは、結構前に来たのか?」


 ノクスの疑問も無理はない。同じ世界から来た莉奈が、流暢に話せる様になるまで数年かかっているのだ。そのノクスの質問に、誠司は答える。


「いや、彼女は今日来たばっかりだよ。喋れるのは……まあ、彼女の能力だと思ってくれ」


「はあ……便利なもんなんだな」


 ざっくりとした説明を受け、転移者という存在に改めて感心するノクス。そんな彼に、グリムは胸に手を当てお辞儀をした。


「ああ。『みんなで育てる』が私のキャッチコピーだ。どんどん話しかけてくれ。ところで、ノクス。何やら急いでいた様だが何かあったのかい?」


「おい。私の台詞……」


「お、そうだ! セイジ、大変なことが起こっている。かなり不味い……」


 そこまで言って、ノクスは部屋の者を見回した。ここから先を話すのに、人払いをした方がいいか決めあぐねているみたいだ。


 その様子を感じとったのか、グリムが助け舟を出す。


「話してごらん、ノクス。ここにいる者は皆、信頼のおける者達だ」


「おう、そうか」


「いや、待て待て待て、君が言うな。ノクスも乗るんじゃない。グリム君、ノクスから見て君が一番怪しいんだぞ?」


「ふむ。ひどい話だが、一理あるな」


 そんなやり取りを見て、莉奈とヘザーが笑いをこらえている。ああ、緊迫感よ何処へいった。誠司は頭を抱える。


「いや、すまねえ、セイジ。まあ、じきに分かる事だ。ここで話しても問題ねえか」


「……だから、何があった」


 いい加減拗ね始めた誠司をノクスは手で制し、神妙な顔付きになった。そして声をひそめ、告げる。


「『東の魔女』さんがいるオッカトル共和国。あそこの国境が封鎖されたって話は、セイジ、前にしたよな?」


「ああ、そういえば……」


「今日のことだ、あそこから戻ってきた冒険者がいてな。どうやらあそこの国の一部が、砂漠化してしまったらしい。セイジ、俺が何が言いたいか、分かるか?」



 ——沈黙。



 その場にいる、グリム以外の人物は理解した。当事者である誠司はもちろん、当事者でない莉奈とヘザーも察することが出来る。


 かつて東の地に現れた『厄災』。彼女の持つ力の一つは、砂漠化。彼女が居座っていた期間、東の地は砂に覆われてしまった。


 短期間なら——いや、短期間でも問題になる、急速にその地に住まう者を追いやる能力。



 ——『厄災』マルテディだ。





「『厄災』……か」


「ああ、間違いないだろう」


 絞り出す誠司の声に、目を瞑り頷くノクス。誠司は先日のメルコレディの言葉を思い出す。


『——マルティはね、臆病さんなの。でも、ルネディと一緒で優しい娘——』


 彼女の言葉を信じるなら、マルテディが復活しても問題はないと考えていた。しかし本当にノクスの言う通りなら、彼女は『厄災』の力を振るってしまっている。


 ——メルコレディが嘘をついた?


 いや、その可能性は低いだろう。自分の力を恐れ、自分を殺して、とお願いしてきてしまうような彼女の言葉だ。誠司は少なくとも、メルコレディのことだけは信じたい。信じてみたい。


 だとしたら、マルテディは力を制御出来てないのか——いや、やはり何者かに操られてしまっているのかもしれない。


「……なあ、ノクス。それで、オッカトルは当時のように全土が……」


「いや、さっきも言ったが一部だ。国境沿いの一部が砂漠化してしまったらしい」


「……一部?」


「ああ。ただ、自然現象でないことは確かだろうな。ちょっと前まで緑豊かな草原が広がっていた場所だ。昨日今日で、あんなすぐに砂漠化するワケがねえ」


 誠司は唸る。莉奈は目を伏せている。


 先日のメルコレディとの一件は、ノクスには言えない。少なくとも操られている可能性がある、今はまだ。『厄災』はサランディアにとって、敵なのだから。


 そこで誠司は思い出す。この前届いた『東の魔女』からの手紙、『そっちが来い!』を。


 ——あれはもしかして、私に助力を求めていたのか?


「ノクス……それで、セレスはどう動いている?」


「ああ、『東の魔女』さんか。さあな、話を聞く限りじゃ分からねえ。そこでセイジ、お前さんに頼みたい事がある——」


 来た。誠司は覚悟をする。


「——お前さん、オッカトルに行ってくれねえか。お前と『東の魔女』さんが組めば、『厄災』を倒せるかもしれねえ。あわよくばその流れで、ルネディ対策もしてくれるようにお願いしてもらえねえか」


「いや、しかし……私はセレスに嫌われているぞ?」


「そうだっけか? しかし、放っておくわけにはいかねえだろ」


 誠司は考え込む。確かに放っておく訳にはいかない。だが、正直言うと、気が重い。『厄災』マルテディと『東の魔女』セレス。その二人を相手に立ち回らなくてはならないのだから。


 やがて誠司は、息を吐いた。


「……分かったよ。早速明日にでも向かうことにする」


「おう、ありがとうな、セイジ。すまねえが、国家間の問題だから俺は気軽に動けねえ。俺の代わりに『厄災』を討ち倒してくれ」


「ああ、安心してくれ。『厄災』は私が滅ぼす(・・・)


 その時だ。鼻をすする音が聞こえてくる。莉奈だ。それに気づいたノクスが、心配して声をかけた。


「どうした、リナちゃん。風邪か?」


「はは……うん、なんだろうね。私、ちょっと鼻かんでくる」


 莉奈はそう言って立ち上がり、顔を伏せたまま退室しようとする。その様子を見た誠司が、莉奈を呼び止めた。


「待ちなさい、莉奈。よく効く薬がある。ついて来なさい」






 誠司は部屋から離れた廊下で、声をひそめて莉奈に問う。


「どうしたんだい、莉奈」


「……ごめん。分かってるんだけどさ。他に方法、ないのかなって……」


 莉奈はマルテディに会ったことはない。


 だが、ルネディを知っている、メルコレディを知っている。その二人が、マルテディに会いたがっていることも。感情がぐちゃぐちゃだ。


 誠司はそんな莉奈の肩に、優しく手を置いた。


「ああ。彼女がもし操られているのなら……滅ぼさなければな。例え、メルコレディに恨まれようとも」


「……うん」


「だから、私達は確かめにいかなければならない」


 莉奈は顔を上げる。彼女の瞳から、涙が一筋だけ溢れ落ちた。


「……誠司……さん?」


「ノクスの手前、あんな言い方になってしまったが……君も来なさい。一緒に行くぞ、マルテディと『対話』をしに」


「……誠司さん!」


 その言葉を聞き、誠司の想いを知り、莉奈は思わず誠司に抱きつく。柱の影からなにやら殺気を感じるが——誠司は困った顔をしながらも、彼女の頭を撫でた。


「さあ、離しなさい。部屋に戻ろう」


「……うん……このまま鼻かんでもいい?」


「今すぐ離せ」


 莉奈はぐりぐりと顔を回し、誠司の作務衣で涙を拭き取ってからようやく離れた。


「誠司さん、ありがと!」


「……まだ礼は言うな。場合によっては……君も分かっているだろう?」


「うん、そうなんだけどさ……でも、ありがとね」


「……ああ」


 二人は部屋へと向かう。何やら美味しそうな匂いが漂って来た。もうすぐ夕食が用意出来るのだろう。


 こうして彼らは食卓に場所を移し、今後のことを話し合うのであった。






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