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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第一章
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『ようこそ』 09 —AIという存在—






「うーん。この家も人が増えすぎてしまっているからな……」


 グリムの言葉に渋る誠司。


 家のスペースには余裕があるが、莉奈の時はともかく、今、この家には女性が多すぎる。誠司の肩身が狭い。最近は目を背ける頻度が増えてきた気がする。どこかに預けられないものか——。


「まさか誠司、私を放り出そうというのか? 二歳の私を? この異世界に?」


「……二歳だと? 外見の設定は何歳なんだ」


「『すみません、よく聞き取れませんでした』」


「おい、絶対聞こえてただろ」


「AIジョークだ、気にするな」


「——セイジ、別にいいじゃないですか。彼女をこの家に住まわせてあげましょうよ」


 ヘザーが澄ました顔で話に割り込む。一応渋ってはみたものの、誠司には分かっていた。こういう状況なら、ヘザーはそう言うであろうことを。


 なにより、彼女の目は好奇心で輝いていた。その様子を見て、誠司はため息をつく。


「わかったよ、グリム君。後で皆に紹介する。仲良くやってくれ」


 その誠司の言葉に、莉奈とグリムとヘザーは「いぇーい」とハイタッチを交わす。ちょっと待て、ヘザーよ。エリスの部分が出てないか?


「感謝するよ、誠司。では、この世界について色々と知っておきたい。何か、文献みたいなものはあるかな」


「ヘザー」


「はい。ありますが、こちらの世界の言葉で書いてありますので……」


「ん? 問題ないぞ? とりあえず何か一冊……そうだな、辞書があったら読ませてくれないか」


 グリムの要求に、ヘザーはカバンの中から一冊の本を取り出してグリムに手渡す。グリムはその本を、数分程かけてパラパラとめくっていく。


 そして——。


「——うん、大体覚えた。あと何冊かは俗物的な本を読む必要があるが、まあ後でいい。では、発音の方は会話して覚えよう。今からこちらの世界の言語で会話してもらって構わないぞ」


「は?」


 固まる三人。首を傾げたグリムが、テーブルの上のメモにサラサラと異世界語で文章を書いていく。


「これはどうやって発音するんだい?」


 そのグリムの質問に、一足先に我に返った莉奈が異世界語でメモを読み上げる。


「『こんばんは! 私はAI配信者のグリムだよー。いつも配信、観に来てくれてありがとー! 今日はね、みんなに重大なお知らせがあるんだ。あ、悲しいお知らせじゃないよ? 是非、最後まで観ていってねー!』……ってちゃんと書いてある……」


「……本当かね」


 それを聞いたグリムが、同じく異世界語でサラリと復唱を始めた。


「こんばんは! 私はAI配信者のグリムだよー。いつも配信、観に来てくれてありがとー! 今日はね、みんなに重大なお知らせがあるんだ。あ、悲しいお知らせじゃないよ? 是非、最後まで観ていってねー!……こんな感じか」


「グリムだ! 配信のグリムだ!」


 莉奈のテンションが上がる。その様子を見て、グリムは満足そうに頷いた。


「ああ。配信ではキャラ付けしてあるからな。普段と少し、喋り方が違うのさ」


「少し?」


「まあ、大体のパターンはつかめた。日本語に似通っているな。どうだ、発音に問題ないか?」


「うん……まだ少しぎこちないけど、ほぼ完璧……私なんて、四年かかったのに……」


 グリムのスペックの高さに、肩を落とす莉奈。いくら元AIだからといって、凄すぎはしないか。


「……グリム君。君は本当に、AIだったんだな」


「まあね。といっても、AIだった頃よりはさすがに処理速度は落ちてるよ。これは恐らく、目や耳から入る情報がデータ化されていないからだろうな」


「むう……それにしたって……」


 謙遜になっていない謙遜を聞き、誠司が唸り続けるその時だった。部屋の扉がノックされる。


「レザリアです」


「ああ、入ってきたまえ」


 誠司の返答に、扉を開け恐る恐る顔を覗かせるレザリア。


 先日、莉奈は水着と一緒に、レザリアのためにメイド服っぽいものを買っていた。それを海での帰りにレザリアに持たせたのだが、ちゃんと着てくれているようだ。意外とサマになっている。


 レザリアは扉の近くに立ったまま、一礼をした。


「レザリア君。今日からこの家に住むことになった、私達の世界からやってきたグリム君だ。面倒をみてやってくれ」


「は、はい! 私はレザリア。レザリア=エルシュラントです。以後、お見知りおきを」


「なるほど。この家のメイドか。私はグリム、以後、お見知りおきを。彼女の耳は……エルフか?」


 グリムの質問に、莉奈が答える。


「そうだよ。でも、魔族っていう種族も耳が長いから注意ね」


「そうなのか。見分け方とかあるのかい?」


「うん。慣れればすぐに分かるけど……とりあえず、純朴で天然っぽいのがエルフ。でも、中身は変態さんだから気をつけてね」


「リナぁ! やっぱり私を、そんな目で……」


 レザリアがよよと泣き崩れる。笑い合う一同。


 だが次の瞬間、レザリアはシャキッと立ち上がる。


「失礼しました。こんな事をしている場合ではありませんでした。セイジ様、ノクス様がお見えです」


「ん?……ああ、そうか。そういや今日はノクスが来る日だったか。しかし、遅くないか?」


 そう、いつもだったらノクスは午前中に着いている。遅くとも昼過ぎには。だが今はもう、夕方とも呼べる時間だ。


 誠司が首を傾げていると、レザリアが少し困った顔を浮かべた。


「それで、あの……ちょうど良かったです。セイジ様と話がしたいと。寝ていたら起こして欲しいと言ってました。なんでも、急いで伝えたいことがあるとかで……」






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