『ようこそ』 08 —tips スキル・上級編—
「ブラックボックス……開かない箱、ね……ふむ」
グリムの言葉を受け、誠司は考え込む。皆が見守る中、誠司は一人頷き口を開いた。
「ちょうどいい機会だ。莉奈、君も聞きなさい」
「私?」
突然話を振られ、莉奈はつい間抜けな声で返事をしてしまう。誠司は莉奈に頷いた。
「まず、我々の持っているスキルだが……これらは基本、魔法で代用できるものだ。使い勝手や効果のほどは別としてね」
「ちょっと待ってくれないか。魔法だって? それに、キミ達は一体どんなスキルを持っているんだい?」
グリムが疑問を口にする。当たり前だろう。それを説明しない訳にはいかない。
「ああ、この世界には魔法がある。君の物語の知識にある様なものだと思ってもらって構わない。それでだ。まず、私は『魂』に関係するスキルを持っている。魂の位置を探知したり、相手の魂を恐怖させたりね。これらは『探知魔法』、『恐怖を与える魔法』が近い性質を持っている」
「なるほど。それで、莉奈、キミは?」
「私は空を飛べるの。これはそのまんま、『空を飛ぶ魔法』っていうのが存在する」
「そうか。なら私のスキルは『回復魔法』に近しいものなのかな?」
「うむ。どうかな、ヘザー」
「はい。ここまで肉体を復元できる魔法はありませんが、傷が治るという事は身体が再生するのと同義です。そういった意味では、『傷を癒やす魔法』の性質に近いものかと」
ヘザーの説明を聞きながら莉奈は考える。妖精王アルフレードは『作る』能力を持っていた。果たしてあれは、魔法で代用出来るものなのであろうか。
ぱっと思いつくのは、『幻影魔法』だ。それに実体が伴うかどうかの違いだけで、そこにないものを作り出すという意味では、まあ一緒である。
そこまで考えて、ふと、『錬金術』という言葉が頭をよぎった。アルフレードは中世ヨーロッパの人だろう。錬金術に手を染めていたと言っていた。
だとしたら、何かを生み出したり、彼の持つ『不老不死』の力も、結局はその学問の行き着く先だ。何かの物語で観たことがある。
真偽は分からないが、その彼の持つ『常識』が、彼の持つ強大な力に繋がっているのかもしれない。
「どうした、莉奈。ボーっとして?」
「え? ううん、なんでもないよ、続けて!」
「ああ。とまあ、そんな解釈で私はいたんだ。だが、十年くらい前だったかな。そう、なんと言ったらいいか……私は『目覚めた』」
「……目覚めた?」
莉奈の頭にアルフレードの言葉が反芻する。
——『——それでリナ、君は目覚めたのかい?』
「うむ。グリム君の表現を借りれば、『蓋が開いた』と言ったところか。突然、私の頭の中に、チートスキルの情報が溢れ出したんだ」
「チート……スキル?」
莉奈が言葉を絞り出す。その彼女の様子を見て、グリムが解説を始めた。
「莉奈。チートとは、イカサマや不正行為の事を指す。転じて、ありえない超常的な力のことをチートと表現することもある」
「うん、知ってる」
「なんだ、ちえっ。それで誠司。それはどんな力なんだい?」
「ああ、まずチートスキルというだけあって、使用にはだいぶ制限がかかっている。少なくとも私の場合、人生で一箇所しか使えない。それに使った所で、君達には認識出来ない能力さ」
その言葉を受け、グリムは莉奈の方を見る。
「なあ、なんで誠司はもったいぶるんだ?」
「ごめん、そういう人なの。許してあげて」
「ンンッ……少しはもったいぶらせてくれ。それでだ。他の転移者が同じ様な力を持っているのか分からなかったので、今まで莉奈には伏せていたが……グリム君にそれらしきものがあるという事は、莉奈、君も持っているのかもしれないね」
誠司は二人を見回す。莉奈とグリムは黙って誠司を見つめる。はよ言えと言わんばかりに。その視線に耐えられず、誠司は顔を赤らめた。
「……引っ張る内容でもないしな。私のチートスキルは、人生で一箇所だけ『魂』をその時間に固定することが出来る。そして、死んだらそこからやり直せるらしい。ゲームでいえば『セーブ』ポイントを作る、物語でいえば『死に戻り』っていうところだろうね」
それを聞いた莉奈は、思わず呆けてしまう。その現実味のない能力に、頭が理解するのを拒否してしまっている。
能力自体はよくある『チートスキル』だ。だが、実際に身近な人がそれを使えると言われても——いまいちピンとこない。
そんな莉奈とは対照的に、グリムは納得した様子で頷いた。
「なるほど……人生をロールバック出来るということか」
「ああ。出来れば使うことなく人生を終えたいがね」
誠司は腕を組み、椅子に背を預けた。その様子を見た莉奈は、疑問を口にする。
「なんで? 今のうちに使っておけば、万一の時に安心じゃない?」
そうだ。これから『厄災』達が現れる可能性が高いのだ。保険をかけておくに越した事はない。だが、誠司は首を振った。
「それが使い勝手が悪くてね。『魂』をその時間に置いてきてしまうんだ。時間が経つほど、肉体は抜け殻の様になっていくだろう。それにこの力は、心から使いたいと思った時にしか使えないみたいなんだ」
「そうなんだ……本当に万一の時の保険って感じなんだね」
「ああ」
確かに、その力は絶大だ。チートスキルと銘打つのも頷ける。死んでも元の時間に戻ってやり直せるのだ。魔法では絶対に不可能な力。
だが、その力を使ったとしても周囲は気づかないだろう。そういった物語を莉奈も観たことがあるが、なんて孤独な力なんだろうと思ってしまう。
一通り話を聞いたグリムは、口を開く。
「なるほど、分かった。私の方でも蓋を開けないか試してみるよ。その前にだ、この世界で生活するにあたって、私の居住区を確保しておきたい。誠司、私はどこに住めばいい? この家に住まわせてもらう事は可能か?」




