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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第一章
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『ようこそ』 07 —tips スキル・中級編—






「はい、仰る通り私は作り物ですよ。でも、あまり広めないで下さいね? 好奇の目に晒されるのは困りますので」


 そう言って、涼やかにグリムに笑いかけるヘザー。その態度を見て、グリムは頭を下げた。


「失礼。親近感が湧いたものでね。確かに、一般的な人間は理由なく詮索されることを嫌うのだったな。悪かったよ」


「いえ。この家では公然の秘密ですから、お気になさらずに」


 莉奈と誠司は息を吐く。全く心臓に悪い。


 もしも家族でテレビを見ていて、突然へんなシーンが流れてきたら、こんな気分になるのだろうか。


 ヘザーは特に気にしている様子もなく椅子に座り、グリムにサンドイッチを勧める。


「さあ、お腹が空いているようでしたらお召し上がり下さい。私はこちらの世界の者なので詳しくはありませんが、あちらの世界と大差ない食事のはずですよ」


「おお、食事か、初めてだな。食べないと人間は死んでしまうのだろう? 遠慮なく頂くよ」


 そのグリムの言葉に、事情を知らないヘザーはキョトンとする。莉奈は、サンドイッチにかぶりつくグリムを眺めながらヘザーに軽く説明をした。


「あのね、ヘザー。この娘ね、ええと、この世界ではなんて言うんだろう……まあ、概念的存在だったの。例えば妖精や、誠司さんの空間の人? みたいな。だから食事も初めてなんだ」


「へえ、それは驚きですね……」


 ヘザーの目が好奇心で輝く。当のグリムはというと、サンドイッチを一つ瞬く間にたいらげ——固まっていた。


「どうしたの、グリム?」


「……ずるいぞ」


「え?」


「人間は! こんな多幸感に包まれながら! エネルギーを摂取していたのか!」


 グリムはテーブルを叩き立ち上がった。それを誠司が彼女の襟をつかんで座らせる。


「落ち着きたまえ、グリム君」


「だって! 配信で食事の話題が出た時なんかは『うわー、おいしそー』とか訳も分からず言っていたんだぞ! まるで道化じゃないか! まあ、言ってしまえば、私の役割は道化を演じることなのだが。むしゃむしゃ」


 そう言いながら二つ目、三つ目のサンドイッチを頬張るグリム。よく分からないが、気に入ってくれたのは確かなようだ。


 そして彼女は、最後の一口を飲み込んだ。


「……ありがとう。これが『美味しい』という感覚なんだね。ネット民達が『飯テロ』を恐れていた理由が分かった気がするよ」


「ふふ。気に入ってもらえた様で、何よりですよ」


 ヘザーはグリムに笑いかけ、空いた皿を下げる。その皿をうらめしそうに眺めるグリムの視線が、痛い。




「さて、グリム君。もう少し質問してもいいかな?」


 一息ついた所で、誠司が切り出す。グリムはようやく皿から目線を外し、誠司に向き直った。


「なんだい。なんでも聞いてくれ」


「こちらの世界に来た者は、スキル——能力が発現するんだ。君も持っているかもしれない」


「スキル? 物語でよくある、超常的な現象のことか。それが私にも?」


「ああ、恐らくは。グリム君、条件はある程度特定できているんだ。君は『穴』に吸い込まれる時、何を考えていた?」


 誠司の言葉にグリムは思考を巡らせる。グリムが『穴』に吸い込まれる時考えていたこと。それは。


「分からない、な」


「分からない? 多分、最後に考えたことだと思うが……」


「では尚更『分からない』だ。私は対処に必死でね。色々な対処を並列思考で処理していた。だから特定の事柄一つとなると、どれを指すのか分からない」


「そうか……まあ、おいおい——」


 その様に誠司が言いかけた時だった。その言葉をグリムが遮る。


「まあ、待て。私が何を考えていたのかは分からないが、スキルというものは分かるぞ。私の脳に、不自然な領域があるのを感じる。多分、これだ」


「本当かね……」


 誠司も莉奈も、グリムの言葉を受けて自分の脳内に意識を向ける。しかし、当然のごとく『不自然な領域』というのが何を指すのか分からない。


「誠司、何か刃物みたいな物はあるかな」


「私の刀は……危険か。すまない、ヘザー。果物ナイフを持ってきてくれるか」


「はい。少々お待ち下さい」


 そう返事をし、ヘザーは空いた皿を持って退室をする。そして、すぐに果物ナイフを持って戻ってきた。


「どうぞ」


「ありがとう、お借りするよ」


「グリム君、何をする気だね?」


 大丈夫だとは思うが、誠司は念の為、刀を引き寄せる。だが、グリムはそのナイフで——


「ちょっと! 何やってるの!?」


 ——莉奈が叫ぶ。


 なんとグリムは皆の目の前で、自分の人差し指を切り飛ばしたのだ。


「いったーい!……すまない、感覚遮断が出来るといいのだが」


「グリム君! 君は何を!」


「まあ、見ててくれ」


 グリムは皆の前に手を差し出す。その傷からは、血が流れていない。皆が固唾を飲んで見守っていると——なんと瞬く間にその傷口から指が生えてきたのだ。


「何、それ……」


 莉奈は呆然とし、彼女の切り飛ばされた方の指を見る。その指はグリムが指を鳴らすと、光の粒子となり消えていった。


 言葉を出すことが出来ない一同を見て、グリムは皆に解説を始めた。


「私が『穴』に吸い込まれる時、当然『復元』や『修復』なども考えていた。もしそれが力になるのなら、この力はそれに由来するのだろう。自分に対してしか使えないみたいだけどね」


「そこまで……分かるのか……」


 誠司が呻く。彼とて、今まで手探りでスキルを使いこなせる様になってきたのだ。


 それをこうもあっさりと、なぜ分かる——それすらもスキルではないのかと疑ってしまうほどだ。


「もう! 心臓に悪いな!」


「……莉奈。君がいうかね」


「驚かせてしまったかな。だとしたら、配信者冥利につきるよ。ところで誠司。今度は私から質問があるんだが」


「なにかな? ここには私達以外の視聴者はいないぞ」


 軽口を叩く誠司に、グリムは不思議そうな顔をして尋ねる。


「私の頭の中に、ブラックボックス的な、今は開かない箱があるみたいなんだ。場所的にスキル関連とみて間違いなさそうなんだが……キミ、何か知っているか?」





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