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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第三部 第一章
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『ようこそ』 03 —『再起動』—







 翌日——。



 莉奈の御者で馬車は進む。


 馬車は順調に『西の森』に入り、魔女の家周辺に張られている結界内に侵入した。あと、十分ぐらいで家に着くだろう。


 ライラとヘザーは楽しそうに話をしている。その会話を何とは無しに聞きながら、莉奈は物思いにふける。





 ——今朝、出発前。莉奈は昨夜の話をヘザーから聞いた。


 どうやら誠司が莉奈を避けていたのは、莉奈を殺しかけてしまった事が原因らしい。



「え? そんな事で?」


 莉奈はキョトンとする。


「そんな事ってリナ。セイジの立場になって考えてみて下さい。もしあなたが死んでいたら、セイジは立ち直れませんでしたよ?」


「いやあ。ここだけの話、計算してやったつもりだったんだけどね……」


「……計算して致命傷を受ける人がいますか」


「はは、私もちょっとヤケになってたかも。みんなにも怒られたよ——」


 その話を馬車の陰でこっそり聞いていたライラは固まってしまっていた。ちょっとお手洗いに行っている間に、二人はとんでもないことを話している。


 たまらずライラは二人の前に躍り出た。


「ちょっと、何! どゆこと!? お父さん、リナのこと殺そうとしたの!?」


「ライラ!?」


 ライラは目に涙を湛えていた。マズい、聞かれてた。莉奈は必死にフォローを入れる。


「違うの、ライラ、計算、計算だから! レザリアとメルがいたから大丈夫だったのっ!」


「お父さん、嫌い!」


 ライラは涙をグシッと袖で拭い、昨日莉奈から取り返したメモを取り出す。そして、『リナはーれむ お父さん←New!』の文字をグシャグシャグシャと乱暴に塗り潰し始めた。


「ライラ! やめて! 大丈夫、それでみんな仲良くなったんだから! 誠司さんの事、嫌いになっちゃ駄目っ!」


「だって!」


 莉奈は、ライラのペンを押さえる。ええい、ままよ。



「あのね、仲直りしたから! 誠司さん、ちゃんと『リナはーれむ』の一員だから!」



 どうだ。



「リナ、こんな時にふざけないで」



 ——うぉい! ふざけてる自覚、あったのかい!


 莉奈はその場に突っ伏し、地面を叩く。


 そんな様子を見かねたヘザーが息をつき、助け舟を出した。


「ライラ、セイジを許して下さい。あれは事故だったのですから。それに、大変なんですよ? 偶然とはいえリナに怪我をさせてしまって、『すまない、愛しの娘よー』って毎晩、むせび泣いているんですから」


「え、ホント?」


「え、ほんと?」


「え、ええ、まあ……」


 莉奈まで食いついてきたのは予想外だったが——。


「ヘザーが言うなら、そうなんだね。お父さん、ちゃんと反省してるんだ……ごめんね、リナ。ちゃんとメモ、書き直さなくっちゃ!」


「……だから、何なのよ、それ……」




 ——こうして、ヘザーのおかげでなんとかその場はまとまったのだ。さすがはライラのヘザーに対する信頼感と言ったところか。


 あの親子にはケンカなどして欲しくない。きっと、近い将来カルデネが何とかしてくれて、二人が出会える日が訪れるのだろうから——。





 そんなやり取りを思い出している時だった。莉奈が異変に気付く。


 静かだ。空気がシンとしている。何か不思議な感覚を、肌に感じる。


 それは、馬車を引く二頭の馬、クロカゲとアオカゲも感じ取っている様だ。速度こそ落とさないが、慎重に進んでいる様子が手綱を握る莉奈の手にも伝わってきていた。


「クロカゲ……アオカゲ……」


 莉奈は心配になり呟いた。二頭の馬は「ブル……」と鳴き、速度を落として——やがて、その脚を止めた。


「どうしました?」


 荷台からヘザーとライラが顔を出す。ライラも不思議な空気を感じとっているのか、ヘザーの服の裾をしっかりとつかんでいた。


「……うん。上手く言えないけど……なんか変じゃない?」


「……そだよね。なんか、不思議な感じ」


 別に、危険な気配を感じる訳ではない。ライラの言う通り、なんか、こう、不思議な感じなのだ。


「ブルル……」


 二頭の馬が、空を見上げる。それに釣られ、莉奈達も空を見上げ——。


「ねえ、ヘザー。あれ……何……」


「……いえ、私にも……わかりません……」


「……何、アレ……みたことない……」


 三人は空を見上げ、呆然とする。莉奈はソレから目を逸らさず、震える声でライラにお願いをした。


「……ごめん、ライラ。誠司さん起こして……」


「……うん」


 莉奈は空に浮かぶソレに、一つの心当たりがあった。なら、せっかく昼型に戻ったライラには申し訳ないが、これは誠司を呼ばなくてはならない。


 なぜなら、コレに関しては誠司が一番詳しい——いや、唯一、第三者として関わった事がある人物であろうから。



 一瞬の光に包まれた後、誠司が顕現けんげんする——。



「どうした、何が——」


 眠そうな顔で現れた誠司も、そこまで言いかけて異変に気付く。莉奈は、誠司の手を握って上空を指差した。


「——誠司さん、アレ、『穴』だよね……?」


 そう、莉奈の指差した空には、『穴』としか形容できない物——『白い穴』がそこにはあったのだ。


「——いや、私が吸い込まれたのは『黒い穴』だ。しかし……アレは確かに『穴』だな。色の違いはあれど、『穴』としか表現しようがない」


「……誠司さん、見えるかな。『穴』から人が降りてきてるの……」


 莉奈の言葉に、誠司は目を細める。


 言われるまでもなく、『魂』により異変に気付いた訳だが——確かに、『穴』から吐き出されたであろう人影が、ゆっくりと地面に向かって落ちてゆくのが見えた。


「……行ってくる」


「……私も行くよ」


 二人は駆け出す。人が落ちてゆく方へ。


 誠司は徐々に塞がって行く『穴』を見ながら、呟いた。


「……白い穴……ホワイトホール……か……」





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