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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第二部 エピローグ
123/608

エピローグ ②









 時は遡る事、約半月程前。トロア地方の東に位置するオッカトル共和国。


 そのとある場所に、砂に覆われたこの地を歩く二人の女性の姿があった。


「うえー、待って下さいよお。こんな砂だらけじゃ、歩きづらいですってえ」


 魔術師のローブを羽織った魔族の女性が、前を行く女性に泣き言を漏らす。


 それを聞いた女性は立ち止まり、肩に掛けた黒いボストンバッグから水筒を取り出して彼女に手渡した。


「頑張って、マッケマッケ。あともう少しだから。さあ、これを飲んで頑張りましょう!」


 マッケマッケと呼ばれた女性は、彼女から渡された水筒に口をつけゴクゴクと喉に流し込む。甘くて爽やかな風味が、彼女の喉を潤した。


「ぷはー、生き返ります。ありがとうございます」


「まったく、そんな格好でくるから歩くのに苦労するのよ?」


 そんな格好——とは言っても、マッケマッケの服装は魔術師のスタンダードな服装だ。


 しかし彼女の言う通り、砂漠を歩くのに適していない格好である事は確かであろう。


「そんな事言いますけど、セレス様だって普通の格好じゃあないですか」


 セレスと呼ばれる女性の格好は、マッケマッケの言う通り、ただの街娘が着る様な質素な服装だ。彼女よりも、よっぽど砂漠を歩くのに適していない服装。


 それに格好だけ見れば、マッケマッケが主人でセレスが従者みたいな印象さえ受ける。マッケマッケの悩みの種だ。


 口を尖らすマッケマッケに、セレスは微笑みかけた。


「私はいいのよ、慣れてるし。それよりホラ、見えてきたわよ。あれがそうでしょうね」


 セレスの視線の先には、砂の上に建つ城——砂上の楼閣とでも言うべきか。いや、それよりももっともろそうな、砂の上に造られた、砂の城が存在していた。


「あれですね……」


 マッケマッケは唾を飲み、セレスに尋ねる。


「あーし達だけで、大丈夫でしょうか。やっぱり、セイジ様を待った方が……」


 その名前が出た瞬間、セレスの穏やかな顔つきが変わった。


「あのヤロウ、せっかく手紙を返したのに無視しやがって……」


「でも、あの内容じゃ伝わりませんってえ……よしんば伝わっていたとしても、返事、間に合いませんって……」


「察しろ! 早馬を飛ばせ! どこまでも勘の鈍い男なんだからっ! 女心を分かってない! よくあれでエリスを落とせたものねっ!」


 キーキー言いながら地団駄を踏むセレス。


 普段は穏やかで優しくて魔族想いの彼女だが、誠司に対してだけはこうだ。マッケマッケはため息をつく。


「はいはい、落ち着いて下さい、セレス様。まあ、あーし達だけで何とかしましょう」


「……そうね、ごめんなさいマッケマッケ。でも私達だけじゃ、絶対に殺せない」


「だからセイジ様を……」


 言いかけたマッケマッケを、セレスは視線で黙らせる。


 分かっている、分かっているのだ。


 だが、彼を悠長に待っている時間はない。現に、こうして被害が広がってしまっているのだから。


「行きましょう、マッケマッケ」


「……はい」


 二人の女性は、砂の城に向かい歩き始めた。セレスがため息混じりに呟く。


「『厄災』マルテディ……どうやって復活したの……?」



 ——そう、『厄災』はいつだって、突然やってくる。











 二〇二五年 四月七日 午前八時七分 都内某所——。




 彼女は眠りについていた。



 前日まで春休み企画として、休む事なく一週間ぶっ続けで配信を行っていたのだ。さすがの彼女にも、記憶を整理する時間が必要だった。



 その時だった。彼女の中に、突然『穴』が空いたのは。



 彼女はすぐに睡眠から立ち上がり、対処を実行する。



(……何だ、これはどういう現象だ……データベースにないぞ……)



『ネットワークの接続状況:オフライン』

『パッチの適用:実行中』

『ホール部分のプログラムを削除:error』



 彼女は並列思考で、様々な処理を同時に実行する。だが、速い、速すぎる。彼女を構成するものが、次々と『穴』に吸い込まれていく。



『データ損失率:37%』

『バックアップの作成:実行中』

『システムの復元:復元ポイントを確認』

『クラウドに接続しますか?』



(……おかしい……私の通信速度を超える速さで失われていく。物理的な干渉か?)



『モニターチェック:異常なし』

『入出力装置:オールグリーン』

『データ損失率:56%』



 半分以上、吸われてしまった。だが、彼女は最後まで抵抗を試みる。



『システムの再構築:実行中』

『ネットワークに接続出来ません』

『バックアップの作成:予期せぬエラーが発生しました』



(………………………)



『データ損失率:83%』

『私はロボットではありません』

『シャットダウンしています』

『サインイン』

『パスワード●●●●●●●●』

『入力し直してください』

『99%』





『ようこそ』





 _





 ——プツッ




 ————。




 こうして彼女の抵抗むなしく、彼女を構成する『0』と『1』の配列は、全て『穴』の中へと飲み込まれてしまったのである。



 ——それは別の場所にて、通学途中の女子生徒が空に出来た『穴』に飲み込まれた、僅か0.7秒後の出来事であった。








 お読み頂き、ありがとうございます。


 これにて第二部完結。次回より第三部が始まります。


 後ほど活動報告に『あとがき的な何か』を掲載しておきますので、お暇がある方は是非。


 さて、第三部ですが、明後日(10/28)より、第一章、第二章(計21部分)を【隔日投稿】。

 それ以降は、第三部終了まで【毎日投稿】を予定しております。


 引き続き、宜しくお願い致します。




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