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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第二部 第八章
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莉奈と誠司 06 —私は、生きている—





「……それじゃあ、着替えちゃおっか。メル、もう少し一緒にいられるよね?」


「……多分」


「大丈夫だ。万が一があったら私が全力で食い止める。ちゃんとお別れをしなさい」


 莉奈の彼女を心配する言葉に、誠司は無理して笑顔を作る。そんな誠司の気遣いに、莉奈は感謝した。


「ありがとね、誠司さん。話、聞いてくれて」


 莉奈は背負っている小太刀の紐を解く。


「いや、莉奈。あの時は本当に——」


 すまなかった、と誠司が謝罪しようとした時だった。


「あ」


 莉奈は忘れていた——誠司の刃で水着の紐が斬られていた事を、それを無理矢理小太刀の紐で押さえつけていた事を。


 めくれ落ちる莉奈の水着。


 誠司が下を向く、ビオラが固まる、メルコレディが顔を覆う、レザリアがガン見する。砂浜に莉奈の絶叫が響き渡る——。



「——見ないでええぇぇーーっっ!!」










「ねえねえ! 見られちゃったかな、見られちゃったかなっ!?」


「ええ、しかと見届けました。なるほど、人間が水着をつける理由が分かった気がします。なかなかそそる……失礼、いいものですね」


「もう! レザリアじゃなくてっ!」


「……やっぱり、変態だわ」


 私は水着を押さえながら、メルの手を引っ張って逃げる様に小屋へと駆け込んでいた。


 レザリアとビオラも、着替えがてらに私の後を追っかけて来た感じだ。


「あー、もー、まあ、見られたなら見られたでしょうがないんだけど……いや、しょうがなくないよ!」


「多分大丈夫よ、お姉様。セイジさん、ものすごい勢いで下を向いてたから」


「あー……なら、いっか」


 まあ、ライラのせいで風呂場ではいつも死線をくぐり抜けているのだ。メルの話も聞いてくれた事だし、少なくとも見てないフリをしてくれるんだったら許してあげよう。


 このように私が気を持ち直した所で、レザリアが歩み寄ってくる。


 なんだよ、見足りないのかよ。あなた、一緒に風呂に入ればいつでも見られるでしょうに。


 けど——レザリアは私の顔を真顔で見つめたかと思いきや、急に泣き出しそうな表情になった。


「リナ……セイジ様の手前申し上げられませんでしたが……あなた、死ぬ所だったんですよ。分かっていますか?」


「え?」


 レザリアが私の肩を恐る恐る撫でる。ああ、誠司さんに斬られた時の——。


「……もし、シャーロン——メルの止血がなかったら……もし、何か一つ歯車が狂えば……私の回復魔法は届きませんでした……なんであんな無茶、したんですか……」


「……えっと」


 私が言葉を返せずにいると、メルが私の手を握ってきた。


「……うん。セイジちゃんも手ごたえがあったんだと思う。わたしが止血を思いついたから良かったけど……そうじゃなかったら、リナちゃん……」


「マジか」


「マジですっ!」


 レザリアが怒鳴る。あ、これ本当に怒ってるやつ。


「……お姉様……そんな事に……」


 当時離れた所にいて何が起こっていたかを把握出来ていなかったビオラも、状況を知ってしまいヘタヘタと座り込む。どうすんだ、これ。


「あのね、みんな。聴いて欲しいの」


「なんですか、今度という今度は本当に——わっぷ!」


 私はレザリアとメルを胸に抱き締める。


「聴こえるでしょ。私の鼓動。ほら、ビオラも」


 ビオラはヨロヨロと立ち上がり、促されるまま私の背中に耳を当てた。三人は耳を傾ける。


 ——トクン、トクン……


「今、私は、生きている。みんなのおかげで」


 レザリアとメル、ビオラが鼻をすする。水着がめくれてしまっているが、この際だ。たんとお聴き。


「メルのおかげで血が止まった。レザリアのおかげで傷が塞がった。ビオラのおかげで……ええと……」


「お姉様?」


「うん、そうだ、ビオラが気温を下げてくれたおかげで出血が緩やかになった。多分。だから、私は死んでない。私は生きている。ありがとね、みんな」


「リナ……」


「リナちゃん……」


「お姉様……」


 三人が私の名を呼ぶ。よし、詭弁はろうせた。綺麗にまとまれ。


「答えになってない気がしますが……リナは私が……私達が守れたんですね……」


「リナちゃん……うん、よかった……ありがと、生きててくれて……」


「多分って何、お姉様。多分って?」


 三人が思い思いを口にする。よし、完璧。


 そうは言ってもまだ不満げな表情を浮かべている皆を、私は優しく引き剥がし、話題を変える。


「さて、レザリア。『西の森』の地図、余ってたら一枚貰いたいんだけど」


「はい、ありますが……どうしました?」


 私はとりあえず上着をかぶり、メルを呼ぶ。


「メル、ちょっとこっち来て」






「どうしたの、リナちゃん?」


 不思議そうな顔をして付いてくるメル。私は壊れた壁をまたぎ、小屋の裏手にメルを連れていく。


「メル、さっき約束したよね。『ここを切り抜けたら教えてあげる』って」


「……!……もしかして……!」


「うん。ここに行きなさい。きっと会えるはずだから、ルネディに」


「……リナちゃん! リナちゃん!」


 メルが私に抱きついてくる。暖かい。ちゃんと生きているんだ、彼女も。


 私は地図に印をつけ、メルに妖精王様の場所を教える。妖精王様の事は懸念材料ではあるが——ルネディもいるし、なんとかしてくれるでしょ。


「——で、ここが私達の家。誠司さんはああ言ってくれたけど、しばらくはこの近くには近寄らない方がいいと思う。やっぱり誠司さんにとって『厄災』は憎むべき相手だから……」


「うん、大丈夫。セイジちゃんの気持ちも分かるから。ルネディにも会えたら、暴れないように言っておくね」


「……うん。いつか——近いうちに会いに行くからって言っておいて」


 そう、近いうち、私はもう一度アルフさんに会わなければならない。そして、真偽を問いただすのだ。彼の秘密にしている事を——。











 誠司は一人、砂浜でたそがれる。


『厄災』を許してしまった。莉奈を斬ってしまった。私は、私は——


「——私はどうしたらいいんだ、エリス……」


 ——波はただただ穏やかにさざめき、何も答えてはくれなかった。








これにて第八章完。


あとエピローグを二話投稿で、第二部終了となります。


よろしくお願い致します。

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