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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第二部 第七章
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氷上の妖精達 07 —最上の奇跡—






「ライラ! ライラ! ライラぁーっ!!」


 莉奈は叫んだ。ライラが落ちた付近を旋回しながら叫び続けた。


 何処だ何処だ何処だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。私のせいだ私のせいだ私のせいだ、私がちゃんとしていれば!


 ライラ、お願い、返事をして。もう、私の前から誰もいなくならないで——。


 莉奈が居ても立っても居られず、当てもなく海に飛び込もうとした、その時だった。


 何故か(・・・)、海面に大きな氷床が浮かび上がってきた。そしてその中心には、杖を抱えて座り込むライラの姿があった。


「ケホッ、ケホッ……」


 海水を飲んでしまったのか、咳き込むライラの元に莉奈は急いで飛び降りる。


「ライラッ、ライラッ!」


「……ケホッ、リナぁ」


 莉奈はライラの背中をさすりながら、その身体を強く抱きしめた。暖かい。生きている。よかった。


「ごめん、ごめんねライラ。私がちゃんとしてれば……ごめんねえ……」


「ケホッ……ううん、私がいけないの。ごめんなさい」


「ううん。よかった。よかった……」


 運良く(・・・)、ライラは無事だった。この氷床のおかげだ。


 でも、なんで——いや、今はそんな事どうでもいい。こうしてライラが無事だったのだから。


 莉奈はライラを再び強く抱きしめるのだった。






 砂浜からライラ達の様子をうかがっていたシャーロンは、息を吐く。無事だった様だ、本当に良かった。


 さて、後は海竜だけど——とシャーロンが海竜の動きを見ようとした時だった。レザリアが叫ぶ。


「——海竜が逃げます!」


 耳に手を当て、通信魔法で皆に伝える。レザリアは、のそりのそりと逃げゆく海竜に矢を放つが、何本かは刺さるものの、その動きを止めるには至らない。


 シャーロンは海竜を睨む。ここまでみんなが頑張って追い詰めたんだ、逃がす訳にはいかない。


 彼女は決意し、ビオラに通信魔法をいれた。


「——ビオラちゃん、降りてきて。手伝って欲しい事があるの」

 





『——海竜が逃げます!』


 そのレザリアの通信を、莉奈はもはや他人事の様に聞いていた。


 ビオラには申し訳ないけれど、逃げるなら逃げればいい。今はライラが無事なら、それでいい。


 もしかしたら、あのままライラを失ってしまう未来もあったのだろう。考えるだけで怖い。もう、無茶は出来ない。


 莉奈がそんな事を考えながら、ライラの背中を撫でたその時だった。ライラが優しく莉奈をほどき、立ち上がる。


「——リナ、なんとかしなきゃ」


「ライラ……もう危ないから……」


「ん? リナらしくないなあ。ねえ、リナ。何か作戦ないの?」


「……また来た時に倒せばいいよ」


 ライラの手を掴みながら、莉奈はうな垂れる。そんな莉奈の頭をライラは一撫でして、彼女に語りかけた。


「あのね、リナ。ここで倒さないと、もうチャンスがないかもしんない。ビオラが言ってた。アイツのせいで村が大変な事になったって。それに——」


 ライラは海竜を睨む。


「——お父さんやお母さんだったら、最後まで戦うと思うの。多分だけどね」


「ライラ……」


 莉奈は力なく立ち上がり、海竜を見る。動きこそ遅いものの、海竜の身体は海へと沈んでいっていた。もうすぐ浅瀬を抜けてしまうだろう。


 ライラの気持ちは分かった。莉奈としても何とかしたい。


 でも——海竜が逃げに徹しているこの状況では、打てる手がない。


「ごめん……何も思いつかないや」


「リナ……」


「道でも出来ない限りは、もう——」



 ——その時だった。奇跡が起きる。



 莉奈が驚く。ライラが驚く。


 莉奈の願いが通じたのか、砂浜からもの凄い速さで道が伸びてくる。その道は海竜を巻き込み、莉奈達のいる氷床まで一瞬にして繋がった。


 それは莉奈が思い描く中で、最上の奇跡。



 ——海に氷の道が出来た。



 ビオラから通信が入る。


『——お姉様、道を繋げたわ! これで何とかならないかしら!?』


 あまりにも都合の良すぎる奇跡。


 だが、この機会を逃すわけにはいかない。莉奈はビオラに通信を返す。


「——ありがとう、ビオラ。勝利確定だ」


『——お姉様……!!』


 莉奈とライラは互いに頷き合い、氷の道に閉じ込められて身動きのとれなくなっている海竜の元へと駆け出した。


 莉奈は駆けながら、ライラに話しかける。


「欲を言えば、私達だけで倒せれば良かったんだけどね」


「ふふ。いいんだよ、倒せれば。後でお話し、聞かせてね!」


 ライラの言葉に、莉奈は微笑みを返す。この状況、ここが私達の、切り札の切り時だ。


 そしてライラは、海竜を殺す為の魔法を唱える。



「——『子守唄の魔法』」






 ライラは光に包まれ、その直後、誠司が顕現けんげんする。現れた誠司は、一瞬にして殺気を解き放った。


「——これは、どういう事だ。莉奈」


「誠司さん、ごめん。あの海竜の首を斬って!」


「……海竜?」


 誠司は駆け出しながら、状況を把握しようと努める。なんだ、この状況は。何でこんな事になっている。


「……チッ」


 誠司は舌打ちをし、海竜に向かい駆ける。


「ギィヤオオォォーーッッ!!」


 海竜が最期の雄叫びを上げる。誠司は速度を上げ、刀の柄に手をかけた。



 —— 一閃。



 動けない竜など、誠司の相手ではなかった。海竜の首が斬り落とされる。竜の身体から魂が抜けていく。


 その残された憐れな竜の亡き骸は、ブスブスと音を立て魔素へと還り始めていった。


「さんきゅ、誠司さん!」


 だが——竜の命を刈り取った事を確認した誠司は、砂浜へと全力で駆け出して行く。


「あれ? ちょっと、誠司さん!?」


 莉奈の声も聞かず、駆け続ける誠司。莉奈も慌てて空中を飛び、その後を追う。


「どうしたの、誠司さんっ!」


 莉奈の声が届かない。砂浜に着いた誠司は驚く周りを余所に、一人の女性の元へと駆け向かう。



 そして刀を抜き——



 ——その刀は、シャーロンに向かって振り下ろされた。



 シャーロンは信じられない跳躍力で後ろに飛び退き、その刃を躱す。


 誠司はシャーロンを睨み続ける。やっとの事で追いついた莉奈が、声を上げる。


「何してんの、誠司さんっ!」


 しかし誠司はその言葉を無視し、忌々しげに吐き捨てた。


「——貴様が何故ここにいる……『厄災』メルコレディ」





 ——そう、『厄災』はいつだって、突然やってくる。






第七章完。

次回より第二部最終章、第八章が始まります。


よろしくお願いします。


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