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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第二部 第七章
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氷上の妖精達 02 —袖振り合うも—






 四人は海辺でふざけ合う。


 レザリアにはホルターネックの水着を用意してあげた。


 温泉で抱きつかれたのだ、大体の彼女のサイズは分かっていたつもりだったが——やはり、それなりに大きい。


 自称着痩せするタイプの莉奈とは違い、彼女こそ本当に着痩せするタイプなのだろう。莉奈は歯ぎしりをしながら、レザリアに水を掛ける。


「食らえ、レザリア!」


「わ! わ、しょっぱいです! 何ですかこれ!」


「あはははは!」


 遠くからライラが物凄いスピードで泳いでくる。


 莉奈は泳げないライラに、浮き輪を用意してあげていた。元々運動神経のいいライラだ、今は楽しそうにバタ足で泳ぎまくっている。


「バタバタバタバタバタ〜〜」


「出ましたね、妖怪『バタバタ』!……わっぷ! こら、待ちなさあーい!」


 すれ違い様水を掛けられたレザリアは、ライラの後を追う。意外な事に、レザリアはそこそこ泳ぎが得意だった。


 彼女曰く、「湖の底まで潜る事もありますので」だそうだ。


「ほらあ、あんまり沖の方まで行っちゃ駄目だよー」


「「はーい!」」


 元気良く返事をする二人に、莉奈はため息をつく。そんな様子を見たビオラは、楽しそうに笑った。


「ふふ。あの二人、元気がいいわねお姉様」


「いやあ、元気よすぎでしょ。どう、ビオラ。楽しめてる?」


「ええ、とっても!」


 そう言って笑うビオラの笑顔は、眩しい。


 莉奈は深くは聞いていないが、孤児として拾われ『南の魔女』の後継者としての才能を見出された彼女は、幼少期の頃から魔法の訓練に明け暮れていたらしい。


 そのせいで、こうやって人と触れ合う機会にはあまり恵まれなかった様だ。


 ナーディアはそんな彼女を気の毒に思い、ビオラに事あるごとに謝っていた様だが——別に彼女自身はそれを全く気にしていない。「だって、お婆様がアタシにとっての全てでしたもの。毎日が楽しかったわ」とはビオラの弁だ。


「さ、そろそろお昼だし、ご飯にしよっか」


「あら、もうそんな時間なのね。あっという間だわ」


「ほんと、あっという間だねー。はーい、みんなしゅうごーう!」


 こうして海を満喫している彼女達は、近くの今は誰も使っていないであろう朽ちた小屋に入り、持ってきた昼食を広げて休憩をする。


 すっかりボロボロで雨風が凌げる程度だが、着替えの時にもお世話になった小屋だ。陽はまだ高い。海はまだまだ楽しめそうだ。





「ライラ、まだ眠くないの?」


「むん。ふぇんふぇんにぇみゅきゅにゃい」


 サンドイッチを頬張りながら、ライラは返事をする。


 今朝、料理の特訓の続きと称して莉奈とビオラが作ったものだ。完成した時、二人がハイタッチを交わすぐらいにはなかなか上手に出来ている。


 ライラは昨晩から起きっぱなしだ。それを心配して莉奈は聞いた訳なのだが、ライラはサンドイッチを飲み込んで続ける。


「んっ。ご用事も終わったみたいだし、そろそろ昼型の生活に戻そうってヘザーが。それにお父さんには悪いけど、海、楽しいもん!」


「そっかあ。まあこの中に誠司さんいても、気まずいだろうしねえ」


 誠司の事だ。若い水着姿の女性に囲まれた所で変な気は起こさないだろう。


 それどころか、離れた所に行ってしまうか、最悪村に停めてある馬車へと戻ってしまうかもしれない。


 いや、照れる様だったら、からかうのもアリか——そんな事を考え、莉奈はほくそ笑む。


 その時だった。なんとなく剥がれ落ちた壁から外を眺めていたレザリアが、緊張を帯びた声で皆に告げる。


「——誰か、来ます」


 その声に、一同はしんと静まり返る。やがて莉奈が、恐る恐る口を開いた。


「誰かって? 地元の人じゃなくて?」


 その質問に、レザリアは外から目を逸らさずに答える。


「どうでしょう。ただ、真っ直ぐこちらを見て向かって来ています」


 そこまで聞いて、莉奈も外を覗き込む。しかし——


「え、どこ。全然見えないけど」


「まだ、かなり遠くです。私達エルフ族は目がいいですから。大体、三、四百メートルぐらい先でしょうか」


 そんなにか、と莉奈は驚き自身にも魔法を掛ける。


「——『遠くを見る魔法』」


 見えた。その人物はケープらしき物を羽織り、フードを被っている。


 そして、顔までは分からないが——確かにこちらに向かって歩いて来ている様だ。


「この小屋の持ち主だったり——」


 そこまで莉奈が言いかけた時だった。その人物は光を帯びた様に見え——突然倒れた。


 その様子に、莉奈とレザリアは顔を見合わせる。


「私、ちょっと様子を見てくる」


「リナ……私も行きます」


「うん、ありがとレザリア。ライラ、ビオラ。二人とも大人しく待っててね」


 莉奈の言葉に、二人は心配そうに頷いた。


「リナ、気をつけるんだよ!」


「何かあったらすぐ呼んでね、お姉様」


「オーケー、んじゃ、行ってきます!」


 二人に声を掛け、莉奈は飛び立つ。その後を追うように、レザリアは駆け出した。

 




 やがて先に莉奈が、倒れた女性の元へとたどり着いた。莉奈は慌てて、うつ伏せに倒れている女性を助け起こす。


「大丈夫ですか!?」


 莉奈が女性を抱えると、女性のフードが外れた。この長い耳は——魔族だ。歳はライラと同じくらいだろうか。綺麗な薄い青髪に、とても美しい顔立ちをしている。


「リナ!」


 後ろからレザリアの声が聞こえる。そのタイミングで、女性が眉をしかめて声を漏らした。


「……う……ん」


 どうやら意識が戻った様だ。莉奈はとりあえずホッとする。遅れて到着したレザリアも、彼女の顔を覗き込んだ。


「魔族の方……でしょうか」


「うん……そうだと思う」


 と、その時突然、悲鳴を上げながら女性がガバッと飛び起きた。


「きゃあぁぁっ!」


 叫び声を上げた女性は頭を押さえ、震えている。その尋常ではない様子に、莉奈は驚きながらも声をかけた。


「あの……大丈夫?」


「……え?」


 女性は莉奈の声に反応し、頭を上げ辺りをキョロキョロと見回す。そして、まるで独り言の様につぶやいた。


「……ここは……わたしは……何で……」


「……ええとね、ここはスドラートの海辺。あなたはここを歩いていて、突然倒れたんだけど……覚えてない?」


「……え?……スドラート……うん、そうだ、スドラートだ。あなた達は? それに、あの男の人は? あの女の人達は?」


 その女性の言葉に、莉奈はレザリアと目を合わせた。彼女の他に人はいなかったはずだ。レザリアが首を振ったのを見て、莉奈は女性に説明をする。


「私は莉奈。そんでこっちがレザリア。海で遊んでたの。私達が見た時は、あなた一人だけの様に見えたけど……」


「……遊びに……どういう事?……わたし一人……」


 彼女は呆けた様子でブツブツとつぶやく。その様子を見た莉奈は、まさか記憶喪失か? と疑い彼女に尋ねた。


「ねえ、あなた自分の名前は分かる? 覚えているかな?」


「……うん……わたしは……シャーロン。わたしの名前はシャーロン。ええと、リナちゃん、レザリアちゃん。あなた達が助けてくれたのね」


「ううん、助けたって程の事はしてないよ」


 その時、シャーロンのお腹がぐうっと大きな音を立てた。彼女は困った顔を浮かべてうつむいてしまう。そんな彼女に莉奈は笑顔で申し出る。


「もしお腹が空いてるんだったら、私達ご飯を食べている所なの。よかったら、一緒にどう?」


 シャーロンは莉奈の申し出に困惑した様子だったが、よっぽどお腹が空いているのだろう。彼女はお腹を押さえながら莉奈に尋ねる。


「……本当にいいの? わたしなんかが」


「もちろん、いいよ!」


「……ありがとう!」


「うん、じゃあ歩ける? ついてきて!」


 こうして莉奈達は行き倒れの女性を小屋に招き入れる。


 袖振り合うも多生のなんとかだ、莉奈はそんな事を思いつつ、シャーロンを支えながら扉を開けるのだった。





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