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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第二部 第六章
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『南の魔女』 02 —燕は飛び立つ—









 翌日の昼過ぎ、莉奈達はサランディアに着く。ここで必要な物を揃えて、二日程掛けて南下する予定だ。


 今回の旅は、莉奈に誠司、そしてヘザー。


 ヘザーは最初、引き続き留守番をするつもりでいたが、誠司の『君は行くべきだ』との台詞を受けて同行する事となった。


 そうなると、研究に没頭しているカルデネや、馬房を造っているドワーフ達を放って置くわけにはいかない。


 なので、留守番は必然的にレザリアにお願いする事になる訳なのだが——当然彼女は、着いて行きたいと駄々をこねる。


 困った莉奈は、サランディアにクエストを報告する間だけでも、と誠司を説得。そして、必要があればヘザーのバッグで送り迎えするからとレザリアを宥めすかした。


 それもこれも、前回の人身売買、そしてルネディ戦にて、莉奈が無茶をしてしまった事に起因するのだが——まあ、今回は『南の魔女』に会いに行くだけだ。何も問題はないだろう。


 ——こうして、莉奈とライラ、そしてレザリアは再び冒険者ギルドの前に立つのだった。











「たのもー!」


 前回に引き続き、威勢よく扉を開けるライラ。やめて、恥ずかしい。私は顔を覆う。


 その声に一斉に私達の方を見る冒険者の皆さん達。そこかしこから「白い燕だ……」という声が聞こえてくる。私はたまらずに早足で受付へと向かった。


 だが、何人かは立ち上がり私の後を興味津々でつけてくる。いや、やめなさい、納品しに来ただけだから。


 受付には前回と同じく、クロッサさんが座っていた。クロッサさんは私に気付き、軽くお辞儀をする。


「いらっしゃいませ、『白い燕』さん。今日はどうされましたか?」


「いえ、私は『ただの一介の冒険者の莉奈』です。ええと、クエストの納品に来たんですが……」


「あ、はい。ではお預かりしますね——」


 私達は採取してきたトキノツルベと、その他何点かの薬草類をクロッサさんに渡す。クロッサさんは、魔導書とクエスト一覧を広げ、照会を始めた。


 やがてクロッサさんは、別のギルド職員に耳打ちをする。それを聞いたギルド職員は、クエストボードに向かい貼られている何枚かのクエストの紙を剥がした。


 その様子を見た冒険者達が、ざわめき始める。


「……おい、二年間手付かずだった『トキノツルベ』の採取が剥がされたぞ……」


「……ああ、俺も注意深く探してはいたんだが……どこで見つけたんだ?」


 うん、これに関してはレザリア様々だ。驚くがいい。私は少し鼻を高くする。これは純粋に、私達パーティーの正当な評価、って事でいいよね。


「はい、どれもこれも状態が良いですし、満額で問題ありませんね。ありがとうございます。報酬金を振り込みますので、一括の場合は代表者の方、分配の場合はパーティーの方全員のギルドカードの提示をお願いします」


 どうやら報酬金はギルドカードに登録されるらしい。それを銀行みたいな所で引き出す仕組みだ。


 私達程度の報酬金ならまだいいが、難しいクエストの場合は大量のお金が動く事になる。そのお金をその場で、というのは色々と問題があるのだろう。


 私は二人に振り返る。


「ねえ、どうする? これ、ほとんどレザリアの手柄だよね?」


「何を言ってるんですか、リナ。私は場所をたまたま知っていただけですし。そもそも私は、お金は要りませんよ」


「私もいっかな。お父さんのお小遣いだけで十分だし。そうだ、リナ。私に何か買ってよ。楽しみだなあ!」


 なんだこいつら。神か。とは言っても、それは私の心が許さない。私はクロッサさんに言う。


「分配でお願いします」


「「えー!」」


 ——この二人は、私と一緒に何かをするのが楽しいんだろう。それは私も一緒だ。だが、これは労働である。多分。その対価を受け取るのは当たり前だ。


 そんな私達のやり取りを見て、冒険者達から「おー」と感嘆の声が聞こえる。こらこら、見せ物じゃないぞ。


「はい、それでは皆さん、ギルドカードを出して下さい。ついでに倒した魔物の精算も行いますが……よろしいでしょうか?」


「あ、はい。お願いします」


 そう言えば、魔物を倒せば実績と、あとわずかながら報奨金が出るって話だった。その為に、私達は必死でパタパタしたんだった。そういや後でニーゼにもお金分けてあげなきゃな。


 私達はギルドカードをクロッサさんに渡す。それらをクロッサさんは手慣れた様子で魔道具にかざしていった。ピピッ、ピピッと音が鳴る。


 そして、それはピピッと私のカードをかざした時だった——。


「……ヴァ、ヴァ、ヴァ…………」


 クロッサさんが口をパクパクさせる。まさか。そのかしら文字から何を言いたいのかを察した私は、慌ててクロッサさんの口をふさいだ。


「……あの……落ち着いてね、クロッサさん。大声出さないで下さいね?」


 私の言葉にコクコクと頷くクロッサさん。私の手を優しくつかんで口から離し、深呼吸をする。ふう、危ない、危な——クロッサさんは大声を上げる。


「——ヴァナルガンドを討伐したですってえ〜〜っ!?!?」


 ギルド中に響く声。固まるギャラリー達。


 ——やってくれたな、クロッサさん。私は目を覆う。もしかして、わざとやってる?


 私は再び口をふさごうと手を伸ばすが、クロッサさんはヒラリと避けた。くそっ。私は周りに聞こえる様に言い訳をする。


「違うんです、倒してないです、倒してないですってばっ!」


「けど……討伐……少なくとも致命傷に近い傷を負わせなければ、記録はされませんが……」


 ——確かに、ヴァナルガンドさんの尻尾の付け根をザクザク刺した時に、黒い魔素みたいなのが立ち昇ってきてたけど……えっ、あれってそんなに深い傷だったの?


 んー、何と答えようか、と悩む私。だが——レザリアが自慢げに口を開いてしまった。


「はい、リナ——『白い燕』は、ヴァナルガンド様を倒しました。しかも、単独で」


「いや、単独じゃないでしょ!」


 ハッ、しまった、思わず突っ込んでしまった。これでは認めてしまった様なものではないか。気がつけばギルド中の人達が集まってきてしまっていた。周りから集まる視線。またこの流れかよ。


 レザリアはコホンと咳払いをし、語り出す。


「——確かに、私達は『白い燕』の指示を受けながら、ヴァナルガンド様と戦いました。しかし、不甲斐ない私達は、ヴァナルガンド様に手も足も出なかったのです」


 レザリアの語りに聞きいる聴衆。くそっ、今回ばかりは全力で否定させてもらうからな。あれ、そういえばライラの姿が見えない。どこ行った?


「——しかし! そんな私達を見かねたリナはっ……」


 レザリアがそこまで語った所で、トイレの扉が開く。


 なんてことのない風景のはずだった。


 だが、そのただならぬ気配に周りの全員が注目する。


 そこから出てきた男は欠伸あくびを噛み殺しながら、頭を掻いてゆらりと歩いて来る。そして周りを見回しながら、眠そうな目でつぶやいた。



「——随分と懐かしいな、ここも。何人か見覚えのある顔もある様だね」



 ——その作務衣さむえ姿の男は、メモを片手に私達の方へと近づいて来る。言うまでもない——誠司さんだ。






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