出会い系で連絡していたのは昔の妻でした
俺は出会い系サイトを使おうとしている。妻はいるがまだ連絡はしていないし出会ってもいないから浮気にはならないだろう。
妻に不満があるわけではない。むしろ良妻だと思う。料理は上手だし、掃除洗濯家事は完璧。その上娘の面倒も見てくれている。もちろん俺も娘と一緒に出かけたり家事は分担したりしているが妻には敵わない。
俺はそんな妻に必要なのか、もっと素敵な人がいるのではないかとつくづく疑問に思う。出会い系アプリを使う動機があるとすれば一つはこれだろう。もう一つはあるコマーシャルに単純に惹かれた。
「あなたの運命の人がわかります。アプリを使っている人の中から性格、顔、名前、生年月日等から運命の人を紹介します」
何故引かれたのかはわからないが趣味すらなかった自分には印象的であった。
早速そのアプリを開いてプロフィールや写真の登録を完了させた。
「するとすぐに99%相性が良い方がいます」 と表示されている。
どんな人だろうと画面をタップしプロフィールを見てみた。すると、名前、趣味、顔、誕生日、全てが一緒の妻がそこにいた。一瞬見間違いかとも思ったが付き合ってから数十年ずっとみてきた顔だ。見間違えるはずがない。
もう一度確認すると一つだけ妻とは違う箇所があった。それは年齢だ。今年で彼女は30歳。しかし、連絡をとっている彼女は23歳と書かれている。俺はそんな彼女に不思議と惹かれ、連絡を取ることにした。
「初めまして!このアプリで運命の人と紹介されたのでメッセージを送ってみました!梶原光輝です!是非ご返事待ってます!」
初めての出会い系アプリにしてみればそれっぽいメッセージを送れたと自画自賛している。
時はたち1時間後、23歳の妻から連絡が来た。心臓がバクバクする。小学生の時シャトルラン前が始まる前のバクバクに似ている。
「メッセージありがとうございます。私も運命の人と言われて興味があったので返事させていただきました。まずは光輝さんのお話を聞きたいです」
おおー。俺は普通に感動した。出会い系アプリとはこんなにも簡単に会えるのかと。
だが、一つ疑問が生まれた。顔も趣味も何もかも一緒だが年齢だけが違う妻とどのようにして会うのだろうと。まだその段階には至っていないがその内そういう話題になってくるはずだ。まーその時はその時だと気楽に考えることにした。
「吉野美雪さんは今、どんなお仕事されているんですか?自分は広告代理店です」
美雪は俺との出会いが取引先の相手だったから不動産会社のはずだがまだ妻かどうか確かめる必要があるため聞いてみることにした。
「私は不動産会社です!光輝さんが広告代理店ならいつかお会いするかもしれませんね」
そのまさかお会いするんだよなと思いながらメッセージを読んでいた。
確か俺たちが会ったのが5年前で俺が27歳、妻が25歳の時だからちょうど2年後に出会うことになるのか。
「美雪さんはお付き合いしたら行きたい所とかありますか?」
攻めすぎかなとも思ったがどうしても聞きたかった。今の妻はあまり行きたいところを話してくれない。家族で出かけることはあるが毎回、娘の好きそうなところもしくは俺が行きたいところになる。妻は楽しそうにしてくれるがたまには妻の行きたいところにでも行ってみたいと考えている。
「んー。好きな人とならどこでも行きたいです!」
昔から妻は変わっていなかった。初めて会った時も光輝さんの行きたいところがいいですと言っていたなとふと考えた。
「でも、強いて言うなら美味しいものを食べに行きたいです」
初めて知った。出会ってから今までずっと過ごしてきたが食べることが好きなんて初めて聞いた。この時俺はまだ、彼女のことを全然知らないことに衝撃を受けた。
「そうなんですね!俺も食べること好きですよ!あと他にも聞きたいことがあるんですよ——」
それから俺は昔の妻がどのような人物だったのかいろいろ聞いた。それに応えてくれた妻も妻だが、とても優しくなんでも答えてくれた。
食べることが好き。子供が好き。可愛いものが好き。お酒が好き。海が好き。魚より肉が好き。お祭りが好き。
色々聞いたのちに俺はそのアプリをそっとアンインストールした。美雪には悪いが2年後俺と出会った時に俺に埋め合わせをしてもらおう。
アプリをアンインストールした俺は居間にいる妻に話しかけた。
「今度の土曜日、何か美味しいものでも食べに行こうか」
美雪は普段あまり表情を変えないが目を丸くして驚いた顔をしていた。
「美輝はお義母さんが預かってくれるって」
「どうしたの急に?」
「最近美雪の行きたいところに行けていないと思って、食べること好きでしょ?」
あのアプリを始めた理由はクズだったしれないが俺はあれのおかげで大切なものや妻のせいにして自分に劣等感を抱き変わることを忘れてしまっていたことに気づかせてくれた。
「私と初めて話した時のこと思い出してくれたのね。許してあげるわ」
許すというのは好きなものを知らなかったことに対してなのかアプリを使っていたことに対してなのか美雪は多くは語らなかったがきっと気づかれていたのだろう。美雪にはやはり敵わないと再認識させられた。
「お酒沢山飲むから付き合ってよね」
「もちろんいくらでも付き合いますよ」
今度は家族三人で海にでも行こうかな。美輝は初めてだけどきっとすぐ好きになると思う。だって美雪似だから。




